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《異能》
それは、その人間特有の力。
多くは後天的に覚醒するが、稀に先天的に持って生まれた異能者も存在する。
覚醒の引き金は、生死の境を彷徨うほどの強い感情を抱くこと。
彼らの見た目は、普通の人間と何ら変わりはない。
唯一の違いは、その瞳。
能力を発動する際、瞳の色は鮮やかな紫色へと変化する。
生死の境を彷徨い、生還した異能者たちは、常人を遥かに凌駕する頑丈な肉体と身体能力、そして異常なまでに強靭な精神を持っている。
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路地の奥に佇むボロアパートの一室に鍵を閉めずに入る。眼鏡をとり、真っ先に浴室に直行。浴室に入ると零華はすぐにシャワーからお湯を出す。最初は刺すように冷たい水が流れてくるが、気にせずに浴びる。排水口に流れていく水は洗髪剤が溶け込んでいるせいで真っ黒だ。零華は濡れた前髪をかき上げる。浴室の鏡には腰まで伸びた銀髪にアメジストのような紫色の瞳の少女が映っていた。
「やっぱりこの色は目立つわね。」
学校での無表情が嘘のように少女は人間が警戒できない、無防備で優しい微笑みを浮かべていた。
紫夜零華という黒髪に黒色の瞳の少女は彼女の表での姿だ。本当の姿は銀髪に紫色の瞳の裏の何でも屋、セナだ。
表で活動する時は基本、髪を黒色に染め、光の屈折を利用して瞳を黒色に見せる眼鏡を掛けている。
「紫色の瞳は異能者の証…ね。先に攻撃してきたのは向こうなのに。」
セナは独り言を呟いてからシャワーを止め、脱衣所で仕事用の服を着た。黒色のワンピースにウエストポーチ、まだ乾いていない髪を適当に絞ってから、セナにとっては唯一の家族とも言える人から貰った簪でまとめる。
(姉さんは生きているのかしら…?大丈夫。私は今、自由だから。)
セナの脳内にあの光景が蘇る。炎の海にのまれた施設、安らかな表情で眠る子供達は二度とその目を開けることはない。醜い大人の悲鳴と怒号の中を自由を掴むために走る、首輪をつけた子供が数人。
そこに広がる地獄絵図。
セナは簪をくれた「姉」の生死を考えかけたが、すぐにやめた。
「自由を手に入れたらもう会わない」と約束したから。
(大丈夫。大丈夫。)
セナはその記憶を頭の片隅に追いやり、何でも屋としての顔を作った。
彼女は裏の何でも屋。裏の仕事を基本は何でも請け負っている。情報収集や人探し、殺しも。依頼主からの依頼と代金が釣り合っていれば手段を選ばずに行う。
―――弱肉強食―――
それが裏の唯一にして絶対の法。裏では表にバレなければ何でもありなのだ。この国、日本で禁じられている個人的な復讐も裏では許される。
この世界には表の社会と裏の社会が存在する。表の社会の人間は所属する国の法律と世界のルールに守られており、多くは裏の社会の存在を知らない。裏の社会の人間の大多数は表から弾き出された人間だ。実力が全てで、弱い者は淘汰される。表の社会のように分かりやすいルールなどいくつも存在しない。信用と実力が全ての世界。だから異能者も息ができる。
異能者は一度覚醒すれば表で差別され、排除される。表の社会では異能者は恐怖と差別の対象でしかない。
存在がバレれば国に全てを管理される。衣食住から婚姻まで、全てを。異能者の人権など認められていない。人間は他とは違うものを恐れ、攻撃する。異能者は普通の人間には絶対使えない異能という特殊能力を持っている。人間達はそれを恐れたのだ。もし、自分達が襲われたら、と。人外に太刀打ちできるわけない。だから管理すればいい、と。
(異能者も一応は人間なのにね。少し体の構造が違うだけで。本当にバカで哀れね。無知で弱い者は。)
セナは内心で表の人間を罵倒しながらキッチンで料理をする。今日は彼女の助手達の入学式があるのだ。助手達は零華と同じ私立光明学園高等学校に入学する。そのための身分証などは裏では簡単に作れる。そういうことを専門に請け負う者もいればセナのように何処かへ依頼せずに自力で作る者もいる。助手達もセナに作り方を教わっているため、自力で作成可能だ。
セナは助手達に入学祝いに手料理を食べたいと言われた。リクエストも聞いてある。強請られた料理がほぼ完成した頃、セナが今いるボロアパートの一室に近付いてくる二人の気配を察知した。
(帰ってくるの早いわね。)
「「ただいま帰りました。」」
セナの助手達が帰ってきた。




