H-770 ダラスの中心部を避けて州間高速45号線に乗るためには
サン・アントニオ市から35号線を使って北上する十数万体のゾンビに砲撃を加えたところで俺達の役目が終わる。
翌日の朝食後に簡単な部隊の解散式典を行い、引っ越しの準備が始まる。明日はヒューストンから飛んできたチヌークを使って、拠点の資材を運ばないといけないからなぁ。
事前に荷造りが終わっているから、資材の搬出は案外すんなりと進んでいる。とはいえM102は1tを超えるからなぁ。慎重にワイヤーを掛けて運んで行った。
最後にシグさんと台船を一回り。して忘れ物がないことを確認したところでブラックホークに乗り込み、本隊の駐屯地へと運んで貰った。
俺とシグさんのバッグをオルバンさん達に頼んで、シグさんを伴って本隊指揮所に向かう。
マリアンさんが待っているはずだ。さすがに明日から次の任務とはならないだろうけど、これからの作戦を聞いておかねばなるまい。
戦車運搬トレーラーを改造して大型コンテナを横に2つ並べたような構造の指揮所だけど、マリアンさんはこれで十分に満足しているようだ。前の大型ダンプを改造した指揮所よりはだいぶ小さくなったけど、あれは結構余分な部屋を設けていたからなぁ。
指揮所に入って互いに敬礼を交わすと、マリアンさんがテーブルに座るよう促してくれた。
ナタリーがテーブルに並べてくれたコーヒーを飲みながら状況報告を行うと、話題が直ぐにサン・アントニオに新たに居座ったゾンビに移る。
「しばらくは動かないと見ているのね?」
「サン・アントニオのゾンビと戦っていますから、それなりに戦力を消耗したはずです。サン・アントニオ周辺の都市は小さいでしょうが、さすがに食指を伸ばすまでにはいかないでしょう。再び動くには50万体以上に戦力を増さねば滅ぼされないとも限りません。とはいえそう簡単に戦力が増すとは思えません。空軍が国境近くのゾンビの集団を爆撃しています」
「効果が芳しくなければ再度爆撃すると聞いているわ。そうなると、私達が西に向かうまでは動かないかもしれないわね」
「俺も同じ考えです。でも状況監視は必要でしょう。何といっても国境を守るために来年は西へ移動しないといけません。その時最初に戦う相手になりますからね」
俺の言葉に、笑みを浮かべて頷いている。隣に座っているリッツさんもいっしょになって頷いているから、すでに作戦計画を進めているのかもしれないな。
「ところで、最初の目的地はラレドですよねぇ。ラレドの橋を使って越境してくるゾンビを阻止すれば良いのですから、橋を落とすという選択肢はあると思うのですが……」
「一応、許可を得てヒューストンの部隊が落としているわ。私達が考えた進行ルートは、真っ直ぐにラレドではなく、東のブラウンズ・ヒルに向かうつもりよ。やはり東から西に国境線を辿りながら進むのが一番に思うの」
かなり時間が掛かりそうだな。2千kmを越える国境線だから、西海岸に到着するまで2年以上かかりそうだ。
「ブラウンズ・ヒルならヒューストンの艦隊の援護が期待出来ますね」
「ブラウン・ヒル港にカッターを2隻派遣して艦砲射撃を秋から行うわ。ヒューストンで艤装中よ。でもねぇ……、搭載する艦砲がM102の2連装砲塔1基らしいの。せめてM777ならば良いんだけど」
秋冬を通して砲撃するなら,105mm砲でも十分に思えるな。都合4門での砲撃だから着弾観測をしながら市街の破壊を進められるだろう。
リッツさんの話では、当初は155mm砲を搭載する予定だったらしいけど、船体の強度計算の結果を見て断念したらしい。破壊力が半分程度に下がるM102にしたのはそれが原因だったらしい。元々の2インチ速射砲を105mm砲出来たのだからありがたいとのことだった。
元々が沿岸警備用の船だということで、後部甲板には大きなヘリの飛行甲板があるし、2機のドルフィンと呼ばれる多目的ヘリを搭載している。ヘリの搭載能力は1tを越えるとのことだから、ノイズマシンの設置も容易に行えるだろう。
「さすがにゾンビと衝突せずにブラウンズ・ヒルを制圧することは出来ないでしょうけど、私達が到着する頃には半減以下になっている筈よ。それにまだ越境してくるゾンビいないのもありがたいわね」
だがあの連中の工作で、国境にはかなりのゾンビが詰まっているに違いない。マリアンさんの事だから、国境を越える動線となる道路や橋の破壊は次々と行うのだろう。
今の所は自国領内のゾンビで手が一杯だけど、ある程度の見通しが付いたならパナマに向って南進することは間違いなさそうだ。その為に軍を進める橋を確保しておきたいところではあるんだが……。橋が無いなら強襲揚陸艦を使って移動することも可能だろう。
橋を1つ残したなら、その橋を守るために1個中隊近い部隊を張り付けることになりそうだ。現在のアメリカには、予備兵力さえない状態だからねぇ。橋の防衛で戦力を削るようなことは出来ないだろう。
「既に計画を進めているから、サミー君はあまり心配しないでも大丈夫よ。それで、現在進行中の作戦だけど……」
