H-767 ヒューストンに着いたら次はメキシコ国境任務になるようだ
「1年で越境対策が出来るとは思えないけど、3年以内なら確実でしょうね。でもその後も国境をうろつくのはさすがに願い下げなんだけど?」
マリアンさんを国境に張り付けていたなら、その内にメキシコに進出しかねないだろうなぁ。本部長も俺と同じ思いなのだろう表情をこわばらせて小さく頷いている。
「マリアン少将がこれで十分と確認したなら、第1陸上艦隊をペンデルトンの指揮下に置くことにする。国境対応だけなら、第1陸上艦隊の規模は縮小可能だろう。その辺りはペンデルトンに一任するぞ」
「ゾンビの集団が越境せぬようにすれば良いということですか。了解です。たぶん陸上艦隊を半減することも可能でしょう。2分割した艦隊を使ってロサンゼルスからヒューストンを目指しましょう」
新たな東西の連絡道路が確保できるということだな。海兵隊中将がしっかりと頷きながら返答している。
途中にあるフェニックスが問題だけど、フェニックスのゾンビの一部は東に移動しているようだ。案外短期間に補給路を確保できそうに思えるな。
「私は用済みって事? それなら再びヒューストンの艦隊を指揮しようかと思うけど……」
「そっちはクロード大佐に任せるがいい。マリアン達には数隻の艦を与えるよ。2年後には偽装も終えるだろう。少し古いが強襲揚陸艦を旗艦に155mm2連装砲塔を2基搭載したアーバンクレイ型駆逐艦3隻だ。5千tフェリーが兵員と資材輸送の為に随行するぞ」
155mm砲は、多分M777榴弾砲だろうな。そうなると合計12門の砲弾を24km先に飛ばせることになる。強襲揚陸艦にヘリを数機搭載したなら、さらに攻撃範囲が広がるだろう。
「ヘリが1個小隊なんてことは無いんでしょうね?」
「1個中隊12機、その上に改良型のブロンコが4機だ。揚陸艇は3艘を抱えている。戦車揚陸まで可能な品だから、一気に1個中隊を上陸することが可能だ」
本部長の話を聞いて、段々とマリアンさんの顔が緩んでいる。
面白そうだと思っているんだろうけど、それより狙いは何処なんだろう?
ワシントンより北はフリーダムを側面から援護する艦隊がいるけど、南にはヒューストンの艦隊だけだからなぁ。そうなると、ヒューストンからニュートークにかけての沿岸都市のゾンビを駆逐していくことになりそうだな。
「それで、狙うのは?」
部隊の説明が一段落したところで、マリアンさんが口を開いた。
その言葉に俺達も、本部長に視線を向ける。
「フロリダだ。フロリダ半島を開放して、北と西に睨みを効かせて欲しい。その後は東海岸に沿って北上してくれれば十分だ」
「2連装砲塔を搭載するならかなりの改造でしょうね。それならついでに艦底のソナードームを撤去して欲しいわ。それでだいぶ岸に近寄れるはずよ。でも水深を計れるぐらいの簡易版は搭載して頂戴」
魚粉探知機でも付けるのかな?
敵対する国家も無いんだから、確かにソナーはいらないのかもしれないけどね。そうなると、ミサイルの垂直発射装置だっていらないだろうし、対空兵器や短魚雷も必要ないってことになる。かなりすっきりした軍艦が出来るんだろうな。
「了解だ。兵装に付いても余分な品は全て撤去するぞ。それで艦内居住区を広げられるだろう」
「フロリダに残したい施設は無かったわよね?」
「特にない筈だ。都市を灰燼に帰しても問題はないぞ」
マリアンさんがしっかりと本部長に視線を向けて大きく頷いた。
「越境ゾンビを始末しながら、フロリダ半島解放の作戦を考えておきましょう。陸戦部隊が1個中隊なんてことはないでしょうね?」
マリアンさんの嫌味な質問に対する本部長の解答はストライカー部隊が2個中隊に120mm自動装填迫撃砲を搭載したストライカーが2個小隊……。
やはり1個大隊は無理みたいだな。
これでフロリダ半島からゾンビを追い出すとなれば、逸れこそ火力で追いやることになりそうだ。
案外、火炎放射器を搭載した車両が役立ちそうに思える。
「フロリダに向かう際に、再度戦力を再検討しよう。だが他の戦区も戦力不足……、あまり期待は出来んな」
「サミー君達は連れて行くわよ」
当然のように言い放つマリアンさんに、本部長が首を振った。
「さすがに所属させるのは無理だ。サミー大尉達の真価は市街戦発揮されることが良く分かった。となると、古巣の部隊に戻した方が役立つだろう。だが、マリアン少将達も市街戦を行なうに違いない。半年ごとにサミー大尉の部隊を移動させることで対応したい」
親の仇に向けるような鋭い視線でマリアンさんが本部長をジッと見ていたんだが、矢型溜息を1つ吐くと仕方なさそうに頷いた。
「解放期間が延びそうに思えるけど、大平原地帯が取り残されるのも考えてしまうわね。でも、毎年6カ月ということは守って欲しいわ」
「5カ月半だ。さすがに休暇を与えないわけにはいくまい。身一つでの移動なら、1日で移動できる」
陸上艦隊で使っているフクスをそのまま使えるということかな?
