H-789 爆撃でゾンビが活性化したようだ
ヒューストンの市内には州間高速道路それに国道等のジャンクションがいくつもあるんだけど、大渋滞を引き起こしてそのまま放置車両が道路を塞いでいる個所は数か所だけのようだ。
ゾンビ騒動はデンバー郊外から始まったから、ヒューストンにその脅威が及ぶまで余裕時間があっただろうし、市当局による交通規制も行われていたからかもしれないな。
次のジャンクションは高速610号線とのジャンクションだけど放置車両は50台にも満たないんだよね。
だけどその先にある69号線とのジャンクションは広域偵察ドローンが撮影した画像では数百台を超える車両で道路が埋まっていたからなぁ。
ヒューストンからやって来たコイン機が投下してくれた爆弾の効果を本隊の映像ファイルで確認すると、半数近くの車両が吹き飛んでいた。どこまで飛んで行ったのだろうと道路の周辺を見てみると、30m以上も離れた場所に落ちている車もあるようだ。
これなら、撤去作業も容易だろう。
朝になったら、もっと明瞭に状況が分かるに違いない。
夜の映像はモノトーンだからなぁ。まだ小さく炎を上げている車両は車体の半分以上が真白になってしまっているからなぁ。
「爆弾の衝撃波で放置車両が半分近く道路から弾かれてるよ」
「これなら、もっと爆弾を落として欲しいところだな。道路に穴は開いてないんだろうね」
エディの問いに「今ところはなさそうだ」と答えた。
とはいえ車を30mも吹き飛ばしている爆発だからなぁ。ジャンクションに構造体に影響を与えていなければ良いのだが……。
「サミーが心配しているのは道路を跨いでいる橋だろう? 本隊にはそれを評価出来るプロがいるんだからね。サミーが心配することはないよ」
そうだった。あの大きなテキサスが通れるかどうか土木工学のプロがいたんだっけ。
今頃はドローンの画像を見ながら強度に問題があるか否かを検討しているに違いない。
「さて、そろそろ俺達の番だぞ!」
エディの言葉に、ベンチから腰を上げる。エディ達はフクスの屋根に上り、ジュリーさんから簡単な引継ぎを受けるようだ。
俺は集音装置を使って停車している車列の周囲を巡りゾンビの声を聴くことにした。
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体を揺すられて目が覚める。
目を開けると、シグさんと目が合った。ちょっと厳しい目をしているな、何かあったのだろうか? ベンチに寝ていたから、直ぐに体を起こして腕時計を見る。
まだ6時を過ぎたばかりだ。4時間程しか寝ていないんだよなぁ。
「目が覚めたようだな。急いで指揮所に来てくれ。少し状況が変化している」
シグさんの言葉に首を傾げながらフクスのキャビンに入ると、そこにはオルバンさんがベンチに座っていた。ジュリーさんもいるけど、その奥に何時もいる女性兵士は1人だけのようだ。席についていいないのは、奥でコーヒーを作っているみたいだな。良い香りが此処まで漂って来る。
「本隊から次のジャンクション付近でゾンビの動きが活発になっているとの連絡があった。左のモニターが現在の映像だ。昨日の映像が右のモニターになる。通りに見えるゾンビの数が倍増しているぞ」
女性兵士が俺達にコーヒーを淹れたシェラカップを渡してくれた。小さく頭を下げて受け取ると、先ずは一口……、かなり苦いな。ベルトのバッグから角砂糖を入れたタッパーを取り出し、2個入れておく。さめる頃には溶けてくれるだろう。
コーヒーで少しは眠気が冷めた感じだ。
この状態で、通りにゾンビの数が増えたのは、昨夜の爆撃が原因だろう。
だが、次のジャンクションでの作業を考えると頭が痛くなりそうだ。
「次のジャンクションの映像は?」
