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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-764 俺の故郷


 自爆ゾンビの話を終えると、次は植物型に進化したゾンビに話題が移る。

 すでにオリーさんから話を聞いているから、そんなゾンビを見つけるべく自律走行型のドローンがロサンゼルスの東に広がる砂漠地帯へ投入されていると説明した。

 俺の話を聞きながら何度も頷いているところを見ると、オットーさんの方からもドローンの概要と、その調査範囲が既に知らされているのだろう。


「全く恐れ入るよ。そこまで進化を考えるとはねぇ……。私はプレイリードッグのように地下に潜るゾンビを推測していたのだが、草食ではなくやはり肉食だとサミー君は考えているのかい?」


 ヤンセンさんの推測もあながち外れているとは思えない。

 厳しい環境条件を地中で防いで、草食に特化したならそれなりに暮らしていけるかもしれない。そんな種になるなら俺達に襲い掛かることもなさそうだ。


「そんな種に進化したなら、俺達の脅威とはあまりならないかもしれませんね。でも地中暮らしをするようになったら探すのが難しくなりそうです。それに、進化がそこで止まってくれれば良いのですが……」


「今は草食でも、何時肉食に代わるか分からないという事かね? となると、やはり共存は無理だろうな。このまま作戦を進めれば、北米大陸からゾンビをほとんど駆逐できるとは思うが、駆逐を免れた少数のゾンビでさえも将来の脅威になりえるという事になる」


 所長の話に、小さく頷いた。

 全くその通リに思える。オリーさんから伝え聞いた話では、メデューサに雌雄の区別はないそうだ。となると1体でも残したなら再びゾンビが溢れてくるだろう。


「私は、植物化に向かう進化が、どうしても想像できないの。サミー君は、それがあり得るとしてオットーさんへ依頼したのでしょう?」


 ミランダさんの問いに、さてどう答えるべきか……。

 オリーさんから、メデューサが作られる上で沢山の異なる遺伝子が使われたと聞いている。不思議な事に、鳥類と魚類が無かったようだ。

 組み込もうとしたことは間違いないだろう。だがその過程で何か不都合が起きたに違いない。それが何か……、今は知る術もない。


「俺が想像しているのは、肉食植物です。虫を捉えて栄養にする植物を知っていますか?」


「誰か育てていたんじゃないか? ハエが葉に止まると葉が閉じてしまうのが、見ていて面白かったな。そうそう、溶解液が入ったポットを持つ植物も置いてあったぞ」


 俺の言葉にヤンセンさんが 肘を叩いて話を続けてくれた。

 食虫植物は案外人気があると聞いたことがある。この研究所でも、育てている御仁がいたとはねぇ……。


「ハエを捕まえる事が出来るの?」


「結構素早く動くんだ。なるほどねぇ……。ゾンビがそんな植物に進化するということだね?」


「食虫植物はその場から動きませんが、その方向に進化したなら移動も可能でしょう」


「あのSFが現実になると!」


シグ博士が大声を上げて俺に視線を向けてきた。


「かなり近い代物になるのではないかと推測しました」


 あの映画を見たのだろうか? かなりコアなSFなんだけどねぇ。あの植物もかなり危険な描写だったけど最後は海水で倒されたんだよね。肉食植物に進化したゾンビが海水で枯れてくれればありがたい話だ。見付けたら真っ先に試してみないと……。

 今のところゾンビの大きさは人間と同じかそれより大型だ。隠れるという事をあまりしないから見つけやすいし、特徴的な声を持っているから集音装置を使うことで容易に位置を確認できる。

 そんなゾンビが、地中に住むようになれば小型するだろうからなぁ。今の大きさの半分になっただけでも見つけることはかなり難しく思えてしまう。


「出来れば、10年後にはアメリカの鉄道網を再構築したいところです。それによって部隊の迅速移動が可能になるでしょうし、作戦時の兵站を支えることが出来るでしょう。ゾンビの掃討速度をかなり上げることが出来るのですが、取りこぼしを考えると、部隊速度をあまり上げたくないんですよねぇ。飛行船を使って作戦空域及び後方の偵察を行いたいところですが、建造数が思ったよりもすくないんです」


「サミー君は第2線が重要だと力説していたと本部長が話してくれたよ。取りこぼしが出たなら再び悪夢の始まりが起こりかねないという事は、私や本部長も同意見だ。とは言っても、現状の国力を考慮すると致し方の無いところではあるようだね。オットー君も、何か考えているようだ」


 オットーさんも関わっているのか! それなら、今年中には形になるに違いない。

 さすがに飛行船を作ろうとは思わないだろうが、飛行船型のドローンはあり得るかもしれないな。第2戦部隊が運用するなら、取りこぼしのゾンビをしっかりと対処してくれるに違いない。


「しばらく前に本部長達と会談したのだが、本部長から素朴な質問を幾つか受けた。1つは100万体を越えるゾンビの集団は統率が取れるかという事だが、これは可能だと答えたよ。統率型ゾンビは既に確認されているし、統率型を束ねる王侯型ゾンビの存在もニューヨークの地下鉄奥でそれらしき存在を確認しているからね。さらに戦士型を束ねる士官型の存在、それら上位種同士の情報を伝える伝令型がいるのだ。100万体どころかそれ以上の集団でも統率が図れるに違いない……」


 本部長の質問の意図は何だろう?

