H-793 群れに穴を開けるには
全速力でテキサスシティへと向かいたいところだが、州間高速道路上には結構な数の放置車両が残されている。
その度に速度を落として、先行車両が放置車両を車両の前に設けた廃土板や強化バンパーで横に弾いて行く。
1度では中々道路の側面に落とせないようだ。その都度停車して再度車を押すようにして横に退かしている。
そんな事が度々だからなぁ。進行速度は時速20kmにも満たないように思えるんだよね。おかげで後方の銃眼から追いかけてくるゾンビの群れが良く見える。
「後方にストライカーが1両いるのだ。我等が銃を使うこともないだろう」
シグさんがそんな事を言っていると、屋根の上から銃声が聞こえてきた。
思わず2日としてキャビンの天井を見上げ、再び互いの顔を向いて小さな溜息を吐く。
「参加したいという事だろうな。分からんでもない。まだまだ先が長そうだ。ジュリー! 後方のストライカーに『フクスと交互に後方への攻撃を行う』と伝えてくれないか」
「了解! オルバンさん達も参加したそうだけど、あっちはドローンの面倒を見て貰わないといけないからね。さっき持って行ったバケツが空になったら満足すると思うよ」
そう言えば持って行ったんだよなぁ。導火線はかなり長そうだったから爆発まで20秒近くかかりそうだ。
「グレネード弾もたっぷりと持っていたぞ。少なくとも数千体は超えているはずだから、いくら爆弾を投げても問題はない筈だ」
後方は道路の左右からまだまだゾンビが上がってきているようだ。数千とは言ったけど、1時間後には1万体を越えるんじゃないかな。
「航空支援の方は、先ずはノイズマシンに集まったゾンビを叩くと言うことでしたね?」
「せっかく集待っているのだから、落としたくもなるだろう。道路上には爆弾ではなく焼夷弾を用いるそうだ」
せっかく通れるようになった道路に穴を空けたくはないということなんだろう。
エディ達が投げる爆弾やグレネード弾は 爆発しても小さな穴が開くだけだからなぁ。後々にセメントで穴を塞げば問題はあるまい。
「それより前方が問題かもしれん。10kmほど先に集まり始めたようだ」
俺達が見ているのは、広域偵察ドローンが捉えた映像だ。
道路の左右からワラワラとゾンビが移動しているのが見える。
画像を何回か止めて、その都度映像を拡大してゾンビの種別を確認する。
戦士型を直ぐに見つけられるんだから、かなりの数が混じっているに違いない。数百体は確実だろう。千体に近いかもしれないな。
「投射武器を持つ戦士型のようだな。鎌を持つ戦士型も多いようだ。……やはりいたな。これが、あの尻尾に分からん武器を持つ戦士型だ。染料を広範囲に撒いてくれたから、ステルスゾンビの姿も見えるぞ」
「あのまだらのペイントがそうですね。自爆型がいないのが幸いです。せっかく取り付けたんですから、短射程ロケット弾を使いましょう。出来れば放置車両が無ければ良いんですが……」
「無理やり通過するしかなさそうだな。先頭はブラッドレーだ。煙幕弾発射用のグレネードランチャーには炸裂弾を入れたそうだぞ。それにブッシュ・マスターは低速射撃なら毎分100発だ。弾数は900発の炸裂弾。さすがに9分間の連続射撃は無理だろうが、我等がゾンビの群れの中を通過する間に弾切れすることはないだろう」
銃弾をばら蒔いてゾンビの群れに突入することになりそうだ。
となると、前方に集まりつつあるゾンビの数が問題だ。1万体なら1km程の厚さになるだろうからね。
数百m程度であるなら、短距離ロケット弾やグレネード弾でゾンビの群れの中に穴を空けられそうだけど……。
「それで、現状はどの程度の群れになっているんでしょう?」
「ジュリー! 先行しているドローンの高度を上げて、群れの全体像が分かるようにしてくれ」
シグさんの指示に、ジュリーさんが片手を振って了解を示してくれた。体を2人のドローン操縦者に向けて色々と指示をしているようだから、俺達の要望は余計な仕事を作ったのかもしれないな。
それでも左のモニターの画像が地表からどんどん離れている。どうやら低空飛行をしながら統率狩りの最中だったようだ。
ある程度上昇したところで、ドローンが停止する。
群れにどんどん合流しているようだが、西からの合流してくるゾンビの数が少ないことに直ぐに気が付いた。ノイズマシンが上手く役立っているようだな。
「街灯の設置間隔は100フィートだ。……8つには満たないから400m未満というところだろう」
「航空支援もそろそろ始まるんでしょうね。そうでもないと、あの群れに20分後には突入ですよ」
「テキサスシティから先程入った連絡では、1120時に爆撃すると言ってたよ!」
ジュリーさんが俺達の会話を聞いて、教えてくれた。
そうなると、爆撃までもう直ぐだな。
「その外に何か言っていたか?」
「全て焼夷弾にしたみたい。爆撃後に低空飛行をしながらミニミで銃撃してくれるとも言っていた」
ジュリーさんの話を聞いて、シグさんが先行するブラッドレーに速度を落とすように連絡する。
爆撃地点にはあまり近付きたくないからなぁ。
ドローンも爆撃の余波に巻き込まれないように、一度戻ってくるようだ。
ついでにバッテリーを交換し迫撃砲弾の再装填を行うのだろう。
突然前方から炸裂音が聞こえてきた。焼夷弾やナパーム弾だろうけど、炸裂音はするんだよなぁ。
ニックからもインターホンで前方が真っ赤に燃えていると連絡があったから、シグさんが爆撃地点までの距離が分かるかと尋ねている。
ニックからの返事は少なくとも3kmは離れているとの事だ。3kmなら目と鼻の距離だな。後方のゾンビの群れはだいぶ離れている。後部ハッチから覗くと、ストライカーの姿が遠くに見えた。1km以上離れているんじゃないか?