「本隊の広域偵察ドローンはジャンクションの上空を数回旋回して飛び去っている。ジャンクションももう直ぐ映るだろう」
シグさんの言葉を聴いて、タバコに火を点けモニターに目を向けていると……。
「ジャンクションに移動するゾンビもいるようですね。この近くのノイズマシンの位置はどの辺りですか?」
直ぐに、シグさんがテーブルに地図を広げてノイズマシンの位置を教えてくれた。
位置は西に4kmほど離れた州間高速410号線と10号線のジャンクション近くになる。
「少し遠いですね。ジャンクションから410号線の西1kmと2kmにジャックを仕掛けましょう。2つのジャックでゾンビを西に移動させ、最後にノイズマシンに誘き寄せたところで爆撃して貰えば俺達の作業が出来そうです」
直ぐにシグさんがジュリーさんを手招きして、ジャックを仕掛ける位置を指示している。
作業開始は8時ということになっているから、7時に最初のジャックを作動させればいい。40分後に2つ目のジャックを動かし、9時20分にノイズマシンを作動させれば、此方の作業音を目指して移動してくるゾンビはいないんじゃないかな。
早めにレーションを頂き、食後のコーヒーを飲みながら作業場所に先行して飛び立ったドローンからの映像を眺める。
昨日までは道路を彷徨うゾンビ等いなかったけど、今朝はいるんだよなぁ……。
数は少ないとはいえ、ゾンビは未だに危険な存在だ。作業中に車の陰から飛び出してこないとも限らない。
「増援はありがたいですね。作業前に1個分隊を先行させてゾンビの排除をしないといけません」
「音を立てずに撤去作業を行うことは難しいという事だろう。音を立てないよう静かに作業するのでは作業自体が長期化してしまう。作業は現状通りに行うぞ」
「そうですね。ドローンでの監視を強化して、さらにいつでもこの辺りにジャックを仕掛けられるようにすれば万が一にもゾンビが集まってくるようならジャックで集めて迫撃砲で処理して貰いましょう」
テーブルの上の地図を指で示した。ジャンクションから西に向かう市街地の通りだ。十字路だからゾンビを集めるにも都合が良いし、作業場所からの距離も500mほどだから、倒し切れなかったゾンビがジャンクションに向かってきても20分程度の余裕を持てる。
「了解だ。10分あれば迫撃砲の準備が整うとアネッタ少尉が言っていたぞ。ジャックの炸裂に合わせて迫撃砲弾を撃ち込め良いだろう」
集めた以上、全て倒そうなんて考えているのかな?
全く、そんなところはレディさんを上回る肉食系なんだよねぇ。
作業開始20分前に士官達を集めてブリーフィングを行う。ゾンビの数が増えていると伝えても、あまり動揺しないんだよねぇ。それよりも笑みを浮かべて頷いているんだからななぁ。指揮が高いというより、ゾンビを倒せるという事を喜んでいるみたいだ。
「我等の指揮官殿のモットーは『命を大事に!』だ。ゾンビの数は確認する限り通常型だから拳銃でも倒せるが、新たなゾンビを集めないようサプレッサーが付いていることを確認した後に銃撃して欲しい。銃撃目標は頭部だぞ。それ以外はいくら銃弾を浴びせても向かってくる。倒した後は頭部破壊が確実であることを確認して欲しい。確認がしにくいならもう1発頭に銃弾を撃ちこんでくれ」
ハンターユニットから聞こえて来たゾンビの声は全て通常型だったから、今のシグさんの指示で十分だ。
戦士型ゾンビが近づいて来たなら、先ずは撤退させれば十分だ。
「我等は作業場所の先にあるジャンクションの出入り口に潜むゾンビを処理していく。トランシーバーの共通回線は常に開けておいてくれ。以上だ!」
シグさんの『以上!』という声で俺達は敬礼を交わす。士官達がそれぞれの部隊に走っていくのを見ながらフクスのキャビンに入る。
ベンチに腰を下ろすと、すぐにジュリーさんが俺達が外に出ていた間の状況を説明してくれた。
