H-802 カナダにはイエティがいるらしい
ニューヨークに再度核を落とせないなら、ニューヨークへ大規模な攻撃を開始する前に徹底的な地下施設攻撃を行うことで、進行する部隊への脅威を低減する。
この地下施設攻撃を請け負う事になるのだが、それは別途用意する地中貫通爆弾バンカーバスターを全て使うことで、作戦対象物をある程度制限することが出来る。
とは言ってもなぁ……。オットーさんが作ってくれたあのゴリアテモドキが何台用意できるのかで決まりそうだ。
ゾンビが多数潜んでいる箇所を推測して、リストの上から順に破壊することになりそうだ。
「私の幕僚から副官を1人出そう。休暇中の部隊を急に最前線へと出すとなれば士気が低下しかねない。副官と調整してくれ。必要な戦力はこちらで準備しよう」
「ありがとうございます。準備もありますから作戦は3月でよろしいでしょうか。オットー大尉に攻撃用ドローンの製作をお願いしなければなりません」
「オットーには、私から連絡しよう。生物学研究所に明日副官を向かわせよう」
ドーバー滞在が少し長くなりそうだな。明日にオットーさんと合えるなら、ある程度の作戦骨子がまとまるだろう。それを踏まえて山小屋に連絡しておこう。
「ところで、せっかく来たのだ。この際、我等に伝えておくことはあるのかな?」
本部長が水を向けてくれた。
新たに遭遇したゾンビについてはマリアンさんが伝えているだろうし、オートジャイロの調達はリッツさんが動いてくれているはずだ。そうなると……。
「1つ考えて頂きたいことがあります。俺から課題を具申するのはいささか僭越ではあるのですが……。南米から北上するゾンビを阻止するには既存の国境では長すぎます。このような状況で版図を広げることは避けるのが道理ではありますが、中南米のどこかに堅固な阻止線を構築することがアメリカを長く人類の版図とするために必要かと考える次第。パナマ運河を阻止線とするか、もしくはパナマの北にそれを新たに構築するか……。そろそろ計画を立てて動く必要があろうかと」
俺の言葉にテーブルを囲む将官達がジッとアメリカの地図を眺めている。
北アメリカは太平洋と北極海それに大西洋に囲まれているから他の大陸からゾンビが押し寄せてくる可能性はほとんどないだろう。強いて言えば凍結した北極海の氷の上を移動して来る可能性もなくはないが、アラスカやカナダ北部にはあまり人間が済んでいなかったからなぁ。それよりは人口の多いアジアやアフリカに向かうに違いない。
となるとオペレーション・ノーススターとカナダ・イギリス連合軍は進める作戦が終了すれば北米は再び人類の版図に戻るだろう。唯一南米が残るだけだ。
その南米からのゾンビの移動を阻止することが最後の何門なんだよなぁ。
「戦略核を使った新たな運河作り……。マリアンから聞いた時には呆れるばかりだったが、確かに有効な手ではあるな。だが中南米の中央には山脈があるのだ。それを切り開くには核では足りんかもしれん。……とはいえ課題については理解したつもりだ。若手佐官達の能力を試してみるか」
「運河を掘るのか、防壁を作るのか。さすがに塹壕と有刺鉄線とはならんでしょうが、若手なら意表を突くアイデアを出してくるかもしれませんね」
本部長の言葉に、副官が頷きながら言葉を繋げた。
どんな形になるんだろう?
想定するゾンビの数も考えないといけないだろうから、すぐに計画が終了することはないだろう。
1年後に状況を聞いてみようかな。
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これで帰れると思っていたら、別の作戦の話を聞くことになってしまった。
とはいえ、ノーススターに関わる作戦ではなく、イギリス・カナダ連合軍によるカナダ北部のゾンビ掃討作戦への支援に関するものだった。
同じ北米だし、カナダからゾンビを駆逐しないことには何時まで経ってもアメリカの北部はゾンビからの脅威を払拭できないからなぁ。協力するにはやぶさかではないという事なんだろう。
「向こうもノーススター並みの長期計画で奪回を考えているようだ。資材の援助だけではなく2個中隊規模の部隊を派遣することになるだろう。出来ればアラスカから南東に部隊を進めたいところだが、向こうの都合もあるようだ……」
ゾンビの本隊はメデューサだし、人間の姿をまだ保っておりけど中身は別物になりつつある。そんなゾンビに関わる一番の疑問はゾンビの生態が未だに解明出来ないことだ。
カナダ派遣軍の一番の脅威はゾンビだと答えたら落第点を付けられてしまうだろう。一番の脅威は冬の寒さに違いない。
-20度以下にもなるんだからね。人間や兵器が凍結しかねない。
だけど、寒さ対策ばかり考えていると、今度は素早く部隊を動かすことが出来なくなりそうだ。アメリカはアラスカを持っているんだから、寒冷地仕様の兵器はある程度揃っていると思うんだけどなぁ。
「さすがにそちらにも協力して欲しいとは言えないが、サイカ大尉の知見は貴重に思える。作戦実施に当たり思うところを効かせて欲しい」
第三者の意見が欲しいということかな?
