H-765 今回は会議に参加しないで済みそうだ
トリ〇〇ドなら何とかなりそうだけど、ビオ〇〇テなんてことになったら困ってしまう。
さすがにそれは無いだろうと、所長がモニターに映し出された怪獣映画の1シーンを見て目を丸くしながら呟いていた。
「だが案外SF映画というものは、こんな状況を予言していたのかもしれんな。映画ということで、しっかりとその弱点があるのもおもしろいね」
「サミー君の事だから、見つけたなら海水を掛けるのかな?」
「さすがに、そこまでは行いません。火炎放射器で焼却しますが、案外海水も役立つかもしれません。ほとんどの陸上植物は塩害で枯れますからね。でもその後始末を考えると……」
雨が多量に降る地域なら、数年で塩害は無くなるだろう。だけど、そもそも不毛地帯は雨が少ない土地だからね。塩害を発生させたならその対処に莫大な資材と年月が必要になるだろう。
やはり焼却するのが一番だな。
「北アメリカだけを考えると、人間型のゾンビと昆虫型のゾンビ、それに植物化したゾンビの3種の幹が延びていく進化を考えれば良さそうに思える。だが、中南米やユーラシア、さらにはアフリカやオーストラリアの大陸でどのように進化するか予想も付かんな」
「さほど大きな違いは無いように思えます。でも100年後を考えると、各大陸で進化したゾンビの種に大きな相違が出てきそうですし、今は出現していませんが水棲ゾンビの出現の可能性も考慮すべきかと……」
進化の速度が速いからなぁ。さすがに鳥類型は現れないと思うけど。ゾンビの本体であるメデューサの基本遺伝子はクラゲという話だった。メデューサの細胞組織が極めて水を嫌うとのことだが、それだって進化の過程で対策が取られかねない。
「陸から海に戻ることもあり得るという事かしら。クジラの祖先は陸上生活をしていたと聞いたことがあるわ。それと同じ進化という事ね」
ミランダさんの言葉に、視線を向けて小さく頷いた。
さすがに半魚人のようなゾンビが直ぐに現れるとは思えないが、ゾンビの掃討に時間をかけすぎたなら、食料を求めて地上から海に戻る種が出て来てもおかしくはないだろう。
それが起こりえる場所は、温暖で魚の豊富な河川がある場所だろうな。
可能性が高いのはアマゾン辺りに違いない。アマゾン川の流域にも自律型ドローンを使って長期的な観察を行うべきかもしれないな。
「現時点では水路でゾンビの進行を阻止出来ていても、それが何時まで続くかは分らんという事になるのか……。あれから10年も経たずにここまで進化していることを考えれば100年後には確実に水棲への進化は起こりえるだろう。そうなると北米を隔離することが不可能にも思えるのだが?」
所長が悲壮感を滲ませた声で呟いた。
それが一番危惧するところなんだけどね。でも、水路から離れることが出来るだろうか?
「水棲ゾンビが現れたとしても、水路は有効でしょう。陸生ゾンビであれば水路を越えられないでしょうし、水棲ゾンビであれば水路から陸に上がることは可能でも長時間陸に留まることは出来ないと推測します。海獣は水陸で生活していますが、海から内陸深く移動することはありません」
「水辺に注意すれば十分という事かしら? それなら大きな脅威にはならないでしょうけど、水棲ゾンビが陸生ゾンビと協力するようなことがあるなら……」
「いや、そこまで考える必要はないだろう。種が大きく異なるのだから、都市間でゾンビが争うように、陸生ゾンビと水棲ゾンビが争う公算の方が高いはずだ」
それなら心配はあまりなさそうだな。だが、水路に近付くのは止めた方が良さそうだ。
「少し皆で協議すべきだろう。他の専門家の意見も聞居たいところだ。直ぐにと言う話ではないから、じっくりと話し合おう。今年中に、意見を取りまとめて来年に統合作戦本部へ具申すれば十分に思える。少なくとも現時点では水路でゾンビを阻止出来ているのだからね」
所長の言葉に、皆がしっかりとうなずいた。
確かに急ぐ話ではない。進化がこのまま進んでいった場合の可能性でしかないからね。
だけど、もしそんなゾンビが将来的に表れたなら……、その時に絶望せずに済むように事前対策を今から考えておけば良いだけだ。
「サミー君を招くと、停滞がちな我等の研究に弾みが付くね。少なくとも数年後、10年後さらには100年後のゾンビの進化をある程度推測しておくべきかもしれないな。初期に確認されたメデューサの遺伝子を再度確認して遺伝子を提供した生物の特徴からゾンビの進化を予想してみよう。かなり遺伝子の変異は起こっているだろうが、発生した当時の遺伝子は未だに残っているに違いない」
「その上で、生物学的な化学合成についてもですね。現時点で鉄を作り出していますし、水素と酸素の抽出も行っています。さらにはニトロ化まで行うようになりましたからねぇ」
「19世紀末の化学合成位は行える可能性がありますね。10年後には20世紀の化学薬品まで体内合成を行いかねません」
そうなると、毒ガス兵器を作り出しそうだな。だが、あまり猛毒な薬品ではゾンビが自滅しかねない。その辺りの見極めも大事に思える。
