H-784 渋滞したジャンクションの手前で一夜を明かす
ヒューストン市街地の真ん中を進む俺達の部隊に比べ、西回りと東回りの部隊はかかなり順調に進んでいるらしい。
とはいっても比較だからねぇ。西回りは、コンローからナバソーダを経てヘムステッドのジャンクション手前で野営をするようだ。ヘムスタッドのジャンクションが車で一杯とのことだから、明日は1日中放置車両の撤去をするらしい。
東回りの方はクリーブランドを経てデイトンを通り過ぎ、モント・ベルブーで同じようにジャンクションの放置車両で足止めされたとのことだった。
「他の部隊の半分も進んでいないんですよねぇ……」
「我等は市街地を進むからな。距離は短いが極めて危険性の高いルートであることは間違いない」
日暮れ前に俺達の部隊は、今夜の野営地である大きなショッピングモールを東に見る道路上に停車した。数百mも南に進めば100台を超える放置車両がすし詰め状態になったジャンクションがある。ヒューストンの市街地から郊外に抜け出ようとしたんだろうな。百台を超えるというけれど、俺には数百台に見えるんだよねぇ。
「45号線以外の放置車両はそのままで良いだろう。とはいえ、ゾンビが潜んでいないとも限らん。その措置ぐらいはしておかねばなるまい。それで、明日の作業だが……」
車両の撤去作業は、当初の予定通りにアレフさんとエリックさん達に任せて、作業場所近くの車両に潜むゾンビの掃討は俺とシグさんそれにエディ達の4人で行う事になる。ジュリーさん達はドローンを使っての監視だ。ドローンの離発着台を持つもう1台のフクスの上でオルバンさん達も周辺監視に加わってくれるし、万が一の際には俺達が車両に戻るまでの援護を引き受けてくれる。
「今日と同じって事?」
「我等が車両の確認をする以外は同じだ。ドローンには染料を入れた砲弾を1発入れておいて欲しい」
ステルスゾンビが何時現れないとも限らないということなのだろう。
1発と言わずに2発搭載しておくべきだろうな。
「夜間の監視は2時間交代で行う。明日の作業開始は0800。朝食はそれまでに車両ごとに取ってくれ」
集まった士官達が,「「了解!」」と応えたところで解散となる。
最初の監視はジュリーさん達女性兵士だ。
既に夕食を取っているから、そのまま指揮車の屋根に上っていく。ストライカーにも女性兵士がいるとのことだから、2両の屋根で周辺監視を行うのだろう。
「このタブレットを活用させて貰う。帯域表示バーが上がったら、ゾンビが近付いてきたということよね?」
「そうです。『おかしいな?』と感じたら直ぐに俺に連絡して下さい。照査してみます」
スペクトルアナライザーと音声映像装置を上手く使えば、ゾンビ位置や種別まで分かるし、その後に銃撃だって出来るんだけどねぇ。機材の製作は進んでいるとのことだけど、まだ小隊毎に配布するまでには至っていないらしい。
ジュリーさんの持つタブレットは指揮車の屋根に設けた集音装置からの信号を使った簡易型のスペクトルアナライザーだ。
それでもスターライトスコープでの目視より、しっかりとゾンビの接近を確認できるだろう。
指揮車を女性兵士達の宿泊所にすると言うので、俺は装備一式を持ってもう1両のフクスへと向かう。さすがに銃はリンクスではなくマーリンだし、ベルトのホルスターにはM29を入れてある。同じ44マグナム弾だから銃弾の互換性を考えればこっちの方が良いのだが、あの反動だからねぇ。
ハンモックをキャビンの中に放り込んだところで、テーブルを囲むベンチに座る。
どうやら、眠れない連中がカードで遊んでいる。
ブリッジと言うトランプゲームの一種らしいのだが、俺にはさっぱり要領が分からないんだよねぇ。
それでも、シェラカップ1杯のワインを手に熱中している兵士を見ていると気分が和らぐ……。
エディ達はどこかと当たりを見渡したら、別のテーブルでオルバンさん達と一緒に何やらやっている。カードゲームの席を離れてエディ達のところへ行くと、銃の手入れをしているところだった。
屋根に上って銃撃していたからなぁ。俺もやるべきだろうけど、オルバンさんが明日の晩にやってあげると言ってくれたから、とりあえずそのまま銃架に置いたままだ。
「サミーか! やはりバレットは強力だね。頭が吹き飛んだよ」
エディがいかにも当たり前のような口調で言うから、オルバンさが顔を下げて、ククク……と笑っている。
「サミーも面白い銃を使っていたね。サミーが立射出来るなら俺にも出来るんじゃないか?」
「ニックなら出来ると思うよ。でも狙撃と言うならバレットが一番だろうね。距離が離れると着弾がバラつくんだ。最初の5発で当たったのは1発だけだったからなぁ」
「サミーが長距離射撃に向かないのは俺達が一番分かっているさ。だから俺達がいるんだからね。ニックは俺の観測手として頑張ってくれよ。スコープの倍率が高いから狙撃目標以外の動向を見ていられないからなぁ」
「そうだね。そういう意味ではサミーは俺達の遊撃手という事になるのかな。それならあの銃はそのマーリンよりも良いと思うよ。いくら44マグナムでも100mを越えたなら結構落ちるだろうからね」
ニックの言葉に頷いた。それが唯一の欠点に思える。100mぐらいまでなら結構狙いは正確なんだけど、それ以上の距離ともなればダットサイトの輝点から30cmは着弾点が落ちるからねぇ。
