H-786 放置車両を一気に退かすことが出来るかもしれない
ニックが燃料缶を使ってコーヒーを作ってくれた。
3人で分けて飲んでいると、シグさんがフクスから降りてきた。ニックが残っていたコーヒーを折畳みカップに入れてシグさんに渡している。俺達だけで飲んでいるのは、何となく気が引けるからなぁ。
「もう直ぐ一番北に設置したノイズマシンが作動するぞ。40分後の1050時に、コイン機が爆撃してくれるそうだ。位置はここから西に1kmほどだから、爆弾の炸裂音に合わせて一番車両が混み合っている場所の側面を工兵達が爆破してくれる。併せてジュリー達が東1kmにジャックを仕掛ける。内蔵した爆薬は爆弾2本だそうだが、ペットボトルに入れたジェル状の可燃物が爆散したなら集まったゾンビにそれなりの被害を与えることが出来そうだ」
「俺達が特に行うことは無いんですよね?」
「特にないが、爆撃時刻前にはフクスの後ろに移動していた方が良さそうだな」
爆発で飛び出した飛来物が落ちて来ないとも限らないということかな?
それなら、フクスの後ろでハッチに体を預けていれば良さそうだ。
シグさんの話を聞いている間に、西からノイズマシンの音が聞こえてきた。
ここまで聞こえてくるんだから、近くでは耳栓をしていても喧しいカモしれない。
「始まったね。さすがにこれから車両の確認は止めた方が良さそうだ」
「なら、このままここに居ようぜ。コーヒーはもうないけど、タバコはあるからね」
エディの言葉に、シグさんまでも一緒になって頷いている。
俺達はこれで何とかなりそうだけど、レーヴァさん達はどうしているのだろう。
シグさんに、他の部隊の状況を確認を依頼すると、直ぐにフクスの中に戻って行った。
直接話を聞くのだろうか? それとも、ジッと広域偵察ドローンの画像を見ながら俺達の状況を見ているマリアンさん達に確認するのかな。
「ここが通行できても、もう1か所あると言ってたね?」
「中心部近くのジャンクションだ。さすがに簡単ではないと思うよ。その為にノイズマシンを事前に設置したぐらいだからね。出来れば爆薬を仕掛けて一気に吹き飛ばしたいよ」
んっ! 一気に吹き飛ばす? その手があるんじゃないか!
確かエアバースト弾は、電子信管を使って炸裂する地上高さを設定できるはずだ。
爆弾は炸裂時の衝撃波と共に弾体の破片を広範囲に飛ばすことで殺傷する兵器だが、破片より衝撃波に特化した爆弾を地上数m程で炸裂させることが出来るなら、道路上の放置車両を一気に排除出来そうに思える……。
こんな感じの爆弾が欲しいと、簡単なメモを作って後部ハッチからジュリーさん達と話しているシグさんに手渡した。
「素人の思い付きですが、本隊で検討して貰えると助かります」
「……爆弾を空中爆発させて車両を一気に路上から撤去するという事か! 面白そうだな。案外このような爆弾があるかもしれんぞ」
苦笑いを浮かべて、本隊へ確認を取ると言ってくれた。
後は任せておこう。さすがに今すぐということは出来ないだろうが、もしあるならこの先の大渋滞を起こしている車両を一気に始末出来そうだ。
「何か思いついたのかい?」
「着発信管でなく、空中爆発する爆弾なら、放置車両を一気に吹き飛ばせるかなと思ったんだ。通常爆弾では道路の穴が開くだろうからね」
「そういう事か! それなら使うのはサーモバリック弾だろうな。だけど思ったより効果が無いと聞いたことがあるんだよなぁ」
俺の言葉に、ニックが不安になるような事を言ってくれた。
良い手だと思ったんだけどなぁ……。
「シグさんが本隊に連絡しているんだろう? マリアンさんの事だから、可能性があるなら直ぐに用意してくれるんじゃないかな」
再び俺達の前に現れたシグさんが、マリアンさんが次のジャンクションで試みると教えてくれた。
どうやら、レーヴァさん達も大量の放置車両に手こずっているらしい。先ずは俺達の45号線で試してみて、上手く行ったなら他の2つのルートについても実施するとのことだった。
「さすがに、この場所は我等で切り抜けることになるが、次のジャンクションの車両を3割程でも排除できるなら、テキサスシティが見えてくるぞ」
「3日程で到達できると思っていたんですけどねぇ……。このままでは5日も難しく思えてなりません。でも、上手く行ったならこの後の行軍は楽になりそうです」
行軍が楽になるという俺の言葉に、シグさんが苦笑いを浮かべながら頷いてくれた。
軍人は苦労するのが当たり前。まして海兵隊ともなれば……、という事かな?
でもウイル小父さん達の行動を見ると、いかに楽をするかと考えている感じもするんだよなぁ。
「少しは楽になるってことかな? でも俺達の仕事は変わりないだろうからね。今まで通りに周辺のゾンビを狩ることにするよ。狩ればそれだけアメリカのゾンビが減るに違いない。コクーンなんて代物も出てきたけど、あれから生まれるゾンビの数よりも多く狩れば総数は減るだろう」
エディの言葉に、俺達が笑い声を上げて頷いた。
コクーンの数は全く不明だけど、さすがに毎日1万体を越えるゾンビが生まれるとは考えにくい。現在進行中の作戦を通して、日々数千体を越えるゾンビが葬られているだろう。その数よりコクーンから生まれるゾンビの数は少ないと思うのは俺だけなんだろうか?