爆弾を使いたいから、ゾンビの群れギリギリに近づいているに違いないな。
あれだとかなりストレスが出そうだから、そろそろ俺達が後方に下がっても良さそうに思える。
俺達の乗ったフクスが後方へと下がる。
シグさんが、マーリンを片手に運転席の方に向かったから、屋根の上のエディ達と合流するつもりなんだろう。
そうなると、部隊間の通信は全てジュリーさんに任せることになる。
「大丈夫か?」と声を変えると、笑みを浮かべて頷いてくれた。
「私も参加したいけど、バレットを久ぶりに使ったから今回はこれでお終い。サミ―も、後部ハッチの銃眼から参加するんでしょう?」
「準備だけはしておきますけど、周囲も見ないといけませんからね」
俺の言葉に、苦笑いを浮かべて「ご苦労様」と慰めてくれた。
「爆炎が収まったら、直ぐに動くみたい。ブラッドレーの前にストライカーが向かったよ」
「短距離ロケット弾を使うのでしょう。このフクスにも搭載していますから、穴が開ききらない時には要請が来ると思いますよ」
作っておいて良かったと自分を褒めたいところだ。
さて、後ろはどんな感じかな?
銃眼越しの後方を眺めると、だいぶゾンビが近付いている。距離は300m以上離れているけど、屋根の上からたまにグレネード弾を放つ気の抜けた音が聞こえてくる。
M203グレネードランチャーの最大射程が400m程だと聞いているから、どうにか群れの中に届く感じだな。
群れの中で炸裂しても、小さな炸裂煙を上げるだけだからなぁ。あれでどの程度ゾンビを倒せているのかと考えていると、突然フクスが動き出した。
屋根の上の3人が落ちて来ないところを見ると、しっかりと体を踏ん張っていたみたいだな。
動き出したけど、速度は俺達が歩く程度だ。
後方のゾンビの群れがだんだん近づいているんだよなぁ。俺もここから援護することになりそうな気がしてきたぞ。
集団の先頭を進むゾンビの種類を双眼鏡で確認しようとしていると、どろどろとした炸裂音が聞こえてきた。
短距離ロケットを放ったという事だろう。
予想より長く続いていたのは、もう1両のストライカーが続けて放ったようだ。
「速度を上げると言ってる。私達はどうしようか?」
「エディ達が用意した爆弾はまだ使っていないようですから、もうしばらくこのまま走って爆弾を使って貰いましょう。それが終わったなら一目散で良いです。でも南の群れに空いた穴が閉じるような気配があるなら、一気に速度を上げてください。分厚いゾンビの群れを踏破出来るとは思えません」
「了解。上にも連絡しとくね。……どうやらストライカーのグレネードランチャーに取り付けてあるボックスマガジンの弾丸を使いきるみたい」
確か30連でグレネード弾を繋いであるはずだ。
更に穴を広げようということだな。グレネード弾はそれだけではないだろうから、ブラッドレーの後ろに下がったところでグレネード弾を補給するのだろう。
屋根の柱に設けた集音装置が、後方のゾンビの群れの中を戦士型ゾンビの集団が前に出ようとしていることを知らせてくれた。
スペクトルの波形が、戦士型ゾンビの帯域だけMAXに達している。かなりの数になるだろう。
急いで屋根のシグさんに伝えると、今まで投げつけていた爆弾の投下間隔が間延びしたようだ。
エディが狙撃体制に移行したのかな?
俺もマーリンを銃架から外して、狙撃窓から後方を眺める。
前に見た時よりも距離が近いな。ゾンビの顔さえはっきりと見える。
あれから数年以上の時が流れているけど、通常型はいまだに人の姿を保ったままだ。だから衣服はボロボロだし、靴だって片方が無いゾンビもいるんだよね。
トンネルの崩落から這い出してきたような姿と一瞬思ってしまったけど、その顔にある2つの目は既に人の目ではない。
複眼で少し飛び出した目は瞬きもしないし、中には額にもう1つの目を持ち始めているゾンビすら見える。
それに昔は両腕を前に出して早歩きと緯度で動いていたのだが、後方に迫るゾンビはだいぶ速度が上がったようだ。だが、あの動きならまだ走れば十分に荷が出せそうだ。
「いつの間にか武器まで持つようになったよね」
「武器といっても、短い棒ですからね。案外採取用に使うのかもしれませんよ。とはいえそれだけリーチが長くなったのは脅威そのものです」
長さ50cmにも満たない棒だから、俺達が屋内掃討に使う1mを越える棒ならば、今まで通り殴り倒すことは可能だろう。
それに通常型ゾンビは、力はあるけど全体的な動作は相変わらず緩慢なところがあるからなぁ。
油断しなければ、今まで通りの戦い方で十分だろう。