「……少しずつ近づいていると?」
「かなりゆっくりだよ。でも数は増えているし、サミー達が外に出て行ってから少なくとも100mは近付いているよ」
ジュリーさんの言葉に、シグさんが俺に顔を向ける。
早めにジャックを仕掛けておこうという事だろう。小さく頷くとジュリーさんを手招きしてテーブルに乗せた地図でジャックを仕掛ける場所を指示する。
まだ作業場所から遠いけど、ゾンビの動きがますます活性化している感じだな。
今日中にこのジャンクションから車両を撤去出来るなら、今夜は次のジャンクションで野営をする予定なのだが、状況次第では此処で3回目の野営をすることになりそうだ。
ジャンクション周辺を周回するドローンでゾンビの声を聞いていると、フクスがゆっくりと動き出した。
時計を見ると、8時丁度だ。作戦通りの動きということだな。
ジャンクションまで数kmも離れていないから、すぐにフクスが停車する。
キャビンから外に出て、俺の仕事を始めよう。
フクスの屋根のエディ達に手を振って、互いを励ましたところで車列の外側をゆっくりと歩く。
全方向からゾンビの声が聞こえてくるけど、一番大きな声は車列の前方であるジャンクションからだ。それ以外は……潮騒のようにゾンビの発する声が小さく混在して聞こえてくる。
近くにはいないようだな……。
何度か立ち止まって、ゾンビの声をさらに集中して聞く。
そんなことをしながら車列の西側に回った時だった。はっきりと分かる戦士型のセミの声が聞こえて来た。
声の大きさはまだ小さいが、それと分かるんだから距離は1km内という事に違いない。
声が重なり合っているから少なくとも数体はいるはずだ。
直ぐにキャビンにいるシグさんに連絡すると、もう1両のフクスから新たなドローンが西へと飛び立っていった。
「サミー、どの辺りだ?」
大声でエディが俺に呼び掛けてきた。
杖を持つようにバレットを持っているところを見ると、すぐにでも狙撃しようなんて考えているに違いない。
「西南西の方角だ。かなり離れているけどはっきりと戦士型の声が聞こえてくる。エディの出番は無いんじゃないかな。たぶんジュリーさんが始末してくれるよ」
俺の言葉にがっくりと頭を垂れるんだからなぁ。そんなにバレットを使いたいという事なのだろうか?
発射時の肩を蹴飛ばされるような衝撃は、俺はあまり好きじゃないんだけどなぁ。
車列を一回りしたところでキャビンに戻り、状況を確認する。
マーリンを銃架に戻して一服を始めた俺に、シグさんがモニターを見るように視線で促してくる。
そこに映し出されていたのは蛍光ピンクの染料が飛び散った道路の一角だった。
その画像にレーザーポインターの輝点が示される
……動いているな。染料が付いているから姿を隠しきれていないようだ。
「飛び散った染料でこいつらの存在が浮き出てきた。数は8体だが既に5体を爆殺している。姿が見えるなら対処は容易だろう。再度砲弾を落とすか、それともこのまま泳がすのか判断に迷うところだな」
「屋根にいるエディ達がやる気を出していましたよ。位置が分かるなら狙撃をさせても良さそうです」
「ちょっと待って! この部隊の第一狙撃手は私でしょう? 私も参加するからね!」
狙撃と聞いて、ジュリーさんが名乗り出てきた。
1体だけでなくて良かったな。3体いるなら2人で分けあって欲しいところだ。
シグさんが苦笑いを浮かべて、ジュリーさんにエディの教育を頼んでいる。
2人で争うことなく、部隊の狙撃の第一人者であるジュリーさんに教育を頼むなら、ジュリーさんも納得してくれるだろう。現に笑みを浮かべて頷くと『任せといて!』なんて請け負っているからねぇ。
さて、俺達はここで状況を見ていれば良いだろう。
女性兵士にコーヒーを強請ると、2本目のタバコに火を点けた。




