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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-792 目標に向かって進むんだから逃げるわけではない


 ジャンクション周辺から統率型ゾンビの放つ短いクリック音が聞こえてくる。屋根の集音装置を使ってその位置を確認しようとしたけれど、全方向から聞こえてくる。

 俺達を狙ったラッシュとは限らないと思っていたのだが、その希望は無くなったようだ。


「ジュリーさん。統率狩りは継続しているんですか?」


「2機を使って実行中だけど、かなり数が多いよ!」


 さらに士官型の放つキツツキ音まで聞こえてくる。とっとと逃げ出したいところだが、もう少しでジャンクションを通行できるまでに放置車両の撤去が進んでいるから、時間稼ぎをして南のテキサスシティへ一気に移動したいところだ。


「アレフさん達の作業は、後どれぐらいで終わるんでしょうか?」


「先ほどの連絡では20分ほど欲しいと言っていたぞ。1.6kmほど先のノイズマシンが作動中だから、もうしばらくはこちらへと移動するゾンビの数は少ないだろうが、作動時間は残り15分ほどだ。ジャンクションの西800mにジャックを仕掛けてある。ノイズマシン作動後の爆撃が終わり次第、作動させる」


 西は何とか時間を稼げそうだ。

 東の方は、ジャックが2個作動中だ。これはもう少し長く動くらしいけど、程度問題だろうな。


「北のジャンクション付近にも集まっているが、これもジャックに向かって現在は移動している。とは1個だからなぁ。ゾンビの数を減らせそうもないが、45号線へ合流する道路は放置車両が塞いでいるのがせめてもの救いだ」


 ジャンクションへ合流する道路から、放置車両を撤去しないで良かったと少し胸を撫でおろす。大きな群れを作ったとしても、45号線へと移動するゾンビの数を時間的に制限できるという事になる。


「南は俺達の移動開始と同時に、残った2個のノイズマシンを作動させましょう。ブラッドレーを先頭にすれば、放置車両を跳ね飛ばせそうですし、砲塔の25mm機関砲も心強いです」


「ストライカー3両にもグレネードランチャーが搭載されているし、短距離ロケットランチャーを搭載した車両が4両もあるのだ。道路を塞ぐように集まったとしても突破可能だろうな」


 シグさんが俺に顔を向けて、ニヤリト笑みを浮かべた。

 やはりレディさんより過激なお姉さんだ。その姿に背中がゾクリとするからねぇ。


「本隊からよ! シグ、出てくれない」


 ジュリーさんの声に、シグさんがヘッドセットを付けて耳元のスイッチを入れる。

 目は相変わらずモニターに向けているけど、そこに映っているのはノイズマシンの周辺を旋回しながら統率型を探す映像と放置車両の撤去の様子だ。


 テーブルに乗せたノートパソコンで、ゾンビの発する音声スペクトルを見ながらゾンビの声を聞いていたのだが、シグさんの交信を聞くため片耳のヘッドホンを外した。


「西もラッシュの兆候があると! そうなると爆撃はどちらを……。了解です。そうなると本隊の防衛がおろそかになるように思えるのですが……。分かりました。次の交信はテキサスシティ到着後に……」


 シグさんにしては珍しく復唱がないな。

 たまに俺に顔を向けるのが気になるんだが、ジュリーさんには聞かせたくないということかな。となると、かなり無茶ぶりをしてきたという事になるんだが……。

 交信が終わると、ヘッドセットを外しながら大きな溜息を吐いている。

 ジュリーさんがこちらに体を向けているのは、今の内容を知りたいという事なんだろうな。

 小さく頷いたシグさんがカップホルダーからコーヒーカップを取って一口飲みこむと、元に戻す。すっかり冷めているんだろうけど、そんな動作で先ほどの交信内容を頭の中で整理しているのだろう。

 タバコに火を点けて、シグさんが話し始めるのを待っていると、もう一度小さく頷いて話てくれた。


「どうやら同時多発的にラッシュの前兆が起こっているらしい。我々を取り巻くように5か所、西の部隊を狙うように2か所、さらにコンロー市にもその兆候が出ているそうだ……」


 同時多発となれば、コイン機による爆撃支援が分散してしまいそうだ。マリアンさんとしても、優先か所の選定に悩みそうだ。


「全てに厚い支援は出来ないという事らしい。ヒューストンから我等の支援に来るのはA-10が1機に改造コイン機が2機になる。西回りを進む部隊の支援はコイン機が4機と自走砲部隊とのことだ。本隊も移動を開始するようだ。支援はコイン機が2機だけだが、本隊は4機のブラックホークを持つからな……」


「焼夷弾をたくさん用意して欲しいですね。爆弾で道路に穴を開けるわけにはいきませんからね」


「ああ、そうだな。ジュリー頼んだぞ。本隊へ連絡してくれれば、向こうで調整してくれるはずだ」


 直ぐにジュリーさんがトランシーバーに体を向けたから、後は任せれば良い。

 その姿を見てシグさんが小さく頷くと、テーブルの地図を覗き込むように俺に向かって体を乗り出してくる。

小さく「新たなゾンビを確認したらしい」と呟いた。

 手元のタブレットを使って本隊から送られてきたゾンビの映像を映しだしてくれた。

 なるほど……、判断に悩む姿だな。

 サンディーが頭を抱えている様子が脳裏に浮かんでくる。

 形態からすれば戦士型からの進化という事になるのだろう。サソリ型にも見えなくもない。


「本隊では新たな戦士型としか判断できぬようだな。第1脚がカマキリのような鉈状の武器を持っている。だがサソリの尾に当たるこの先端は毒針には思えんな……」


 毒針ではなく太くて短い管が付いているからねぇ。根本が膨らんでいるところを見ると、投射武器を持つようにも思えるし、強力な酸を撒き散らす可能性もあるな。それにもう1つ毒ガスを放出する器官にも見えてくる。