力攻めではなく、武装偵察部隊を先行させてゾンビの状況を確実に捉えての進行だ。
攻撃は装輪自走砲ではなく、履帯自走砲だからカナダの悪路にも十分な踏破性を持っているけど、履帯式の機動性はあまり良くないだろうし燃料消費もバカにならない。
兵員もストライカーではなく、ウオーリアと呼ばれる歩兵戦闘車だ。アメリカならブラッドレーになるんだろうけど、イギリスの戦闘車も中々だな。主砲がラーデン砲だからねぇ。ブッシュマスターの光景25mmより大きな30mmだ。搭載する砲弾は200発とのことだけど、そもそも敵の装甲車両を相手にする物だから榴弾の炸薬量が少ないんだよなぁ。ゾンビの群れを相手にするとなるとちょっと考えてしまう装備だ。
自走砲は155mmと105mmそれに迫撃砲だな。
155mm迫撃砲の重量は50tを越えるからなぁ。悪路走行を他の車両と一緒に行動することは難しく思える。となると、都市攻撃用と言うことになるのだろう。たぶん105mm自走砲を多用することになるそうだ。
装輪車両は輸送トラックだけのようだ。道を進めば良い車両と戦闘車両を区分したようだな。
「航空支援は全て水上機ですか……」
「カナダには湖が多いからな。利用できる滑走路も少ないんだ。だがトロントシティ空港を使うことでA10やF16が使える。現在攻略中のスペリオル湖西北西200kmのドライデン空港が手に入ればさらにエアカバー範囲を広げられるだろう」
コイン機で対処できない場合の対応も出来ているということかな?
そうなると統合作戦本部として準備するアラスカからの反攻はどうなるんだろう?
南から北にゾンビを追い上げるようなものだからなぁ。かなりの激戦になりかねない。
「カナダ軍の北上によりアラスカにゾンビが集まりかねませんが?」
「当初は陣日の群れを挟撃しようと考えていたが、さすがに無理がある。ニューヨークへの進行を計画している段階で師団規模の戦力を移動することは出来ないからね。基本は迎撃戦だ。海軍の陸戦隊がアンカレッジを開放しつつある。出来ればアンカレッジは将来の反攻時の拠点としたいところだ。上手い具合に西は湾、東は山脈。アンカレッジへの道は山脈を北と南から迂回する2つしかない」
湾に浮かべた航空母艦からの支援があれば、中隊規模でゾンビの群れを阻止出来そうだな。
名目的にはアラスカ州を守るということになるんだろうけど、今回の作戦ではアンカレッジから反攻作戦を開始するということにならないなら危険性は少なそうだ。
「カナダはアメリカ以上に人口密度が少ないと思います。それだけゾンビの数は少ないということになりますが、あれからかなりの年月が経過しています。どんな進化を遂げたかが分からないですから、事前の情報収集は念入りに行うことが必要かと……」
「了解した。生物学研究所に研究員の派遣をお願いしている。その場で判断せずに研究所の見解を参考にすると連合軍の指揮官が言っていたぞ」
「今までゾンビの進化は戦闘で加速すると考えていましたが、それ以外に環境条件による進化がある様に思えます。厳冬期のカナダで火を使わずに過ごせるのですから、それなりの進化をしていると考えます」
「たぶんこれの事だろう」
本部長が副官に顔を向けて頷くと、直ぐにモニターに見たことがある映像が現れた。
「まさか! いたんですか?」
「いたという事ではないようだ。生物学研究所の見解では環境適果による進化という事らしい。5.56mmでは倒せなかったそうだ。7.62mmNATO弾を100m程の距離で連射して倒したらしい」
どう見てもイエティだよなぁ。
アメリカにいると言われていたんだが、カナダにいるとはねぇ……。だけど生物学研究所の見解では 環境条件に合わせての進化になるようだ。これは是非とも解剖して体の構造を確かめる必要がありそうだな。
5.56mmでも頭に当たれば倒せるはずだけど、それが出来なかったようだからね。
頭蓋骨が厚くなっただけでなく、それ以外にも弾丸のエネルギーを吸収もしくは拡散する機能があるかもしれない。それがさらに強化されたなら兵士の持つライフルでは対応できなくなりそうだ。
「そうなると兵士の持つライフルは?」
「7.62mmNATO弾が使えるL1A1と呼ばれる1世代前のライフルだ。かつてのイギリス連邦国でかなり使われ続けているぞ。今回使うライフルもニュージーランドやマレーシアの基地から回収してきたライフルだ」
ライフルと一緒に弾丸も回収してきたに違いない。
当座は資材不足となることはないだろうな。
「イエティそのものに見えますが、大きさはどの程度になるのでしょう?」
「この映像の個体は身長2.2m。体重は150Kgを越えていたようだ。まさに伝説のイエティだな」
これより大きい個体もいるに違いない。そうなると……。
「分隊にバレットを用意した方が良さそうに思えますね」
「そうなるとさすがに数が足りんな。我等の作戦においても多用するだろうからなぁ。ニュージーランドから回収してきたバレットの半数を供与した。足りない分はグレネードランチャーを使うしかないだろうな」
「この体毛が曲者ですね」
まるで白熊が立ち上がったような様相だからなぁ。体毛もかなり長いだろうから銃弾に絡み付いて防弾ベスト的な働きをするかもしれない。それに至近距離でのグレネードの爆発にも耐えられそうに思えるんだよねぇ……。
「やってみなければ分からんところが多いことは確かだ。サイカ大尉を出向させて欲しいとのことだったが、それはどうにか断ったよ」
本部長の言葉に、俺が小さく頭を下げたのを見て苦笑いを浮かべているんだよなぁ。
それだけ、ニューヨークの方が気になるのだろう。
新たに運ばれたコーヒーを頂きながらしばらく雑談を交わしたところで統合作戦本部を後にした。




