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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-272 次の駐屯地を目指して


 ダラス周辺の地図を広げて、40インチのモニターに広域偵察ドローンが撮影した35号線の画像を映し出す。

 蓋つきのコーヒーカップを手に持ち、地図と映像を見比べながらウエーゴ市の状況を推測していると、何時の間にか地図の上に子猫が乗っていた。

 左手を差し出してからかっていると、結構じゃれつくんだよなぁ。人見知りはしないようだ。

 そんなことをしていると、いきなりシグさんが子猫を抱きとってしまった。

 残念そうな表情でシグさんに顔を向けると、笑みを浮かべて抱きしめた子猫を優しく撫でている。


「もうすぐ2人の子供を抱けるのだ。そんな顔をすると嫌われるぞ」


「まだ2か月も先ですよ。レーヴァさんの話ではだいぶお腹が大きくなったとのことですから、今年のクリスマスが楽しみです」


「ダラスを抜ければヒューストンは目の前だ。とはいえ、マリアン殿はだいぶ迷っているようだったな」


 ヒューストン市街地を西回りでテキサスシティに向かうのか、それとも東周りをするのか……。その判断には先行偵察が是非とも必要だろう。

 バッファローの駐屯地の次の駐屯地は45号線沿いにある大きな工場や倉庫群の駐車場になるのだろうが、そこで最終的な迂回路を定めることになる。陸上艦隊には俺達以外にレーヴァさんが率いる先行偵察部隊がいるから、2つの部隊でう回路の状況調査を行うことになるのだろうな。


「俺としては西回りを勧めたいところですけど、少し遠回りなんですよねぇ。それに越境してきたゾンビの動向も気になります」


「東周りは距離が短いし、越境ゾンビの心配は無いが市街地に近すぎるという事か……。だが、クロード大佐が2年近く砲撃を行っているし、ブロンコⅡによる爆撃も続けている。砲撃で破壊した地区をナパーム弾で焼き払っているのだからなぁ。それを考えると東周りが本命に思えてくる」


 ヒューストンに残ったゾンビの数の推測を、再度行う事にもなりそうだ。ブラックホークでノイズマシンを数台設置すればすぐにわかるだろう。

 

「それで、その子猫に名前を付けたんですか?」


 素朴な俺の問いかけに、ジュリーさんが俺に体を向けて応えてくれた。


「『シンディ』と名付けたの。意味は……」


「シンデレラですね。灰色の毛並みですから、灰被り……、愛称がシンディという事ですか」


「雌猫なのよねぇ。雄猫なら『ダスティ』なんだけど」


 ジュリーさん達のネーミングセンスはかなり良いみたいだな。さて、俺達の子供はどんな名前になるんだろう。


 シンディがシグさんの抱く手を逃れて、ジュリーさん達のところに歩いて行った。飼い主は誰なんだろうと考えてしまうけど、多分ジュリーさんが名乗りを上げるに違いない。

 再び地図を眺めていると、先頭を走っている2号車のオルバンさんから連絡が入った。

 どうやらウエーゴ近辺にまでやって来たようだ。


「オルバンの判断で停めてくれ。目安は町の手前5kmだ」


『了解しました。となると数分後には止めることになりますから、準備してください。3号車にはこちらから連絡します』


 オルバンさんの言葉通り、5分も経たずにフクスが停車する。

 後部ハッチを開けて外に出ると、車列の周囲を巡りながら集音装置でゾンビの声を聞く。

 南西方向からかすかに聞こえてくるだけだから、シグさんに『周辺に異常無し』と連絡すると、すぐにドローンの準備が始まる。

 停車した場所は高速道路上だ。土盛がされているから周辺の土地よりも少し高い。道路脇の雑草がかなり茂ってはいるが、見通しは良好だ。

 指揮車の屋根に1人が上がって周辺の警戒を行うのを見ていると、前方のフクスからジャックを抱えたドローンが飛び立っていった。

 結果は1時間以内に分かるだろう。

 その場に立ってタバコに火を点ける。

 キャビン内で吸うと、ジュリーさんお小言を言われそうだ。外で据えるなら外の方が美味しいからね。


 一服を終えてキャビンに入り、シグさんと一緒にモニターでドローンの映像を見る。

シグさんの話では、ここから先3つ目のジャンクション傍にあるスーパーマーケットの駐車場に仕掛けるらしい。

 ジャックを駐車場の真ん中に降ろすと、ドローンが高度を上げて停止する。高度は300mとのことだ。ドローンが大型化したから搭載しているバッテリーの容量も大きくなったとのことで、稼働時間は45分もあるらしい。


「この状態で30分見守れるよ。下ろして直ぐにジャックを動かしたから、近くにいるなら直ぐに集まると思うんだけど……」


 ジュリーさんの言葉が終わらない内に、スーパーマーケットの建屋内から、ぞろぞろとゾンビが出てきた。

 10体に満たないな。まだ作動させて直ぐだからね。しばらくは眺めていよう。

 一服しながらモニターを眺めていると、ジュリーさん達が2機目のドローンを飛び立たせた。ハンターユニットを装備させたと言っているけど、狙いはジャックを仕掛けた1つ手前のジャンクションらしい。

