5
セナは何もない玄関の隅に声を掛ける。
「なんで貴方は出てこないのかしら?」
セナの言葉を聞いたユウリとルランは彼女が声を掛けた玄関の隅に警戒するような眼差しを向ける。翔琉は楽しそうに笑みを深めるが、凪は無表情のままだ。
(どうやったら翔琉さんと青羅さんの間にこんな無表情男が生まれるのかしら?莉葵さんは二人に似ていつもニコニコしてるし…やっぱり異能が覚醒してしまったことと関係あるのかしら?)
青羅とは翔琉の妻だ。月守組の姐さんでセナのことを気に入っている。莉葵は凪の一つ上の姉で、一年程前に凪と同じようにセナに奇襲を仕掛けている。姉は両親にとても性格が似ており、セナに奇襲をしたことを全く悪いと思っていない。
「なぁ、なんで俺がここにおるってわかったん?」
セナが声を掛けた玄関の隅から栗色の髪に焦げ茶のたれた瞳をした甘い顔立ちの男が出てきた。
何もなかった空間から男が出てきたことにユウリとルランは驚いたように目を見開く。
(コイツも学校で見たことあるわね。そして、異能者、と。うわっ、異能者が五人も揃うってどういう偶然よ?)
セナは凪に覚えた懐かしさを栗色の髪の男には覚えなかった。
「気配に敏感なだけよ。そんなことより、翔琉さん、莉葵さんを私に紹介した時もこんなことをしましたよね?青羅さんも今回は共犯ですか?」
セナは栗色の髪の男からの質問をさっさと流し、翔琉に今回の奇襲は一人で計画したのか、青羅達も関わっているのかを訊く。
「よく分かったね。今日は青羅と莉葵は仕事で出かけてるんだ。」
翔琉は自分の妻と娘が計画に関わったことをアッサリと肯定した。前回、莉葵の紹介の時の奇襲は翔琉と莉葵で計画した。しかし、それを後で知った青羅が次は自分もやると翔琉に文句と共に宣言した。仲間外れにされたような気がして悔しかったらしい。
(莉葵さんの奇襲から三日ぐらい青羅さんに構われ続けたのよね…今回は青羅さんが私の拠点に乗り込んでくるなんてこと、起こらないわね。)
セナは青羅が拗ねて自分にずっと構い続ける、というとんでもなく面倒な事件が起こらないことに安堵した。
「まぁ、まずは上がってよ。君に依頼があるんだ。」
翔琉の言葉でその場にいる面々は屋敷に上がった。月守組組長自らセナ達を部屋に案内し、茶を淹れる。この事態にセナの顔を知らない者達も彼女が只者ではないと察した。廊下ですれ違ったり、彼女がいる部屋の前を通る時は一礼するなどしっかりと教育されたとわかる動作を行っていたのだ。
「で、今回の依頼は凪からよね?翔琉さんはその顔繋ぎ役ってとこかしら。」
「うん。正解だよ。そこまでセナちゃんが分かってるなら僕はもうお役御免かな。じゃ、あとは若い人同士でごゆっくり〜!」
翔琉は自分の分のお茶を飲み干すと部屋を出ていった。お茶菓子もしっかりと食べていく所など抜け目がない。
翔琉が出ていくとその場を沈黙が支配した。セナは気まずい空気などお構いなしにお茶を飲み、用意された茶菓子を食べる。ユウリとルランが事前にセナが甘いものはあまり好きではないことを伝えていたのか、甘さがとても控えめなものだった。その二人はセナの隣にそれぞれ正座で気配を薄くして座っている。
「なぁ、自己紹介せぇへん?」
沈黙に耐えかねたのか、栗色の髪の男が対面に座るセナ達に自己紹介を提案した。
「俺は月海夏弦っちゅうねん。ほら、凪も自己紹介しいや。」
セナが気にせずお茶を飲んでいると夏弦が自己紹介を始めた。促された凪も対面に座るセナ達に視線を向ける。
「月守凪だ。」
凪は自己紹介をしたが、それはセナが零華として学校で行った自己紹介以上に短かった。
セナはお茶を飲み終え、茶菓子を食べ終えてからやっと対面の凪と夏弦に視線を向けた。
「私はセナ。貴方達は知っているでしょうけど、裏の何でも屋よ。」
「僕はセナ様の助手兼弟子のユウリと申します。」
「私も同じく、セナ様の助手兼弟子のルランと申します。」
セナの自己紹介にユウリとルランの二人も続く。そして、二人は再び気配を薄くした。一応、今は月守組の組長に正式に招待された身だ。それに何より、ユウリとルランの二人がセナの静観しろという命令を無視できるわけがないのだ。
三人が自己紹介をした所でやっと、本題について話す準備が終わった。