この辺りは生物学研究所の博士達の意見を確認したいところだな。
サンディーを通して、確認してみるか……。
改めてニックがコーヒーを作ろうとフクスのキャビンに飲料水を取りに向かうと、すぐにコーヒーポットを持って降りてきた。
どうやらジュリーさん達が既に準備しておいてくれたらしい。
キャビンの中に向かってお礼を言うと、熱いコーヒーを頂く。道路上は夏の日差しが反射してかなり暑いんだけど、コーヒーは熱くても飲めるんだよね。もっとも俺は各砂糖を入れて覚めるのを待ちながら、タバコに火を点けたんだけど……。
「既に30分を経過している。後10分足らずで爆撃が始まるぞ」
「側面に仕掛けた爆薬の機爆はアレフさん、東のジャックはジュリーさんの担当ですから、俺達はこの辺りで時間を待つしかなさそうです。でも予定時刻3分前には耳栓はしてくださいよ。かなりの爆発音でしょうからね」
「大丈夫さ。2つも耳栓を用意しているよ。サミーこそ、そのヘッドホンで十分なのかい?」
「皆が耳栓をした時に集音装置のスイッチを切れば十分さ。ノイズキャンセラー付きだけど、今のところはあまり使っていないんだよね」
周辺ノイズをカットして集音装置からの音だけに限定すれば、確かにゾンビの声を明瞭に聞くことが出来る。だけど、案外周辺の音は重要なんだよなぁ。特に俺一人で行動する時には、集音装置の指向範囲を外れて近づくゾンビに気付かない可能性もある。
ゾンビの立てる足音等も重要な脅威の察知手段の1つだ。
「爆撃予定時刻3分前だ。耳栓を付けろ!」
シグさんの言葉で直ぐに集音装置の電源を落とす。ボリュームを絞っても良いのだろうが、集音装置のセンサーやアンプ等が大音量の対処で故障しないとも限らないからなぁ。
皆が腕時計をジッと見つめる。さすがに道路の西を見ようなんて思わないだろう。1km先に爆弾が降ってくるんだからね。
時計が10時50分を示して、3秒も経たずに大きな爆発音が聞こえて来た。
直ぐに今度は東から小さな爆発音が聞こえて来たかと思ったら、西から連続する爆発音が聞こえてくる。南から聞こえた大きな爆発音を最後に爆発が聞こえなくなった。
爆発の経過時間は30秒にも満たないが、これでかなりのゾンビを始末したに違いない。
ヘッドホンを跳ね上げてシグさんの肩を叩くと、シグさんが耳栓を外して俺に注目する。
「ジュリーさんと状況確認をしてください。ハンターユニットを搭載して向かわせれば、統率狩りが出来るでしょう」
「了解だ。側面の爆破も気になるところだな。状況確認までは作業を中断させるぞ」
さて、どうなっているだろう。俺もその間に周辺の状況を探っておこう。集音装置の電源を入れて、車両の周囲をゆっくりと巡ることにした。
一巡り終えたところで、指揮所のキャビンに入る。エディ達は指揮所の屋根に移動して周辺の監視をすると言ってくれた。
まだ作業を再開するには情報不足だからね。状況が分かり次第、また車の中を確認することになるだろう。
「どうですか? この辺りに近付くゾンビはいませんでした」
「ご苦労だった。状況だが……、先ずは側面を破壊しての所領の撤去の方は、上手く行ったようだな。さすがは工兵だと感心してしまう。破壊した側面の抉られた箇所に放置車両を落とせば30台程を処理できるだろうし、爆風で爆薬近くの車が吹き飛んだから作業空間も出来たようだ。いつでも作業を再開できると先ほど連絡があったぞ」
「ドローンでの確認に異常が無ければ直ぐに開始しましょう。ところで、もう2か所の方は?」
「東は道路周辺の偵察が終わり次第向かわせる。西は……、左のモニターを見てくれ」
まだ燃えているなぁ。通常爆弾だけでなく、ナパーム弾も投下したようだ。ゾンビにはかなり効果的だからという事で使ったのだろう。
「共食いが始まっていますね……。戦士型の姿が多いようです」
300m程の光度から撮影された 画像を見る限り、戦士型が3割を超えているようだ。通常型ゾンビとしか見えない中には、統率型も混じっているに違いない。
「左上の個体を見てくれ……。これだ!」
シグさんがレーザーポインターで示した個体は体の半分ほどがちぎれているのだが、それでも残った脚で動こうとしている。やはり中枢となるメデューサが未だ破壊されていないのだろう。だけど……。
「まるでタコですね……」
「カメレオンではなく、タコか。タコは一瞬で擬態するらしいな。体表面を周囲の色にその場で合わせられるのだから驚く限りだ」
目で見て色を合わせるとも思えないんだよなぁ。だけどそんなふうにしか思えないように周囲の色と体色を上手く合わせることが出来るのがタコという生物だ。
「でも合わせることが出来ないみたい。次々と色を変えているもの」
メデューサの持つ技能が破綻したということかな? となればメデューサ本体にも損傷が及んだに違いない。
「このまま放置して、損傷個所を修復されても困ります。ジュリーさん、砲弾を落としてください」
「了解。真上に落とすね。ついでに染料の入った砲弾も搭載したから、それも落としてみる」
ジュリーさんの言葉に、シグさんと顔を見合わせてしまった。
まだいるかもしれないということかな?
だけど、ステルスゾンビがそれほど多いとなると、今後の作戦遂行に影響が出てしまいそうだ。




