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紺のスカートにブレザーを着た少女が国内でもトップクラスの進学校である私立光明学園高等部の校舎に入って行く。少女の名は紫夜零華。腰まで伸びた黒髪に陶器のように白く、滑らかな肌。桜色の薄い唇にすっと通った鼻筋、とがった顎。猫のような吊り目、長めの前髪から覗く瞳は黒色だ。人外じみた美貌と眼鏡を掛けていることが少女の冷たい雰囲気を際立たせている。
零華は靴を履き替え、張り出されているクラス名簿を確認する。クラスは六クラスあり、一クラス四十人で構成されている。教室に入ると教室内の人間は皆、彼女に視線を奪われる。しかし、零華はそれを気にせずに無表情のまま、無言で席に着いた。それを見た教室内の人間も各々席に着く。零華は一年生の頃に色々な意味で有名だった。零華は学校に来る時はいつもギリギリに登校している。このことは彼女を少しでも知っている者からすれば常識なのだ。
時間になると始業式が行われる体育館に移動を始める。廊下には大勢の生徒が午前中だけで学校が終わることに浮かれ、グループごとに放課後の予定を話し合いながら移動している。
(面倒…放送でやればいいのに…)
零華は内心で面倒に思いながらも体育館で大人しく校長先生の長い話や生徒会長の話を聞いているフリをして寝ていた。始業式の最後に今年の担任が発表された。零華は興味が全くないため、右から左に聞き流した。教室で教科書が配られ、零華はそれをパラパラとめくる。
「…夜さん…紫夜さん…」
前の席の生徒に名字を呼ばれ、零華は顔を上げた。目が合った生徒は一瞬、零華に見惚れる。だが、周囲の生徒や担任の先生の視線にすぐに我に返った。
「自己紹介、紫夜さんで最後だよ。」
零華はその言葉に無言で立ち上がる。零華が座っている席は窓際の一番後ろだ。窓から差す日光に照らされながら零華は口を開く。
「紫夜零華です。よろしくお願いします。」
名前と形式上の挨拶だけ済ませ、軽く頭を下げると零華はすぐに自分の席に座った。去年、零華と同じクラスだった者達は零華の態度に戸惑うことなくすぐに担任に視線を向ける。零華は基本、無表情で無口なのだ。他の生徒や担任の先生は一瞬、あまりにも短い自己紹介に戸惑ったが、深くは追及しなかった。
「あー…何か聞きたいことはあるか?ないなら今日はもう下校しろ。生徒会か代議会に所属している者は残ってくれ。入学式の最終確認などの仕事があるからな。」
零華は担任の解散の言葉にすぐに席を立つ。教室内の生徒の視線が零華に集まるが、全て無視して廊下に出る。廊下にある自分のロッカーに教科書とノートを全て入れ、廊下をスタスタと歩いていく。
(やっと終わった…)
零華は学校の敷地を出る。少し歩いてから普通の人間なら踏み込むことを躊躇うような薄暗い路地裏に自然な足取りで入って行った。




