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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
803/806

H-803 今夜は研究所の重鎮との会食だ


 シグさんに生物学研究所に送って貰い、エントランスで統合作戦本部でのやり取りを再確認する。

 コーヒーをシグさんが運んでくれたんだけど、それを見ていたカウンターのお姉さんが厳しい目で俺を見てるんだよなぁ。

 やはり俺が運んできた方が良いという事なんだろうね。

 シグさんからコーヒーを受け取ると、先ずはタバコに火を点けた。


「厄介な作戦を引き受けてしまったな。レディからニューヨークの話は聞いているが、かなり面倒な都市という事だったぞ」


「面倒というよりゾンビの数が多すぎるんです。それにあの摩天楼ですからね。核を3発使ったようですが何れも小型の戦術核です。それなりに効果はあったのでしょうが半数のゾンビを倒せたぐらいかと……」


「地下鉄に巣食っていたとも聞いたが?」


「地下鉄路線は完全にゾンビの縄張りですよ。焼夷弾をドローンで運んで炸裂させたのですが、再度同じことを行う必要があるかもしれません。それに地下を放っておくと、コクーンを作って新たなゾンビが生まれます。それは通常型に限りませんからね」


「それで進軍に先立って地下を破壊するという事か……。先ずはリストの入手だな。私が本部から受け取っておくぞ。その他に必要な資材は?」


「地下排水路図に地下路線図。大型建築物の建家図、それに冷戦時代に作ったシェルターの図面が欲しいですね。第二次世界大戦時のシェルターもお願いします」


「前部揃えられるとは思わんが、努力してみよう。明日は別の客人が来ると聞いたが?」


「オットーさんですね。航空宇宙軍の技術士官です。前回のドローンも彼に作って貰いました。今回もお願いするつもりです」


 シグさんには顔出しをお願いする。本部長が俺達の作戦を行うに当たっての副官を出してくれると言っていたからなぁ。先任副官のシグさんも一緒にいた方が良いだろう。


「それにしても、あのゾンビはイエティ……、アメリカではビッグフットと言うのだが、その想像図の通りだな。もっともビッグフットの体毛は黒いと聞いたことがあるが」


「全くです。5.56mmが利かないというのが気になるところですが、俺達の部隊にはバレットが2丁ありますし、俺も50口径の対物狙撃銃を頂きましたから何とかなるでしょう」


 5.56mmライフルを使っているのは女性兵士だけだし、彼女達はドローン操縦やフクスの運転だからねぇ。外で銃弾を放つ機会はほとんど無いからなぁ。


「レディからペンデルトンの将官に「ビッグフットはいるのか?」とサミーが問いかけたと聞いたが、その答えは海兵隊ならではの答えだったと聞いたぞ。面白いジョークだと私の方でもその話が聞こえて来たぐらいだ。だが、ジョークであっても海兵隊は備えねばならんからな。しっかりと準備は整っているだろう」


 あれの事か! 大佐殿は言葉を濁していたんだよなぁ。確定できないなら備えるのが海兵隊だとも言っていたから、実際に行動したってことか!

 軍内部でのジョークには気を付けないといけないという事なんだろう。

 

 コーヒーを飲み終えたシグさんは、「明日の朝にやってくる」と言い残して去って行った。

 もう1本、タバコに火を点けて状況を再確認する。

 さすがに地下に潜む全てのゾンビを駆逐するなんて出来ないからなぁ。

 焼夷弾を使って焼き殺すしかないだろうが、焼夷弾を地下に送り込む手段を再検討する必要がある。地下鉄や地下街なら前のドローンが使えそうだけど、もっと焼夷弾を運べるようにした方が良いだろうし、ビルの地下ともなると、幅の狭い階段を降りることが出来なければ焼夷弾を運ぶことさえ出来ない。