それを防ぐにはシグさんのマーリンのような45-70弾という大型獣を狩る銃弾を使うしかないだろうな。
周辺を監視しているニックの持つライフルでは対処できない場合に備えて、シグさんは屋根に上ったのだろう。
「パイソンからM29に替えたという事は、戦士型が今後増えてくるという事か?」
「至近距離なら、これでも初期の装甲型ゾンビは何とかなるからね。ステルスゾンビの装甲はそれほど固くはないよ。だけど目に見える装甲型ともなればバレットが一番だろうね。とはいえ、万が一に備えて手榴弾は持っていてくれよ」
「大丈夫! それぐらいは心得ているよ」
ニックがベルトのグレネードポーチをポン! と叩いて苦笑いを見せてくれた。
あの大きさなら2個の攻撃型手榴弾が入っていそうだな。ワンテンポ遅れてエディが取り出したのは鉄パイプの手製爆弾だった。何時も1本をベルトに挟んでいるみたいだな。
「屋根の周囲をポリカーボネイトの板で補強しましたからねぇ。いざとなれば直ぐに手榴弾を使いますよ」
オルバンさんがうんうんと頷きながら応えてくれたから、もう1両のフクスについても防御は出来ているという事だろう。
軽い点検整備を終えた2人が、ふうと息を漏らしてタバコを手にする。
俺とオルバンさんもタバコを取り出して、4人で一服を始める。
だいぶ夜も更けてきた。次は俺達が当直になるからここで交代の時刻を待つことにしよう。
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「後はよろしく!」
俺達のテーブルにやってきたジュリーさんの言葉に、全員が腰を上げてフクスの屋根に上る。
上ったのは離発着台のあるフクスだ。こっちのフクスは屋根の後方が一回り大きく鋼板で補強されている。周囲は高さ50cm程のポリカーボネイトの板を巡らしているから、腰を下ろしてヘルメットのバイザーを下ろすことでゾンビの発射体を防げるはずだ。
手榴弾を投げた時には、さすがに身を伏せるだろう。
エディ達がスターライトスコープで周囲を監視する中,俺は集音装置を使ってゾンビの声を探す。
さすがに市街地に入っているからなぁ。ゾンビの声が全周から聞こえてくるけど、どれも明確な声にはなっていないから距離は離れているようだ。
スペクトルアナライザーには戦士型や統率型の声も確認できるし、かなり小さくではあるが士官型や伝令型の存在まで分かる。
「どうだ?」
「出会ったゾンビが全ている感じだね。だけど距離は離れているから、危険性はあまりなさそうだ」
「それが分かるんだから、サミーがいると安心できるね。確かに俺達の目では全く存在が分からないんだけど、近くに隠れているんじゃないかという危惧がどうしても出てきてしまう」
ニックの言葉にオルバンさん達も一緒になって頷いているんだよなぁ。
前線から離れることが出来るよう、そろそろどうやってゾンビの存在を知るかについて報告書を書いてみるか。
上手く出来たなら俺が軍にいる価値が低下するだろうから、案外早くに明るい農園生活もしくは牧場生活が出来るかもしれない。
屋根の上で3時間を過ごし、次のグループに監視を引き継いだのは、翌日の2時過ぎだった。フクスのキャビンを覗くと、すでに数人がシュラフに入っている。あの間に入いって寝たら隣の寝相で起こされかねないな。上手い具合に俺の寝具はハンモックだから2両のフクスの間にハンモックを吊って横になる。上にはタープを屋根代わりに張ってあるから朝日で起こされることも無さそうだ……。
横腹を突かれて目が覚めた。
眠い目をこすりながら犯人を見ると、シグさんが笑みを浮かべて立っていた。
時計を見ると、まだ6時台なんだよなぁ。もう少し眠らせて欲しかった。
「今日は忙しくなるぞ。早めに朝食を取っておくべきだ」
「作業開始は8時ですよねぇ。まだ6時を少し回ったところですよ」
俺の言葉に首を振るだけなんだよなぁ。さすがに二度寝は出来そうもないから、ゆっくりとハンモックを降りて通行の邪魔にならないようハンモックを丸めて指揮車両のハッチ傍に結わえておく。
既に東の空に上がっている朝日に両手を合わせると、2両のフクスの間に設えたテーブルセットのベンチに腰を下ろした。
「とりあえずコーヒーだ。もう直ぐレーションが温まるぞ」
「ありがとうございます。それで昨夜は?」
「以上無しだな。サミーから周囲にゾンビがいるという注意は、監視チームに伝わっていたぞ。私も今朝方聞いたのだが、姿は見せないようだな。ジュリー達が起きたら、直ぐに放置車両群の周囲を確認させるつもりだ」
「そうですね。作業場所から1kmの範囲を重点的に監視して貰いましょう」
クロードさん達の砲爆撃で、ゾンビ達は市街地の外側に移動したのかもしれない。
そうなるとレーヴァさん達の方も、ゾンビを駆除しながら進むことになりそうだな。
女性兵士がステンレスのトレイにレーションのパックを乗せて俺達の前に置いてくれた。
温めなくても食べられると聞いたけど、やはり食事は暖かい方が良いからね。
運んでくれた女性兵士に礼を言って、シグさんと一緒に頂く。
分厚いクラッカー2枚にはジャムが塗ってある。温かなパックに中身はチキンミートボールだった。
「朝はこれくらいで良いだろう。昼食はカロリーバーになりそうだが、夕食は残ったレーションがあるから、エディ達も満足するだろう」
昼食分も夕食時に食べられるってことかな? 腹ペコ兵士ばかりだろうから皆が喜びそうだ。