 ドラム缶のような胴体の先端に乗ったバケツのようなものが頭部という事になるのだろう。イソギンチャクのような口が上部に付いているしその周囲の触手に混じって数本のカタツムリのような目が伸びていた。

 脚の数も多いようだ。戦士型なら3もしくは4対なのだが、どう見ても10対近くある。

 この形態で案外素早い動きが出来るかもしれない。


「大きさは従来型とあまり変わらないそうだ。表皮は装甲型ゾンビと比べると衝撃に弱いとのことだが、それでも初期のサソリ型戦士よりは高いと本隊では評価しているぞ」


「ブラックホークを使ってテストをしたのでしょう。そうなると、5.56mm弾も使えそうですね」


 まだまだ兵士の持つライフルの主流は5.56mmNATO弾だからなぁ。早いところ7.62mmNATO弾に統一して欲しいところだけどね。


「使えるだろうが、銃弾を多く撃ち込むことになるだろうな。戦士型には最低でも7.62mmを使わせたいところだ。我等の部隊は女性兵士だけがM4カービンを使っているぐらいだからあまり問題はない筈だ」


 通常型なら5.56mmで十分だからね。ゾンビの種類に応じて使い分けて行くことになりそうだな。


「それで、このゾンビはどの辺りに出現したのですか?」


「西回りの部隊を狙う集団で見つけたらしい。ジャックに集まってきたゾンビの中にいたそうだ」


 西も苦労しているみたいだな。こっちにはまだ姿を見せないのも気になるところだ。

 ヒューストンは大きな都市だからなぁ。都市内の地区ごとにゾンビが進化しているのかもしれない。そうなると、ニューヨークは益々鬼門になるんじゃないか?

 2度程セントラルパーク付近で都市に生息するゾンビを調査しているけど、それだけでは足りなさそうだ。


「とりあえず、そんなゾンビがいるかもしれないと考えておけば十分でしょう。詳細はレーヴァさん達がある程度掴んでくれると思いますよ」


「そうだな……。それでは、撤去作業終了次第、テキサスシティに向けて出発するぞ!」


 シグさんの言葉に頷くと、直ぐにヘッドセットを点けて指示を出し始めた。

 テキサスシティに向かう途中で道を塞いでいる放置車両は、ブラッドレーとストライカーが跳ね飛ばしてくれるだろうから、俺を此処でモニターとノートパソコンを見ていれば十分だろう。

 タバコに火を点けると、後部ハッチに背を預けて、モニターに視線を向ける。


「1分後に出発だ。落ちるなよ!」


 シグさんがインターホンでエディ達に告げる。

 ゆっくりと進むとも思えないからなぁ。出来れば降りていた方が安心できるんだけど、ゾンビが爆撃を物ともせずにジャンクションに近付いている。走るフクスの屋根の上から爆弾を投げるのかな? 先程ニックがバケツにたっぷり入った爆弾を持って屋根に戻って行ったからね。


「誘導するにはあの爆弾で良いのでしょうが、どちらかと言えば俺達は逃走するんですよね」


「言い方が良くないぞ、目標に向かって前進するのだ。ゾンビが周囲から群がってくるのも想定の範囲だが、やはり少し数が多いようだな」


 既に45号線への合流道路に到達しているんだよなぁ。200m程にぎっしりと詰まった放置車両が壁になっているんだが、それでも乗り越えているからねぇ。

 屋根の上では、エディ達がライフルを手にポリカーボネイトの板に張り付いているはずだ。俺も後部ハッチの銃眼を開いている。屋根の上に集音装置と同軸に設けたカメラが付いてはいるんだが、銃眼なら肉眼観測も出来るし銃撃だって可能だ。


「出発した!」


 ジュリーさんが、先行車両が動き出したことを教えてくれた。

 直ぐに俺達のフクスも動き出す。

 フクスの窓から後方を走るストライカーが見えるんだが、たまに大きく左右に車両を動かしている。その度にストライカーの後方の左右からゾンビ達が道路に上がってくるのが見える。

 ゾンビとの距離は500mほどだけど、さてこの距離を維持した方が良いのか、それとも速度を上げた方が良いものか……。


「進路前方にゾンビは?」


「今の所はいないようだな。だが道路を目指して移動しているようにも見えるぞ」


「なら、残ったノイズマシンを作動させましょう。道路の東側にも残ったジャックをどんどん設置してください。部隊の進行速度はこの程度で十分に思えます」


 テキサスシティには石油精製施設を防衛する部隊が1個中隊程いるはずだ。

 このまま45号線をゾンビの群れを誘導して行けば、一気にヒューストンのゾンビの数を減らせるかもしれない。


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