マリアンさんの視線を受けて、リッツさんが指揮所の大型モニターにダラス周辺の地図を表示した。
作戦の進行状況が一目で分かるように色付けされている。ゾンビの濃い地区は赤、市街地の破壊が進んでゾンビがあまり見られなくなった地区は白になっているようだな。色分けされた地図を見る限りダラス中心街にはまだまだたくさんのゾンビが生息しているようだ。
「州間高速道路35号線は、本隊からすぐ南のデントンで35W線と35E線に分岐します。35Wはダラス中心部を避けて西を通りますが、そのまま進めばテンプル市から50kmほど北のウエーゴ市で35Eと再び交わります。そのまま南進すれば100km先にサン・アントニオがあるのですが、我等の目的地はヒューストンですからねぇ……」
ダラスからヒューストンに向かう州間高速道路は45号線になるとのことだ。
35号線から45号線に乗り換えるための手段は、デントンから35E線に乗り換えダラス中心部で45号線に乗り換えるのが一般的らしいのだが、さすがにこれはリスキー^だろうな。
「我々は35W線を南下し、ウエーゴ市で東に向かう国道6号線に乗り換え、さらに164号線を東に進み、バッファロー市で州間高速道路45号線に乗り換えます。後はひたすら南下を続ければヒューストンです」
「この経路での対処には、サミー君達にも助けて貰うつもりよ。最初はウエーゴ市の詳細状況確認をして頂戴。何度か爆撃をしているし、その後にゾンビ同士の交戦があったから 残ったゾンビの数は少ないでしょうけど……。でも本隊を移動させるとなれば、さすがに確認せずにはいかないわ」
「少なくとも移動5日前には詳細な情報が欲しいですね。それに45号線に乗るまでの状況、さらには45号線との合流か所であるバッファローに付いても先行調査が必要でしょう」
次の本隊位置はバッファローの西に広がる荒地だろうな。かつて鉱山があったようだけど今では露天掘りの大きな穴だけがあるだけだ。
「俺の言葉に、リッツさんが大きく頷いているところを見ると、その鉱山跡地に本隊を展開しようと考えていたのだろう。
「バッファローから200km南はヒューストンよ。ヒューストンは少し面倒だから、そこまで向かったらゆっくりと考えましょう」
さすがにヒューストンのど真ん中を通ろうなんて蛮勇は持っていないらしいだろうからなぁ。市街地を取り巻く外周道路を使うという事なのだろう。
ヒューストンの外側を回る道路は西と東にある。西回りそれとも東回りのどちらを選択するのだろう。ヒューストンが目的といっても、実際はテキサスシティだからね。出来れば西回りと行きたいところだが、境してきたゾンビの動きが気になるところだ。しばらくは動かないだろうが、直ぐに越境ゾンビを駆逐するなんてことは出来ないだろうからね。そうなると東回りということになるけど、案外市街地に近いんだよなぁ。クロードさんが大口径の大砲で市街地を破壊しているだろうけど、ゾンビをどれほど葬ったのかまでは調査が及んでいないらしい。
「俺達の部隊が活躍できそうですね」
「期待しているわよ。先ずはバッファロー市手前にあるこの荒地が駐屯地として使えるかを調査してくれないかしら。でも明日直ぐに行くことはないわよ。2日は休んで、3日目に出発して頂戴」
シグさんと席を立ってマリアンさんに敬礼し、「3日目の朝に出発します!」と復唱する。
笑みを浮かべたマリアンさんに再度敬礼をして指揮所を後にする。
2日は休めるとのことだけど、フクスをしばらく動かしてないからなぁ。先ずは車両の整備と資材の補給を行わねばなるまい。
部隊に戻ると、シグさんが直ぐにオルバンさんを呼び寄せてくれた。
キャンピングテーブルにダラス近郊の地図を広げて、マリアンさんの指示を伝える。
エディ達やジュリーさんまで後ろから地図を覗き込んでいるんだよなぁ。
気になるのだろうから、そのままシグさんが話しを進めている。
「なるほど、確かにヒューストンに35号線は繋がっていませんね。ウエーゴから東に進み、この鉱山跡地周辺を調査すれば終わりということなんでしょうが、その先のバッファローの様子は確認しておく必要がありますね。その先の、ハンツビルとコンロ―も可能であれば調査したい場所です」
コンロ―は市街地を東回りに巡る出発点になるからなぁ。確かに先行調査しておいた方が良さそうだ。西回りはコンロ―から南に20kmほど先の町なのだが、ダラスの市街地と繋がっているから俺が単独でバイクを走らせれば状況ぐらいは分かるだろう。
「出発は3日後だ。フクスの整備と資材を搭載して欲しい。……そうだな。食料は10日分で十分だろう。ジャックは可能であれば10個以上欲しいところだ」
「了解です。フクスの試運転もしておきましょう」
「資材が多くなりそうだが?」
「フクスが2両ですから、指揮車の方にカーゴを引いて貰います。今回はバイク無しですよ!」
オルバンさんが笑みを浮かべて、俺に顔を向けるんだよなぁ。
また久しぶりに乗れるかと思っていたんだが……。
仕方なく頷いた俺は、かなり残念そうな顔をしていたのだろう。皆が一斉に大笑いを始めた。




