17:夏弦視点
夏弦、ユウリ、ルランの三人はマンションの駐車場に停められた車の中にいる。車は凪と夏弦がマンションまで来る時に乗っていたものだ。
「で、セナ…様と凪をわざわざ二人で残してきた理由はなんや?」
夏弦はユウリとルランが「教えてほしいことがある」と言ったことが建前だと気づいていた。夏弦の問いにユウリは微笑みながら答える。
「知らないよ。」
「ん?なんやて?もう一度聞いてええか?」
夏弦は耳を疑い、聞き返した。しかし、ユウリはそれを無視してルランが弄っているタブレットの画面を覗き込んでいる。
「ルラン、コイツはもう使えないから処分して大丈夫だよ。この前も代金の支払い渋ったし。」
「オッケー。ならコッチの仲介屋ももう用済みかな?」
ユウリとルランはニコニコと花が咲くように微笑んでいる。見ているだけなら目の保養になる光景だ。しかし会話の内容がとてつもなく不穏だ。
「自分ら、何しとんの?」
夏弦のことなど最初から存在しないかのように扱う二人。あまりにも自然すぎて夏弦は一瞬、本当に自分の姿が消えてしまったのでは、と思った程だ。
「無視せんといてくれるか〜?」
夏弦は先程よりも大きな声を出した。すると、ユウリとルランはやっと夏弦の方へ億劫そうに視線を向ける。
「なに?そんなに大きな声を出さなくても聞こえるよ?もしかして夏弦はそんな加減も分からないの?耳鼻科を紹介しようか?」
「ユウリ、本当のことでもそれは言っちゃだめだよ。それにさ、一回で聞き取れなかったんだから、可哀想な夏弦のために優しくもう一回言ってあげてもいいんじゃない?」
(この二人…こんな奴らやったか?)
愛らしい微笑みを浮かべている二人から放たれるのは火力の強い煽り文句だ。セナがいる時とは態度があまりにも違いすぎる。夏弦が混乱していることなどお構いなしにユウリはニコリ、と微笑みながら言葉を発する。
「一回で聞き取れなかった夏弦にはしょうがないからもう一回だけ言ってあげる。セナ様が凪と二人きりになった理由は知らないよ。今度は聞き取れたよね?」
「自分、キャラ違いすぎんか?」
「セナ様以外、私達ご敬う理由もなければ、そんな気も毛頭ないの。それに、セナ様に近づく奴は全員嫌いだから。嫌いな奴に愛想よくする意味ある?」
ユウリとルランは言いたいことを言い終えると再びタブレットの画面に視線を落とす。
「ルラン、リストからアレとソレは消していいよ。昨日片付けといたから。」
「ありがとう。コイツらしつこかったから助かった〜。」
ユウリとルランは不穏な会話を再開させる。
夏弦はどこからツッコむべきか頭を捻った。
(セナちゃんからは何も指示出てへんかったんか?!なら、なんで俺は連れてこられたん?!あと、さっきから何してんねん!?言葉と表情が少しもあってへんぞ!)
「なぁ、さっきから何してるん?」
「セナ様に近づくゴm…コホン。不届者の排除だよ?ね、ユウリ。」
「うん。そうだね〜…まだ夏弦はリストに入ってないから安心してね!でも…セナ様に手を出したら…分かってるよね?」
ユウリが言い終えると同時に、鋭い圧が夏弦ヲ襲う。ユウリとルランが殺気にも近いモノを向けて威圧しているのだ。
「わかった!セナ様には何があっても仕事だけやから!だから威圧やめてもろてええですか?!」
「分かってるならいいや。」
「ユウリ、今日中にコレ終わらせよ。」
夏弦の必死の言葉にユウリとルランはすぐ、別の話題に移った。夏弦には見向きもしない。
(こっわ!セナ様と話す時は気ぃつけよ。)
夏弦はセナに粗相を働かないようにしようと心に決めた。冗談抜きで命が掛かっている。セナの気分一つでユウリとルランは夏弦を躊躇なく殺しに来る。それを先程、夏弦は理解させられた。
「やっぱルランを敵に回しちゃダメだね。情報が全部流出してさぁコレ、組織として機能してないじゃん。」
「ん〜…ユウリを敵に回す方が怖いんじゃない?ほら、天性の詐欺師だから。」
ユウリとルランは無邪気に笑って会話をしているが、夏弦からしたら少しも笑えない。
夏弦はツッコむことを諦め、気配を薄くし、背景に徹する。
(潜入以外でここまで全力で異能使うのは初めてなんやけど…でも、簡単に壊れそうやなぁ。)
夏弦の思考も大概不穏だ。周囲の者達がおかしいせいであまり目立たないが、夏弦も根本から裏の人間の思考回路をしているのだ。
「あっ…!セナ様、お話終わったみたい!ユウリ、行こっ!じゃね、夏弦。」
「ちょっと待ってよ!セナ様からさっき仕事の連絡が来たからっ!バイバイ、夏弦。」
ユウリとルランはタワーマンションのエントランスから出て来たセナを見つけるとすぐに車内から出て行った。一応、仕事の取引相手として別れの言葉だけはして行った。それと入れ替わるように後部座席に凪が乗り込んで来た。
「出せ。」
「りょ〜かい。」
夏弦は凪の命令で車を屋敷に向けて走らせる。
「停めろ。」
凪の言葉に近くのコンビニの駐車場に車を停める。凪は淡々と話す。
「一週間後、港の近くに行くことになる。ロライと麻薬の売買をしているガキがいるらしい。とりあえず、お前はそこを探れ。あとは連絡する。」
凪は言いたいことを言って車を降りた。夏弦はいつも通りの凪に驚きも起こりもせずにその背中を見送った。
「さてと。暫くは学生やなくて裏の仕事やな〜。」
夏弦はそう独り言を漏らして車を走らせる。夏弦は凪の補佐だ。命令されたことを遂行するのは当たり前のことだ。
「ん?一週間後、武器も持ってこい…人使い荒過ぎん?」
夏弦はスマホの画面に表示された凪からのメッセージを呼んで愚痴を零したが、その表情は楽しそうに笑っていた。




