H-794 さすがは戦場用の輸送車だ
フクスの速度が急に上がると、屋根の上にいた3人が急いで降りる足音が聞こえてくる。
直ぐにシグさんが後部キャビンに戻ってくる。後部ハッチ脇の銃架にマーリンを収めてベンチに腰を下ろす。
エディ達は? と首を傾げている俺にシグさんが運転席上部ハッチに設けたグレネードランチャーに取り着いていると教えてくれた。
「さすがにフクスによじ登ろうとするゾンビを見たなら、ハッチを閉じてここに来るだろう。彼らが気付かなくとも我等の上を飛んでいるドローンがいるからな」
「危険なら直ぐに連絡するよ。大丈夫、私が見張っているんだから」
ジュリーさんが俺達に顔を向けて、しっかりと頷きながら話してくれた。俺達のお姉さんを気取っているところもあるからなぁ。弟分の面倒はしっかりと見てくれるという事かな。
感心しながら少し腰を上げて、ベンチの後部ハッチ近くから中央に座る位置を変える。ここの方が2つのモニターが良く見えるからね。
ノートパソコンも俺の前に移動して、前方を塞ぐように集まったゾンビの大集団に目を向ける。
短距離ロケットとグレネードランチャーが開けた穴に向かって走る先頭車両はブラッドレーだ。ブッシュ・マスターと名の付いた1インチ機関砲が間欠的に砲炎を上げている。
目標を定めず、発射するごとに少し角度を変えて撃っている。炸裂弾はグレネード弾より威力は無いだろうけど、重い銃弾を高速で放っているからねぇ。1発でゾンビ数体以上が貫通しているに違いない。それに同軸機銃も一緒になって火を噴いている。
7.62mm弾だから、それだけでもゾンビを薙ぎ倒せるんだよなぁ。
「かなりスリルがありますね。アトラクション的には大成功でしょう」
「ああ、間違いない。……しっかり掴まれ!!」
話の途中で、急にシグさんが大声を上げた。
思わずテーブルのノートパソコンを手で押さえ、もう1つの手でテーブルをしっかりと握ったんだが……。
ガタン! という衝撃で俺の手からノートパソコンが飛んでいき、俺もベンチから投げ出されてしまった。
「点呼!」
シグさんの言葉に、次々と兵士達から「無事です!」の声が返ってくる。
「エディ、ニック共に無事です!」と運転席の方から聞こえてきたニックの声に、ホッと胸を撫でおろす。
ヨッコイショ……。呟くように声を出してテーブルの下から這い出すと飛んで行ったノートパソコンを探す。後方ハッチまで飛んでいったようだな。
テーブルに乗せると、フリーズした画面を見て溜息が出る。
リセットして再度ゾンビの声のスペクトルを表示させた。前と同じだな。故障はしなかったようだ。さすがは軍用だと感心してしまった。
「ほら、こちらに顔を向けるんだ!」
シグさんの言葉に首を傾げながらも、言われたとおりに顔を向ける。
そんな俺に苦笑いを浮かべながら、ベルトのポーチから大きなカットバンを取り出して額にペタリと張ってくれた。
「全く、負傷者が部隊の指揮官だけだと知られたら、皆の良い笑い者だぞ。それほど深くは無いから傷は残らんだろう。後部に飛ばされた時に何かにぶつけたのだろうな」
怪我してたのか?
カットバンの上から額を押さえると、ズキ! とした痛みが走った。
本当に軽いのかな? 後で縫う事にならないかな……。
「ベンチにもシートベルトが欲しかったわね。私達の席にはしっかりと付いているんだけどなぁ」
ジュリーさんは 俺の顔を見て今にも吹き出しそうな表情をしているんだよねぇ。それに、バッグから取り出したのはカメラじゃないか! まさかそれで……。
カシャ! という音と一瞬の眩しい光。
ジュリーさんは、俺達のカメラマンも務めるつもりなのかもしれない。
「山小屋に戻ったら、映写会を開くからね」
そんな恐ろしい言葉まで聞こえて来た。
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フクスはストライカーから比べて車内の振動は少ないと聞いてはいたが、やはり軍用車両だからだろう結構振動は伝わってくる。
それでも、再び体が投げ出されるようなことは無かったたし、エディ達も残った爆弾を左右に投げてゾンビの動きを止めてくれていた。
俺には長く感じたが、ゾンビの群れの中を通り抜けた時間は5分にも満たなかったようだ。
「抜けたよ!」というジュリーさんの言葉に、シグさんと顔を見合わせて小さく頷きあった。
後方に向かってまだまだグレネード弾が放たれている。
あまり刺激するとどこまでも追いかけてくるからなぁ。シグさんに追い掛けてくるゾンビの集団への攻撃中止の指示を伝えて貰い、ジュリーさんには残っているジャックをゾンビの集団の手前1kmに設置するよう指示を出す。
それでも追いかけてくるようであれば、このフクスを反転させて短距離ロケット弾を発射しよう。それに60mm迫撃砲弾もだいぶ残っているだろうからね。さすがに群れを潰滅させることは出来ないだろうけど、かなりの数を倒せるに違いない。それならテキサスシティを守っている守備隊が阻止してくれるだろう。
フクスの速度がだんだんと上がってくる。
それでもたまにブレーキを掛けるから、ノートパソコンを仕舞い込んで片手でテーブルをしっかりと握りながらモニターに映る状況を見守る。
「運転が荒いわけではないんでしょうけど……」
「ゾンビがいなくなっても、放置車両はまだあるという事だろう。ゾンビを乗り越える振動が無いことに満足せねばなるまい」
まぁ、その通りだけど……。ゾンビの群れの中を突破する時には、倒れたゾンビを乗り越えないといけなかったからなぁ。
車体の振動なんて生易しいものではない。まるで大小の丸太を並べた上を走っていた感じだ。だけどさすがは6輪駆動だけのことはある。そんな悪条件の元でも走れるんだからねぇ。戦場の輸送トラックと言われるだけのことはあるなぁ。
「見えて来たよ! あれは守備隊だよね?」
大声でジュリーさんが教えてくれた。
満足そうな顔には笑みまで浮かんでいる。ジッとモニターを眺めていたシグさんが小さく頷いた先には、監視用の櫓とそこから打ち上げられた赤と黄色の信号弾が映っていた。
「守備隊への連絡は本隊が行っているだろうが、改めてこちらからも連絡したほうが良いだろうな。ジュリー、中距離トランシーバーで、チャンネル60を使って交信してくれ。扉を開いて貰わねば中にはいれんからな」
シグさんがジュリーさんに指示すると、今度はインターホンを使って運転席の後方にいるニックに信号弾を上げるように言いつけている。『赤を2つだ!』としっかり言いつけているけど、それほどたくさんの色があるとも思えないんだけどなぁ……。
これで作戦の山を越えたのかな?
