竹馬の友こそ信ずるなかれ Part2 ???視点
「さてと、俺らが調べたことを教えてやる。つっても、時間の割に得たものはすくねぇけどな。」
「御託はいいからさっさと報告してもらえる?」
「まぁまぁ落ち着けよ。次の輸送まではもう少し時間に余裕はあるんだぜ?」
セイは人を煽るために言葉を選んでいる。余裕を失うと周囲への警戒が散漫になる。そうなれば、必然的に今回隠したいことを隠しやすい環境になるからだ。
「その根拠は?」
「お前も知ってるだろぉ? 収容所の職員達は効率重視だ。いくら咲葵に異能者の才能があるっつってもなぁ、ある程度は試してから本部に運ぶはずだ。」
そこから先は説明がなくても理解できてしまう。少しでも収容所に関わった者ならば。
「天竺桂財閥のご令嬢の精神は簡単に折れてしまえるものではないわ。一ヶ月もあれば異能者になる可能性が高い。そして、それを彼女は拒まないでしょうね。」
咲葵には異能を拒む理由がない。
「兄妹は似るものなのかしらね。」
その呟きは小さく、セイには届かなかった。
「さてと、そろそろ俺らが調べてたことの結果報告でもすっかねぇ。」
セイの雰囲気が変わった。人を煽って楽しむ気安さが消え、裏の情報屋の顔になった。
「お前の予想通りだ。今頃、白愛さんとこで骨抜きにされてる男は異能者と接触していた。収容所所属の、な。」
ここまではセナもセイも予想をしていた範疇だ。だが、セイの表情は硬い。
その表情が演技か、はたまた本心か、それを見抜く材料は自分で集める他ない。
「どうして断定できたのよ?」
「歩き方だよ。俺らも散々矯正されたろ? 普段から意識しろって。」
「そう。なら、映像を見せてもらえる?」
セイの表情が凍った。瞬き一つの間にも満たない時間だったが、付き合いの長いセナにはわかったのだろう。
穏やかな笑みを消し、真剣な表情で言葉を続ける。
「貴方は手に入れた証拠を必ず手元に残しているわ。昔も、そうやって生きてきたのだから。そして、今回私は協力者。情報の共有は大事でしょう?」
「収容所所属っつったが、序列持ちじゃねぇぜ。だから「見なくていい、と?」」
セナの表情が明るくなった。
対照的に、セイの表情は強張っていく。
「歩き方だけでは序列持ちかそうじゃないかはわからないわ。そのことは元序列持ちの貴方はよく理解させられているはずよ。だって――」
クスリ、と嘲笑のような笑みを漏らし、言葉を続ける。
「歩き方の矯正は全員同じ歩き方にするための矯正だもの。」
「俺らが逃げてから変わった可能性もあんだろ?」
「ないわ。」
余裕を取り戻しかけたセイの言葉はセナに力強く否定された。取り付く島さえなかった。
「いい? アイツラは己の頭脳に絶対の自信を持っている人種よ。私達が逃げたくらいではやり方を変えることはないの。」
セナの言葉には妙な実感が込められていた。
普段は微笑みの仮面で全てを覆い隠しているセナが、明確な嫌悪によって顔を歪ませていた。
「七年もずっと、私はアイツラに実験をされ続けていたのよ? 特に、あの二人の考えなんて手に取るように分かるわ。」
ニコリ、とセナは微笑み直す。探り合いを終わらせるためだ。
「貴方がずっと顔を硬くしていたのは今回の件に序列持ちが関わっていたからね? 貴方の反応を見る限り、後釜の子なのかしら?」
コーヒーを飲み干してからソファから立つ。
ドアノブに手をかけ、思い出したように振り返ったセナはいつもの、警戒することができない自然な微笑みを浮かべていた。
「あぁ、貴方が私を囮にしようとしていたことは貸しにしといてあげる。それ以上は、今回ばかりは何も求めないわ。もとからそのつもりだったんだもの。」
それだけ言い残し、セナは今度こそ部屋を立ち去った。
残されたセイは八つ当たりで凪を睨んだ。
「いつまで放心したふりしてるつもりだ? それとも、マジでやってほしいのか?」
「睨むな。それで、セナの心はどこまで読めたんだ?」
セイは不機嫌さを隠しもしないが、感情のままに行動するような愚かさは持ち合わせていない。半ばやけくそ気味で、叫びそうになるのを堪えている。
「異能で干渉するものについてだけだ。記憶じゃなくて魂らしい。」
(魂、か。生命力とはまた別物なのか?)
「記憶にも干渉できるようだが。」
「こっからは推測だが……記憶と魂はセットなんだろ。セナが記憶に干渉できることに否定したことはねぇ。ついでに、俺が異能でお前を放心状態にさせた時に記憶を封印した、的なことも言ってたしな。」
漸く冷静さを取り戻してきたセイは前髪の下、額の端を押さえている。
それを見た凪も額を押さえた。内心では舌打ちをしながらも、それを表には出さない。
「まだ痛いのか?」
「たまに疼く程度だ。凪ちゃんもだろ? セナは治ってんだろうがな。」
(これを一般人に刻ませるわけにはいない。)
二人の額にある、一生消えることのない傷痕だ。誰の目にも、勿論自分の目にも留まらぬように隠している傷は何年経っても悪夢を思い出させる。
(これを刻まれると知っても、咲葵は異能を覚醒させることを選ぶのだろう。)
面識の少ない凪にも、容易に想像できた。
天竺桂財閥会長の一人娘である咲葵は「親」に認められるためならば手段を選べない、と。




