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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-773 バッファローのゾンビは少数のようだ


 バッファローの町のかつての人口は3千人程度だったらしい。ジャックに集まるゾンビの数も30体前後という事だから、ゾンビの数はかつての人口の三分の一程じゃないかな。


「ノイズマシンを仕掛けて、一か所に集めたところを砲撃すればバッファローの脅威は無くなりそうだ」


「その旨伝えておきましょう。次の町もそうだと良いんですけどねぇ……」


 ドローンで州間高速道路45号線沿いに、バッファローの南北を10km近く偵察しても道路上を動くゾンビの姿は無かった。

 ある意味、取り残された町にも思えるけど、州間高速道路は大都市に生息するゾンビの移動経路でもあるからなぁ。今はゾンビ数が少数でも、今後ともその数が変わらないと断定することは出来ないだろう。


 鉱山跡地の荒れ地の一角に車を止めて焚火を作る。

 あの騒動が始まって数年以上過ぎているからなぁ。荒れ地に灌木が育っている。おかげで薪に困ることは無いんだが、しっかり火の始末をしておかないと火事が起きてしまいそうだ。


「最後に穴を掘って残り火を埋めれば十分だ。それと焚火を作る前にはこのように下草を掘り起こしておくんだぞ」


「キャンピングのマナーみたいですね。さすがにそれぐらいは心得ていますよ」


 シグさんの忠告にしっかりと頷いておく。

 焚火に三脚を立てて、ジュリーさん達が大きな鍋を吊り下げている。具材はまだ入っていないんだけど、何が出来るか楽しみだな。

 焚火の傍らにコーヒーの入った大きなポットが置かれている。沸騰したところでニックが挽いたコーヒーを入れていたんだが、あれだとカップに注いだ時に粉が一緒に入ってしまうと思うんだけどねぇ……。


 どうやったら上手く飲めるんだろうと考えていると、オルバンさんがひょいとポットを持ち上げて自分のシェラカップに注いでいる。

 ジッとオルバンさんを見ていると、俺の視線を気にすることもなくそのままカップのコーヒーを飲んでいるんだよなぁ。


「荒野で飲むコーヒーは、これが一番かもしれませんね。かつてのオレゴンロードでこのようにコーヒーを飲んだという記事を読んだことがありますよ」


 そう言いながら、口に入ったコーヒー豆のカスをハンカチで口元を隠しながら、ペッと吐き出している。

 なるほど、そのまま飲んで口の中で豆のカスを分離するという事か。

 でも男ならそれでも良いんだろうけど、さすがに女性はねぇ……。

 次にポットを持ち上げたにはジュリーさんだった。

 オルバンさんと同じかな? と思って様子を見ていると、ドリップ用のフィルターを使ってカップに注いでいる。

 あれなら、口にカスが入る心配は無いだろう。


「ジュリーさん。終わったらそのフィルターを科してくれませんか?」


「サミーはオルバンやエディみたいな方法は取らないという事ね。了解。カップを貸して、砂糖も2個入れてあげる」


 そんな俺を呆れた目で見ているエディ達だけど、やはりコーヒーは甘くて温く、しかもコーヒーのカスが入っていないのが一番に思えるんだけどねぇ……。


「人様々という事だろう。我等はオルバン達の飲み方で先人たちの苦労をしのぶことが出来るが、サミーにはそんな先祖達はいないだろうからなぁ」


「一杯のコーヒーで歴史を感じることが出来るのは素晴らしいことだと思いますよ。でも俺はこのコーヒーが一番に思えます」


 ジュリーさんからコーヒーを受け取り、一口飲んだところでシグさんに答えた。

 小さく頷いているから自分なりに納得してくれたのだろう。


「それで、明日はどうするの?」


 吊り下げられた鍋に、ボールに入った具材を入れながらジュリーさんが問いかけてくる。

 エディ達の視線が一斉に俺に集まるんだよなぁ。


「いつも通りで行きます。ここにカーゴを残して身軽な状態で45号線を南進し、次の町の状況を確認します。バッファローよりも大きな町ですが、仕掛けるジャックは3個で十分でしょう。停車位置は町の北5km。町中の統率狩りをしながら状況確認を並行して行います」


「統率型が複数いる可能性があるという事か……。それならバッファローの統率型も狩るべきではないのか?」


「夜間の狩りをジュリーさん達に行って貰います。でも22時までですよ。いるとしても数体には満たないでしょうから早めに見切りを付けたいですね」


「任せといて!」なんて言いながらオタマで鍋の中をかき混ぜている。野菜スープかな?

だいぶ野菜が入っているのが見えたからね。


 夕食は大きなパンに炙ったハムを挟んだ品と、俺の予想通りの野菜スープだった。スープと言うよりもポトフなのかな?