夕食を共にしたところで海兵隊宿舎に帰投したけど、さすがにお腹が一杯という事では無かったからなぁ。
まだ開いていた食堂に向い、再度夕食を頂くことにした。
明日は統合作戦本部で将官達が集まるとのことだが、俺は出頭指示が来ていないから、宿舎で待機していれば良いだろう。
暇だから越境してきたゾンビ対応策と、越境対策を少し考えておこう。
早めにベッドに入ったけど、日頃の疲れがあるのだろう。直ぐに睡魔に身を任せてしまった……。
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翌朝、7時に目を覚ます。
窓から眺める空は真っ青な夏空だ。アメリカの北東部にあるドーバー市だけど、やはり夏は暑いんだよなぁ。それでもダラスの暑さと比べれば涼しく感じるのは、それだけ緯度が高いということになるのだろう。
少し早いけど、食堂に向い朝食をとる。
朝から肉料理だから量を減らして貰いテーブルで食べていると、隣に腰を下ろしたのはシグさんだった。
軽く挨拶を交わしたが、トレイに盛られた料理の量は俺の2倍を超えているんだよなぁ。それでいてスレンダーな体格をしているんだから、いつもトレーニングを欠かさないのだろう。
「今日は将官達の会議だから我等は待機ということになる。あまり宿舎から離れずに、トランシーバーの電源は入れておくのだぞ」
「それぐらいは心得ていますよ。部屋に籠っているつもりですけど、シグさんは?」
「私は隣のトレーニング建屋で、兵士を鍛える予定だ」
後輩の指導ということかな? 元々がインストラクターだったからなぁ。俺達の部隊に移動しなければ今でも指導を続けていたに違いない。
食後のコーヒーを頂き、部屋に戻る。
食堂の一角にあるコーヒーポットから大ぶりなカップにコーヒーを注いで部屋へと持ち込んだ。蓋付きのカップは、俺のような兵士の為に用意されているようだ。
部屋に着くと受付カウンターから駆り出したノートパソコンを立ち上げて、早速対応策を考え始める。
部屋が禁煙でないことがありがたい。そうでないとベランダに立つ回数がかなり多くなりそうだからなぁ。
先ずは越境してきたゾンビ対策から始める。
現在確認されている越境地点は3か所だが、それによるアメリカ側の都市にいたゾンビが動いたのはラレド市だけだ。ロサンゼルス南部のボーダーやオータイ、それにラレド南東にあるマッカレン市は越境してきたゾンビと在住ゾンビが激しく戦っているように見える。
越境する経路が限られているから、数の比が少し越境側に傾いていても在住側のゾンビが直ぐに移動することはなさそうだ、
ラレド市だけが移動したのは、ダラスへ向けて何度もゾンビの集団を移動したからだろうな。
現状を見る限りでは、膠着状態と見ることもできそうだ。このまま放置すれば何れかの時点で越境側が優勢になるだろうが、それまでにはかなりの時間がかかるだろう。
対応部隊を編制して、越境ゾンビを南に追いやるのはある程度越境してきたゾンビの集団が疲弊してからでも遅くはない。
それは年明けでも良いだろう。だけど……、その対処はやはりマリアンさん率いる陸上艦隊の規模を拡大してあたるしかないだろうな。
今日の会議では、その辺りを念頭にマリアンさんが機動艦隊の増員を願い出ているに違いない。出来れば2個中隊規模で欲しいところだ。定点観測網を作らないといけないだろうからなぁ。
植物型ゾンビについては、その確認が先だろう。さすがにあちこち動き回ることはないだろうから、見つけた後にじっくりと対策を図ることが出来るに違いない。
自律型ドローンの管理はペンデルトンに、発見したなら生物学研究所と合同で行えば良いだろう。
後は……、そういえば地下施設に潜むゾンビを専門に狩っているシルバーフォックスの連中は元気に任務をこなしているのだろうか?
あれは陸軍主体だから、俺達にはあまり情報が入って来ないんだよなぁ。
後で確認してみよう。案外俺達にも使えそうな武器や作戦の工夫をしているかもしれない。
色々あるなぁ。それぞれを大項目にして、確認事項と注意事項を思い浮かべるままに書き込んでいく。
後で重要度分類をすれば良いだろう。
出来上がれば、本部長に私的なメールで送っておこう。本部なら当然知っているだろうけど、まだ気付いていないところが1つでもあるなら本部長が上手く生かしてくれるに違いない。
昼食を挟んで、どうにか纏まった時には15時を過ぎていた。
部屋のガラスの灰皿にはタバコの吸い殻がいつの間にか山になっている。こんなに吸った覚えは無いんだけどなぁ……。
灰皿を片付けて、エントランスに向いコーヒーを頂く。
まったく連絡が来ないのは、会議が紛糾しているのだろうか?
どこも戦力不足を憂いているところに、2個中隊の増員だからなぁ。マリアンさんの事だから、1個大隊を要求したのかもしれないな。俺がマリアンさんに提言したのは飛行部隊に陸戦隊を1個中隊ずつということなんだけど、できれば工兵を1個中隊以上欲しいところだ。国境の柵を堅固な物に作り替えたいし、できれば深い空堀を掘っておきたいからなぁ。