タバコに火を点けながら、そんな自問をしているとジュリーさんがコーヒーカップを渡してくれた。
どうやら守備隊との連絡が付いたらしい。
到着までにはまだ間があるから、それまでは休んでいるという事かな。
コンテナを2段積にした大型トレーラーが門を塞いでいたらしい。
道路一杯にコンテナを並べてしっかりと固定した壁を通り過ぎたところに、そのトレーラーが置かれていた。
ここを守る兵士は1個小隊程だろう。俺達の車列を当直に付いていない兵士達が道路に並んで出迎えてくれた。
フクスの後部ハッチを開いて、そこから体を乗り出して兵士達の歓迎に手を振って応えながら先へと進む。
「どこに行くのかしら?」
「このまま、テキサスシティの港まで向かう。石油積出港ではあるが、その一角に一般貨物の荷役桟橋がある。桟橋の南にある貨物集積場が我々のゴール地点だ」
テーブルに地図を広げて、シグさんが最終到達地点を教えてくれた。でも、先頭を走るブラッドレーはこの場所を知っているのだろうか?
首を傾げてシグさんに顔を向けると、苦笑いを浮かべて小さく頷いている。
知らないのは俺だけというわけではないんだろうが、指揮官達には事前に連絡をしているようだ。俺達の部隊は……、シグさんがいるから問題はないか。
「俺とシグさんで、オイルストライク作戦部隊に報告に向かわないといけませんね?」
「あまりそんな顔をするな。指揮官だから、それは仕方のない事だ。到着報告という事で十分だろう。状況説明を求められたら私が行う。それにある意味儀礼的な挨拶だ。詳細はマリアン殿達の本隊到着後に行われるだろうからな」
明日から休暇とはいかないようだな。
だけどせっかく来たんだし、まだ夏だからね。今度はオルバンさんと釣りの腕を競っても良さそうに思える。
守備隊から案内者が俺達の車列に来ると、皆を宿舎へと案内してくれる。
俺とシグさんは彼らの乗ってきたハンヴィーに乗って、テキサスシティ守備隊の指揮所へと向かう。
助手席に乗っていた軍曹が、本当の指揮所は砲艦にあると言っていた。
オイルストライク作戦の指揮は、クロード大佐が今も執っているという事だろう。
「陸の指揮所はオルダー少佐が指揮を執っているんですよ。オルダー少佐は陸戦部隊を管轄し、湾内の軍艦はクロード大佐そして空はハミルトン大尉が指揮しています」
同列階級がいないなら、指揮も上手く取れるに違いない。俺達の部隊はどうなんだろう? マリアンさんというカリスマ的な存在がいるから、指揮が乱れることは無いように思えるだけどねぇ。
5階建ての立派な石造建築物は、元は何かの事務所だったのかもしれない。
その4階にテキサスシティ防衛部隊の指揮所が作られていた。
指揮所隣の会議室に案内され、すぐに運ばれてきたコーヒーを飲んでいると数人の士官が事務所に入ってきた。
士官達を見て直ぐに席を立ち、互いに敬礼を交わす。
だいぶ様になってきたとオルバンさんに評価されてはいるんだが、相変わずらぎごちないのが自覚出来るんだよなぁ。
少佐達がテーブル越しの席に移動し、少佐に促されて再び椅子に腰を下ろした。
「噂は聞いているよ。それにしても無茶な作戦だと思っていたんだが……」
40代というところだろう。元陸軍の少佐ということだが、いかにもUS・アーミイと言う感じがする体格の持ち主だ。隣の副官もエディよりも筋肉質なんだよなぁ。今でもトレーニングを欠かさないように思える。
「副官のアルム中尉に砲兵部隊のクルス少尉と第2小隊のスレイ少尉だ。サミー大尉の部隊は到着したが、西回りのレーヴァ大尉の部隊は南西40kmほどの位置にいる。先ほど入った連絡では、危機は脱したとのことだから1時間程で到着できるだろう。陸上艦隊の本隊はヒューストンの市街地に入ったところらしい。速度を落としてこちらに向かっているそうだ」
本隊が速度を落としたと聞いて、シグさんが俺に顔を向ける。
俺が小さく頷くと、すぐに顔を前に戻す。
俺の予想の範囲内と知って安心したのかな?
そんな俺達の反応を見た中佐が笑みを浮かべているんだよなぁ。