 ダラスの夏は日が暮れてもまだまだ気温は下がらないんだが、熱い夕食は案外食欲をそそってくれる。

 スープのお代わりをしようとしたら、残念そうな表情でジュリーさんが首を振っているんだよなぁ。


「美味しかった? やはり私は料理上手なのかもしれない。次はもっと沢山作ってあげるからね」


 その言葉に俺はしっかりと頷いたけど、エディ達は首横に振っているんだよなぁ。

 コーヒーに塩を入れられないように、後で注意しておかないと……。


 食後のコーヒーをもう1杯頂きながら、タバコに火を点けて食休み。

 エディ達は早々に切り上げて、ドローンの準備に向かったようだ。

 

 すっかり闇に閉ざされた荒れ地に集音装置を向けてゾンビの声を聞く。

車列の周囲を巡りながら何度か立ち止まる。異常が無いことを確認したところで指揮車両のキャビンに入った。


「周辺にゾンビはいませんね。小さな町だとしても狩りをするゾンビ位はいると思っていたんですが……」


「西ではなく東ということなのだろう。町の西に収監高速道路があるのだ。少し高台であることからゾンビの活動が東に限定されているのかもしれん」


 ゾンビは段差や坂道が苦手だからなぁ。とは言っても戦士型のように多脚を持つ連中はそんなことはないんだが、狩りをするのは通常型だからね。相変わらず初期のゾンビとそれほど違いは無いからなぁ。


「それで、ジャックの方は?」


「後5分も掛からずに設置出来るよ。作動時間は最初と同じく30分」


 俺の問いに、無線機の前に座って子猫を抱いていたジュリーさんがこちらに顔を向けて教えてくれた。左隣の女性兵士2人がドローンを操縦しているのだろう。モニターに真剣な表情を向けていた。


 後部ハッチの銃眼用の窓を開けて、獲って付けたような換気扇を回す。換気扇と言うよりも、窓に向けて設置したオモチャのような扇風機だ。

 俺とシグさんが愛煙家だからエディ達が設置してくれたのかな?

 スイッチを入れると、ブーンと音を立てて回り始めた。

 近くでタバコに火を点けると……、なるほど外に向かって煙が流れていく。しっかりと換気扇の役目をはたしているようだ。


 ジャックの設置が終わり、ドローンが戻ってくる。今度はハンターユニットを搭載してジャック周辺の状況を確認しながら統率狩りを行うのだろう。

 モニターが良く見える位置に移動して、屋根に設けた集音装置の回転を自動に切り替えヘッドホンを片耳に当てて周辺監視を始めた。

 30度ごとに10秒程停止して全周を探れるんだから便利になったものだ。最初は自分で探知方向を動かしていたからね。


「ジャックの上空だ。北のジャックだな。集まってはいるが……、数が少ない。それに夜間集まるゾンビが全て通常型だ」


「まだ作動してから時間が経っていませんよ。もし変わったゾンビがいるとしても直ぐには現れないでしょう」


「周辺を探るね!」


 ジュリーさんの声と共に、ジャックの上空からドローンが移動し始めた。スターライトスコープだからモノトーンの映像だけど、ゾンビの姿を捉えることに問題は無い。

 ジャックに向かって移動しているゾンビがいるけど、やはり通常型だな。


 設置したジャックから500mの円周上をドローンが飛行している。高度は150m程だ。しっかりと集音装置から聞こえるゾンビの声を映像化してジュリーさん達は見ているようだけど、統率型の特徴的な声は聞こえて来ないんだよなぁ。

 やはりいないという事なんだろうか?

 俺達が最初にゾンビを掃討したグランド・レイクやグランビーには統率型がいなかったからなぁ。ゾンビがある程度以上の集団を作ることで統率型が生まれるのかもしれないな。


「んっ! ジュリー、そろそろジャックが炸裂するぞ」


「了解。南は北のジャックより炸裂が15分遅れるから先ずは北だね」


 時間差を設けていたのか。

 それなら5分以上監察出来そうだな。

 屋根で動いている集音装置を主導で素早く全周動かして、ゾンビが接近していないことを確認したところで、ハンターユニットの集音装置に切り替えヘッドホンを外した。

 そのままでいると、ジャックの炸裂音を聞くことになるからなぁ。

 再び後部ハッチ近くに移動してタバコに火を点け、モニターで炸裂を待つことにした。

 

 モニターが一瞬真っ白になる。

 フィルターを取り付けたようだけど、センサーが破損しないようにシャッターを設けた方が良いかもしれない。

 だけど、すぐに映像が復旧したのは、やはりフィルターは偉大だという事なんだろう。


 ドローンを降下させてジャックの炸裂の巻き込まれたゾンビの姿をシグさん達が確認している。共食いが直ぐに始まるから気分が悪くならなければ良いんだけどね。

 俺はノートパソコンの音声スペクトル見ながら、集音装置からの音声を帯域フィルターを通してヘッドホンで確認する。

 やはり通常型ばかりだな。

 バッファローに生息するゾンビの数は2千体程度と推測していたのだが、どうやらかなり少ないようだ。千体を下回るかもしれないな。


「これなら、バッファローを俺達が攻撃せずとも問題はないでしょう。予定通り、明日はセンター・ビルに向いましょう」


「そうだな。本隊への連絡は私がしておく。ジュリー、『明日の0900時に出発する』とオルバンに伝えてくれ。夜間当直はオルバンが時間を決めてくれるだろう。さすがに全員が寝てしまうわけにもいくまい」


 シグさんの話に、「お願いします!」とジュリーさんに伝える。

 これで俺の指示ということになるはずだ。まったくもって指揮官という柄ではないからなぁ。


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