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酔狂〜紫硝の怪物達〜  作者: 紫月 凛
一章〜何でも屋と元若頭様の世話係〜
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「そんなに怒ったら老けてしまいますよ?顕さん、月守組の若頭サマの元世話係サマと言ったほうがいいかしら?」


「それはどこで知ったのですか?」


 顕は先程までの余裕を消し去り、セナを威圧する。セナは相手の逆鱗に触れるか触れないかのギリギリのラインで話を続ける。

 裏の人間は過去に踏み込まれることを嫌っている。なぜなら、"弱い自分"を他人に知られたくないからだ。過去=地雷が裏の常識のようなものだ。それは上手く使えば手駒(奴隷)を得られるが、使い方を誤ると手駒(奴隷)に殺される劇薬だ。

 また、異能者は過去をもっと徹底的に隠す。異能者の場合、自分の過去は地雷を超えて核兵器並みの代物だ。それを知った相手と知られた自分、どちらの命も保証できない。


「どこでしょう?私の情報収集能力、なめないほうがいいですよ。」


「これ以上追及しないのであれば、今回に限り、見逃して差し上げますよ。」


 顕はセナに引き下がることを勧める。これ以上は追及するな、とセナに逃げ道を与える。


(大丈夫…私の過去は誰も知らないから…)


「ごめんなさい。私は今回、依頼を片付ければいけないんです。顕さんは大人だから分かりますよね?」


 それが、答えだった。セナは今、この瞬間、顕に"自分の過去を知る権利"を与えてしまった。裏の人間、それも異能者にとっては死んでも与えたくない権利だ。それを彼女は依頼達成のために与えた。


(ま、こんなの後でどうとでもなるからどうでもいいけど。)



―――最悪()せばいいしね



「そうですか。私の素性を貴方は全て知っている、と捉えて大丈夫ですね?」


「それは顕さんの好きにすればいいんじゃないですか?」


 顕は最終通告をするが、セナは油を注ぐ形で返した。


ギィンッ


 辺りに金属音が響き渡る。


「危ないじゃないですか?」


「全くそうは見えませんが?」


 顕は隠し持っていた短刀でセナの心臓を刺そうと突きを繰り出す。セナはそれをナイフでいなした。しかも、余裕綽々で会話をする。その会話の間にセナはもう一本ナイフを取り出す。そして、彼の鳩尾に刺そうとナイフ振るう。しかし、それに気づいた顕は素早く一歩退き、彼女の手に蹴りを当ててナイフを弾き飛ばした。

 二人は仕切り直すようにお互いの得物(武器)が届かない距離まで離れる。


「はぁ…よく年下の無力な女の子の手を蹴れますね。酷いと思いませんか?私はただ、平和的な話し合いをしに来ただけですよ?」


「どこが無力なんですか?残念ながら、貴方には手加減が必要ない…いえ、できませんので。それに、私の過去を明かしに来た、の間違いてみしょう?」


 セナはさらに油を注ぐべく、小首を傾げて頬に片手を当てる。


(もう少し怒らせないとね。)


「そんなことないわ。私は貴方が両親を殺したことと月守組を裏切「黙ってください。」」


(怒らせすぎたかしら?まぁ、いいや。冷静さを失ってくれるほど、この後私が楽しめるから。)


 顕から顔に貼り付けられていた胡散臭い笑みが消え、殺気がセナに向けられる。得物(短刀)を油断なく構え、その切っ先をセナへと向ける。一般人なら即座に気絶、裏の人間であっても緊張するような場面だ。しかし、セナは最初と変わらぬ微笑みを浮かべて立っている。それによって先程のセナの"無力な女の子"という言葉が彼女自身によって否定された。彼女は顕に勝てるという自信があるから微笑んでいるわけではない。楽しいから微笑んでいるのだ。




―――少女の人格はそういう()()だから―――

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