 新たなドローンの仕様で一番大事なことは走行手段と運搬重量という事になりそうだな……。


 オリーさんの部屋に戻って、制服から私服に着替える。

 やはり制服は肩がこるなぁ。

 ウエスタン風のシャツにジーンズ。ベルトにP-38n尾ホルスターを付けて、パーカーを羽織る。靴はスニーカーだ。

 着替えたところで、オットーさんとの打ち合わせに備えて改造もしくは新規に製作して貰うドローンの概略仕様を纏める。

 そういえば、本部から派遣する副官に資材調達を任せられると言っていたな。

 俺達の部隊の人数と増援の2個分隊、多分オットーさんのところや生物学研究所からも何人か派遣してくる可能性もありそうだ。

 部隊の総員は40人を越えそうだ。指揮系統もしっかり考えておかないと、混乱しそうだぞ。

 それに前回のビルが再び使用できるとは限らないからなぁ。ビルの最上階近くまでゾンビが上がってきたぐらいだから、かなりのゾンビがまだいるに違いない。

 新たな拠点を設けるとなれば……。

 タブレットでかつてのニューヨークの衛星画像と、現在の画像を見比べながら建物を物色する。

 中々良い場所が無いんだよなぁ。先ずは拠点を明確にしたところで資材の確保を考えよう。


 ちらりと腕時計を見ると、17時を過ぎている。道理で窓の外が暗いはずだ。

 夕暮れにはまだ早いけど、エントランスに下りて食堂が開くのを待つとしよう。

                 ・

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                 ・

 窓際のソファーで一服していると、研究所の職員達が食堂に向って歩いて行く。

 食堂が開いたようだな。一服を終えたら出掛けてみよう。


「おや? サミー君じゃないか! あっちの仕事は一段落かい?」


 ヤンセンさん夫婦は何時も一緒だな。

 仲が良いのは良いことだけど、2人とも再婚なんだよねぇ……。


「しっかりと仕事を貰ってしまいました。山小屋に戻ったら、皆に怒られそうです」


「ハハハ……。それだけ皆がサミー君達を欲しがっているんだからしょうがないな。この研究所だってそうだからね。となると、今夜は暇ということになるのかな?」


 俺が頷くのを見て、直ぐにヤンセンさんがカウンターへと向かった。

 首を傾げて見ている俺を、ミランダさんが笑みを浮かべて見ているんだよねぇ。


「たぶん、所長の都合を聞いている筈よ。所長の予定が無ければ、所長室での夕食になりそうね」


 これは行くしかないだろうな。明日の打ち合わせもあるんだが……。でも所長と会談するなら、一度部屋に戻ってバッグを持ってこないといけないだろうな。


「大丈夫だ。サミー君。夕食は少し遅くなるけど、一緒に会食しよう。所長は他の博士も参加させたいようだったぞ」


「それなら、一度部屋に戻ってバッグを撮ってきます。所長に見せたいレポートや写真がありますから」


 戻ってきたヤンセンさんの話を聞いて、直ぐに席を立った。

「コーヒーを用意して待っているよ!」と歩き出した俺にヤンセンさんが言葉を掛ける。

 階段を駆け上り部屋からバッグを手に戻ってきた時には、先程座っていたソファーのテーブルにしっかりとコーヒーカップが乗っていた。5分も掛からなかったと思うんだけどなぁ。


「サミー君がレポートを持ってくるというのは初めてじゃないか? いつもはオリーの担当だったはずだが……」


「もう直ぐ出産なんでしょう? 次にオリーがこの研究所に来る時には賑やかになりそうね」


 賑やかだけなら良いんだけどねぇ……。悪戯するんじゃないかと心配になってしまうな。


「そういう事か。ならオリーの手を経ていないということだね。それで、どんな内容なんだい?」


「レポートという意味ではまだ完成していないんですが、現状の課題とそれにかかわる考察を纏めてみました。ちょっと新たに気付いた点もありますので、修正途中なんです。一言で言えば、メデューサの進化は案外遅いのではないか? という今までの考えを否定するものです」


 俺の言葉を聴いて、2人が大きく目を見開いた。口もポカンと開けているんだよなぁ。

 やはり、研究所的にはこの考えに賛成出来兼ねるということなんだろう。


「驚かせないで欲しいな。……だけど、サミー君の事だ。それなりの論拠があるということだね?」


「きっかけは、あまりにもゾンビの進化が速いということです。今回の作戦でも新たなゾンビを確認できました。サンディの事ですから、しっかりと情報を研究所に送っていると思います……」


 コーヒーを飲みながら、ゾンビの形態変化はメデューサから与えられる情報で形を変えているだけに過ぎないという話をしたんだが、俺の話はオリーさんと違ってあまり理論だった説明にならないんだよねぇ。

 それでも、2人は無言で俺の話を聞いてくれている。2人の脳内でしっかりと論文形式に俺の思いが手直しされているに違いない。


「……そういう事か。私達はメデューサをゾンビそのものと考えていたんだが、メデューサが外部状況に応じて寄生している体を変化させているとするなら、メデューサの進化は案外遅いのかもしれないな。だが、それが真実だとしたなら、メデューサは私達が目的に応じて車を替えるように体を変化させることが出来ることになる」


「メデューサが、体のデザインを自由に出来るという事?」


「まさにそうだね。その仕組みを解明できたなら、美容整形が亡くなりそうだね。外科手術にも応用できそうに思えるよ」


「さすがにそこまでは無理だと思いますよ。安全性が分かりかねますし、何と言ってもメデューサとの戦いは最後の1個体まで確実に狩る必要があります」


「そうだね……。ちょっと不謹慎ではあったかな。だが、厳重に隔離されたエリアでの研究は進めたいところだね」


 そんな隔離施設内で、メデューサの研究は行われていたに違いない。だけど、何らかの原因でそれが外に出てしまった。やはり根絶やしするに限ると思うんだけどねぇ。


「貴方も言動には気を付けて頂戴。アメリカは言論の自由を保障しているけど、過激な言動を続けたならこの研究所にいられないわよ」


「そうだな。気を付けよう。サミー君には済まないが先程の私の言葉は忘れて欲しい」


「ヤンセンさんのジョークだと思っていましたから、俺に気遣いは無用ですよ」


 そう言って笑みを向けるとヤンセンさんが頭をポリポリかいているんだよなぁ。まだミランダさんが睨んでいるけど、それは自宅に帰ってからヤンセンさんがどれだけ機嫌を取れるかだな。

 タバコを取り出して火を点けると、3度目のニューヨーク行きが決まった事を教える。

 途端に2人の目が輝くんだから、本当に何時までも若者の心を持っていると感心してしまう。


「さすがにオリーが同行できるとは思えないね。所長に直訴してみようかな」


「あの時は少し早めに返されてしまいましたけど、次は最後まで状況をこの目で見たいですね」


 行く気満々だ。

 でも俺としては若い研究員で十分に思える。

 そこで得た情報を基に、次の戦いを有利に進めるための研究を進めて欲しいところだ。


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