 祖国に向かったあの集団がメキシコでアメリカ側にゾンビを誘導しているようだけど、その数は数十万体前後だろう。

 100万体を越えるゾンビとなればニューヨーク市のゾンビになるんだろうが、砲爆撃を継続しているようだから、ニューヨークに部隊を投入する段階ではゾンビの数は100万体を下回ることは確実だ。

 待てよ……。アメリカ以外という事なんだろうか?

 中南米はかなり問題があるからなぁ。だが食料源が豊富だろうし、南米から北米に移動する際にはパナマ運河が障壁になってくれるだろう。

 あの運河を監視して、運河の南岸にゾンビの大集団が現れたなら、戦略爆撃で対応すれば良いだろう。

 それにアメリカからかなり離れた土地だからなぁ。場合によっては核を使うことも可能だろう。

 100万体を越えるゾンビの集団ならば、そこに人間がいることは無いだろうからね。


 南米で無いとなれば、ヨーロッパもしくはアジアかな? アフリカ大陸もあるけど、あそこは北に広大なサハラ砂漠があるからなぁ。サハ砂漠を縦断せずに北に向かう経路はナイル川沿岸を進むことで可能かもしれない。ある意味隘路だから偵察と攻撃は容易だろう。


 問題はヨーロッパだが、キール運河を利用することで橋頭保を確保できるだろう。その後は長く続く戦いになるだろうが、中国からの遠征軍よりは先にヨーロッパを押さえられそうだ。かつての西ヨーロッパ位は確保したいだろうからね。

 だけど、ヨーロッパにはたくさんの都市があるからなぁ。群雄割拠で大集団化することは無いように思える。

 となると、本部長の心配は中国という事かもしれない。

 どんな方法を使うか分からないけど、ゾンビを誘導することが出来ることは分っているからなぁ。中国のゾンビを北に追い遣り、シベリアを東に向かわせたなら、冬季であればアラスカに移動できるかもしれない。その時のゾンビの数は100万体を遥かに超えるだろう。1千万体だと言われても納得できるところだ。


 だが、可能なのだろうか?

 誘導方法、ゾンビの低温耐性、ベーリング海の結氷時期色々と難問があるように思えるけど、ゾンビの進化は俺達の予想を上回る。不可能だと断言することは出来ないだろう。


「本部長も人が悪いところがありますね。少なくとも、どこでそれが起こると考えているか位は話してくれても良さそうに思えます。俺の邪推では南米、アフリカ、それにヨーロッパとアラスカ辺りで起こりえるように思えます。でも100万体を越えるゾンビの集団であるなら、その集団の圏内に人間は生存していることは無いでしょう。核で対処するのが一番です。戦略核を使って、残ったゾンビをさらに叩く……。それでもゾンビを全て倒すことは出来ないでしょうが、10分の1以下に削減できたなら、俺達で対処できるでしょう」


「本部長がその後に呟いたのはアメリカの北と南だった。後で今の話を教えてあげよう。サミー君はそれ以外の地域まで考えていたとね」


「現時点で深刻になる必要はないでしょう。北にはベーリング海がありますし、南にはパナマ運河があります。中国籍を持った人々が故郷を奪回するために旅立ちました。彼らはメキシコを横断して太平洋のメキシコ海軍基地を目指すでしょうから、メキシコのゾンビの数が少しは減るかもしれません」


 メキシコの全ゾンビの数からすれば微々たるものだが、減ることは間違いないだろう。もっとも将来的にはコクーンから生まれるゾンビが、直ぐに数の帳尻を合わせてしまうんだろうけどねぇ。


「絶望的な脅威を前にすると、故郷に戻りたくなるというのは、人間の本能なのかもしれませんね。でもそれなら、サミー君にも当てはまりそうだが?」


「町中の暮らしを懐かしむことはありません。とはいえ、たまに祖父が住んでいた田舎を思い出すことはありますね。でも、今の俺の故郷はロッキーの山小屋です」


「良い人達ばかりが暮らしていたねぇ……。あそこなら、子供達をのびのびと育てられるだろう。良い故郷だと思うよ」


 所長が目を閉じているのは、山小屋や、娘さん夫妻が暮らしている医院を思い浮かべているのだろう。穏やかな笑みが浮かんでいるからね。


「なるほど……。かつての故郷と現在の故郷という2種類の故郷がありそうだね。これは心理学者の友人にその違いを聞いてみよう」


 ヤンセンさんが隣のミランダさんに顔を向けて話をしている。

 その2つの故郷の選択は、人様々に思えるなぁ。日本は既にゾンビだけになっているからだろうか? でも故郷への強い思いがあるなら奪回しようと考える筈だが、俺にはその気概は無いからなぁ。

 帰化しようとしてアメリカに発った時に、新たな故郷を見付けようと考えていたこともあるんだけど、『故郷の見つけ方』等というマニュアルは無いからなぁ。

 だけど、何時の間にかあの山小屋が故郷に思えていたんだよねぇ……。

 居心地が良く、穏やかに時が過ぎていく場所……。それが現在の故郷なのかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
もしゾンビの発生が無く、普通に暮らしていたとして故郷に戻ったら、自然と涙が溢れるか何も感慨が湧かないかのどちらでしょうね。
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