そうなると、ウイル小父さん達の陸上艦隊での移動車両を準備割いてもらわないといけないな。同じようにフクスを強請ってみよう。
ストライカーよりキャビンが広いからね。フクスで小型のキャンピングカーゴを曳いていこう。
「もっとも越境ゾンビの対策を引きついだ後で、直ぐにサミー大尉をどちらの部隊にも送ることは出来んだろう。少なくとも1年はフリーダム部隊に移動させるつもりだ」
その言葉に、思わず本部長に視線を向けた。
始めるのか? まだ先だと思っていたんだが……。
「マリアン少将達なら越境ゾンビ対策は2年も必要ないだろう。その後で艦隊の編成を行うことになる。フロリダ半島への艦砲射撃を始めるのは早くて半年後。最初の海岸都市への陸上攻撃を行うのは更に半年後になるだろう。その1年間は私に預からせて貰うぞ」
「ニューヨークに軍を進めるのですか?」
俺の問いに、本部長がしっかりと頷いた。
1年では無理だと思うんだけどなぁ。だが、新兵訓練を実戦で行うと言っていたんだよなぁ。場所はロングビーチと言っていた……
ロングビーチに得痛暖法を並べて、ロングアイランドのゾンビを駆逐するということかな? ロングアイランドの西にはケネディ空港があるからねぇ。あの空港が使えるなら大型輸送機だけでなく、B52だって運用できそうだ。
「正確にはニューヨークの一角と言って良いだろう。だが、既に手に入れたスタティンとロングアイランドを手に入れればニューヨークに南と東から軍を進められる」
「出来れば西に砦があれば良いんですが……」
俺の言葉に、本部長が笑みを浮かべる。
言葉には出さないけど、何か腹案があるってことなんだろうな。
「マリアン少将の事だ。フロリダ半島の解放に長く時間を取ることはないだろう。その後はゆっくりと北上して貰えるなら大陸内部に向って軍を進める事ができそうだ」
「性急に囚われずに、確実でなければなりません。それはどのように?」
「飛行船と騎兵隊を使う。ある意味第3線ということになるだろう。入植は騎兵隊が安全宣言を出した後になるだろうし、入植者達にも入植地のパトロールを行う自警団を組織して貰うつもりだ」
入植者達による自警団は、入植がはじまった地区で既に行われているとのことだ。
第2線を構成する民兵組織によって落ちこぼれたゾンビを倒しているとのことだが、万万が一にも入植地にゾンビが潜んでいたなら、再びあの悪夢の始まりだ。
アメリカは銃社会だから、民間人が銃を持つことに違和感はないからねぇ。まったくゾンビがいないことを嘆くかもしれないけど、その時は獣を狩って食料の足しにするんじゃないかな。
「人口が直ぐに増えるわけではないだろうが、着実に人口は増えている。まだ鉱山の再開には至っていないが、私がこの色を去る頃までには製鉄所を稼働したいところだな」
先ずは食料生産が一番という事だろう。石油関連の産業は燃料の問題があるから小規模なプラントが稼働しつつある。
製造業は銃砲弾が主流だけど、かつて製造された車両の整備工場は稼働しているし、造船はまだ先だけど、艤装の変更が行えるまでになってきた。
「労働人口が足りなくなりそうですね」
「全く足りていない。労働年齢に制限を設けないことにしたそうだ。おかげで老人達が元気に働いているよ」
「それを考えると、戦力増強を強く言えませんね」
俺の言葉に本部長が、苦笑いを浮かべながら頷いている。
かなり微妙な調整をすることになるのだろうな。
その辺りは大統領達が全体を見てくれているとは思うんだけどねぇ。
「本部長は、アメリカ海軍の将来をどのように考えておられるのですか?」
話は一段落したところでマリアンさんが本部長に問い掛けた。
アメリカは北米大陸からゾンビの脅威を排除することに主眼を置いている。このまま推移すれば俺達の代でそれは実現できるに違いない。
だが、その後は……。たぶん初期の数倍に拡大した軍をどうするかを考えねばなるまい。
通常なら軍縮ということになるんだろうが、アメリカを除く他の大陸はゾンビが跋扈している状態だからなぁ。放置したならどんな風に進化するか予想できない。
さすがに空を飛ぶゾンビまでには進化しないだろうとは思うんだけど……。
「カナダ・イギリス連合国に協力することになるだろう。イギリスそしてヨーロッパ北西部を取り戻す。地中海にも拠点を築くことになるだろうな。アジアは例の連中に任せておけば十分だろう。かつての中国を取り戻すまでは傍観していても問題はあるまい」
国家百年の計ということになるのかな。
本部長の話に笑みを浮かべているマリアンさんは、果たしてどこに向かうのだろう。
イギリスに橋頭堡を確保する艦隊を率いる事になるのかな?
それとも、アフリカを見据えた地中海の橋頭堡作りを行うのもマリアンさんなら確実に行えるだろう。ヨーロッパ北西部は都市攻略が主眼になるだろうから、マリアンさんには合わないだろうな。
「橋頭堡の確保ぐらいは行いたいですね。その後はカナダ・イギリス連合に対応を委寝ても良さそうです」
「それが大統領の考えだが、連合国も戦力不足を嘆いているよ。北米大陸の状況に合わせて、派遣軍の規模を増やしたいが、最大でも陸上が2個旅団、海上が2個艦隊というところだろう。師団規模まで増強したいところだが、アメリカも中南米とアラスカに戦力を持たねばならん。予備兵力無ければ、派遣軍は休暇も取れなくなるだろう」
軍縮は3割にも達しないかもしれないな。
再編時に上手く除隊出来ないと、一生軍から足を抜け出せなくなりそうだ。
マリアンさんに視線を向けると、笑みを浮かべながら壁に掲げられた世界地図を眺めていた。ヨーロッパ戦線を楽しみにしているのかな?
観光旅行なら嬉しいんだけど、どちらかと言うと都市破壊に向かう事になりそうだ。マリアンさんの破壊した都市の規模を破る人物は、この後に出ないかもしれないな。