 そのジャンクションで35号線から東に延びる164号線へとフクスを走らせるのだが、ジャンクションを降りるとウエーゴの市街を東周りで再び35号線に乗る道路になる。

環状線だから放置車両が多いのが気になったのかもしれないな。


「念の為だが、先を見ておくという事だな。指示せずとも動いてくれるのだからたいしたものだ」


 シグさんが感心した様子で、手元に置いたリモコンで40インチのモニターを2画面表示に切り替えた。

 これでどちらも見られるという事なんだろうな。

 ジャックを設置してから20分以上経過しているのだが、集まったジャックは十数体だ。全て通常型ではあるが、その中に腕の太いゾンビが数体いた。

 先端を拡大すると、3つの穴が開いていたから、プレリードッグを狩るゾンビなのかもしれない。

 戦士型と尖って、穴の大きさも小さいから威力はあまり無いのかもしれないけど、毒針を発射する戦士型もたからなぁ。近付かれる前に倒しておきたいところだ。


「そういえば、エディの訓練の方はどんな具合なでしょう?」


「300mで9割、500mで7割というところらしい。それぐらいまでは少し訓練すれば到達するのだが、それ以上の成績を得るためには素質が必要だとオルバンが言っていたぞ」


 素質ねぇ……。射撃訓練でバッジを貰えなかったのは俺だけだったからなぁ。俺には耳痛い話だ。


「300mでゾンビと対峙するなら現状でも十分だろう。エディにはM4カービンだけでなくバレットも待たせてある。とはいえ、あまり使う状況にはしたくないところだな」


 30分後にジャックが炸裂した。

 それまでに集まったゾンビの数は20体と言ったところだ。やはりゾンビの数はかなり減っているという事になる。

 本隊が通過する時に、砲撃を行えばウエーゴのゾンビはさらに削減できるだろう。

 昼食を取って、2つ先のジャンクションを降りる。

 環状線の直ぐ右手に住宅街があるのだが、集音器から聞こえるゾンビの数は多くは無いな。たまに聞こえてくる声は、多くても数体と言ったところだ。


 数km南下した交差点を左に曲る。今度は164号線へと続く道だ。およそ100km先が新たな駐屯地となる鉱山跡地になる。

 時計を見ると14時少し前だ。16時には鉱山跡地に到着できるだろう。

 運転席の後ろにある天井ハッチを開けて、屋根に上る。

 フクスの速度はやや控えめに時速60kmと言ったところだろう。

 風が気持ち良いな。周囲は何処までも続く荒地だ。かつては農場だったのだろうが今では見る影もない。再びこの地で農業が始まるのはかなり先になるだろう。

               ・

               ・

               ・

「もう直ぐ、目的地だ」


 モニターと地図を交互に眺めていたシグさんが呟いた。

 首を傾げている俺に、先程墓地に至る道を通り過ぎたと教えてくれた。

 表示板があったのかな? 俺は気が付かなかったけど……。


「オルバンから連絡。『左に入る!』と言ってた」


「了解。オルバンに続いてくれ。もう直ぐ目的地だ。直ぐにドローンを使うぞ!」


「2機共に準備出来ているよ。到着した5分後には飛立てる」


 ジュリーさんとシグさんの会話を聞いていると、急にフクスが左に曲がった。

 道が悪いのかな? かなり揺れるんだよなぁ。

 5分ほどそんな状態が続いたところで、フクスが停車する。

素早く周辺を確認したところで、キャビンを出た。ゆっくりと周囲に目を凝らしながら、集音装置から聞こえてくるゾンビの声に神経を尖らせる。

車列を一巡りしたところで、シグさんに「異常なし!」を伝えると、兵士達がぞろぞろとキャビンから姿を現した。

 エディ達は既に屋根に乗っているんだけど、あれはドローン発進の補助の筈だ。

発進した後でキャビンに戻らず、そのままニックと一緒に屋根で一服をしているんだよなぁ。


「のんびりしていないで、周囲を監視してくれよ」


「やってるさ。でもサミーが確認しているんだろう? それなら、もう少し経ってからでも十分だよ」


 ステルスゾンビだっているんだから安心は出来ないんだよなぁ。

 でもこんな辺鄙な場所に、ステルスゾンビはいないだろうけどね。


1号車の傍に座り込んで屋根の上にいる2人と冗談を言い合っていると、ヘッドホンからシグさんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 スナイパー・エディの様子を聞いていたんだが、何かあったのかな?

 早めに戻った方が良さそうだ。


 キャビンに入ってベンチに腰を下ろした俺に、シグさんがモニターを見る様に言った。

 そこに映し出されていたのは、バッファローの市街の様子だ。ジャックにゾンビが集まり出しているのは、設置して直ぐにジャックを作動させたのだろう。


「どれぐらい経過しています?」


「まだ10分も経過していないのに、この通りだ。45号線沿いに移動したゾンビはいないようだな」


「それほど大きな市ではないようですけどねぇ。確か2千人ほどの人口だったはず……」


「あの騒動の時に他の町から移動して、そのまま居ついたのかもしれん。2千体を越えるゾンビがいるかもしれんぞ」


「それなら、市街地の南北にそれぞれ仕掛けてみましょう。それに集まってくるゾンビの数が少なくなっていますよ。あれなら50体にも達しないでしょう」


 ウエーゴのゾンビの数が思ったより少なかったからなぁ。小さな町で少し多くゾンビが集まると、それが異常に思えてしまうのかもしれない。

 シグさんが、ジュリーさんに新たなジャックを仕掛ける様に指示を出している。

 最初に仕掛けたのは市街地の中心付近とのことだったから、3か所に仕掛けたジャックに集まるゾンビの数で脅威の評価をしてみよう。


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