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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-763 牧師館の次は研究所だ


 質素な中速を頂き、食後のコーヒーを飲み終えたところで牧師館を去ることにした。

 俺が席を立つ前に、司教が片壁1つを全て書棚にした沢山の蔵書に向かい、何かを手に取ると俺の前に差し出した。

 白い布に包まれた、2冊の本だ。


「サイカ大尉をキリスト教徒に迎えたいところですが、それは無理のようですね。とは言っても、多神教徒であるなら、我等の主を否定せずに祈ることも可能でしょう。これはバイブルです。暇が出来た時で良いですから読んでください。そして……、これは私が小さな教会に始めて赴任した時に使っていたものです。付箋がいくつかありますが、それは死者送り出す際に祈る聖書の一節です。サイカ大尉がゾンビを天国へといざなう際に読んで頂ければありがたいのですが」


 2冊のバイブルの1冊は、真新しく開くとインクのにおいがまだする品だ。もう1冊はそれより小さくまるで少し厚手の手帳に見えなくもないが、革の背表紙のある少し古びた品だった。

 牧師時代に使っていたものだと言っていたけど、何度もその中に納められた言葉で冠婚葬祭を行ったに違いない。本の一部が擦り切れているからなぁ。


「これは司教様の思いでの品ですよね。俺が頂いてもよろしいのでしょうか?」


「今では使うことはありません。その白い布を首に下げて付箋の順番で読んであげてください。今までの話を聞いて、やはり大尉は祈りを理解していると確信いたしました。ゾンビと呼ばれる存在になっていても、かつては我等が主の信者でありその友人であったはずです。大尉の祈りで天上界に向かったなら、我等が主の御使いが我等の主のおわします天国へといざなってくれるでしょう。でも、我等の主を讃える言葉で送り出して頂けたなら御使い様の手を煩わせずに済むでしょう」


 仏教世界の天国に行ってもキリスト教世界の天国に行けるなら、今までの行為は無駄ではなかったという事だな。それにしても御使いを煩わせたくないという理由はキャシーお婆さんが聞いたらなんか言いそうだな。


「分かりました。ありがたく使わせて頂きます」


 俺の言葉に、司教様が満身の笑みを浮かべてうんうんと何度も頷いている。

 これぐらいの役目なら問題は無いだろう。小さな手帳と、この白い布をバッグに入れておけば良いだけだからね。


「本来は従軍牧師の役目なのですが、まだ全軍に配備するまでには至っていないようです。何度も夫に頼んでいるのですが……。そうそう! 忘れるところでしたわ。夫からこの書状を託されました。連絡は都合作戦本部へ国務長官への伝言で十分だそうです。忙しい大尉に、個人的な依頼は慎むように言ったのですが、笑うだけでしたのよ」


 その時の大統領の態度を思い出したのだろう。最後の言葉には少し怒気がこもっていたからなぁ。司教様はそんな夫人を見て笑みを浮かべている。昔からの付き合いがあったのだろう。案外大統領夫人は勝気な性格なのかもしれないな。

 少し厚めの封書を頂いたところで2人に深々と頭を下げて部屋を出た。エントランスの歩いていくと、ここまで送ってくれた兵士が俺を待っていてくれた。


「お話は終わりですか……。先ほど、生物学研究所から連絡がありました。いつでも良いから、訪ねて欲しいそうです。依頼は所長からとのことです」


 今度は生物学研究所か! まぁ暇ではあるし、聞きたいこともあったからなぁ。これは良い機会に違いない。

 過ぐに行けると兵士に伝えると、自動車に乗り込んだところで車載のトランシーバーでこれから向かうことを伝えてくれた。

 統合作戦本部から研究所へと連絡が続くようだから、案外連絡が届くと同時に俺が研究所に着くんじゃないかな。


 生物学研究所に到着したところで兵士に礼を言って車を降りる。

 時計を見ると、まだ15時前だ。

 2時間程で会談が終われば良いんだが、それより長くなるとここで夕食と言う事になりそうだな。研究所の食事は美味しいことは認めるけど、漁が少ないんだよなぁ。

 海兵隊宿舎に戻ったら何か摘まむことになるかもしれないな。


 エントランスに足を踏み入れると、カウンターのお姉さんが俺を手招きしている。

 ここはドーバーに来るたびにオリーさんの部屋で暮らしているから、すっかり顔を覚えられているみたいだ。


「今日は、所長の執務室で皆さんがお待ちです。場所は分りますよね?」


「今回は俺一人だから海兵隊宿舎にいるんだ。もちろん場所は分っているよ。そうだ! これを皆さんに……」


 ポケットの奥にあったハンカチ包みをお姉さんに手渡す。作戦時に宝飾店から頂いた品だ。まだまだたくさんあるから、お姉さん達で分けて貰おう。ピアスばかりだけど、小さな宝石が付いているからそれなりの値段で売られていたんだろう。

 首を傾げてハンカチを解いていたお姉さんが、出てきたピアスを見て目を輝かせている。

 何か言おうとしたお姉さんに手を振って、エレベーターに向かって歩き出した。


 所長の執務室の扉の前に立つと、部屋の中から話声が聞こえてくる。

 議論の真最中ということかな?

 邪魔をしたくは無いが、呼び出されていることは確かだからなぁ。扉を軽くノックすると、話声がピタリと止まった。

 扉を開けて部屋の中に入ると、執務机に所長の姿は見えない。首を傾げて奥のテーブル席に顔を向けると数人の男女が所長を囲んでいた。


「しばらくだねぇ……。こっちに来てくれないか。オリー君から色々とメールが届いているから、ある程度の状況は分っているつもりなのだが、やはりサミー君の見解も聞きたいと思ってね。忙しいとは思うが少し付き合ってくれるとありがたい」


「ご無沙汰しております。今日の予定は特にありませんし、統合作戦本部の会議にも参加せずに済みそうです。いつもこうだと良いんですけど……」


 俺の話に笑みを浮かべて、テーブル席の1つに掛けるよう促してくれた。

 腰を下ろすと、用意されてあったコーヒーセットからミランダさんがコーヒーを淹れてくれる。

 隣は夫のヤンセンさんだ。良い夫婦として暮らしているみたいだな。

 ありがたくコーヒーを受け取ると、一口飲んでテーブルに戻す。

 まだまだ熱いんだよなぁ。冷めるまでしばらく待つしかなさそうだ。


「自爆ゾンビとはねぇ。全くとんでもない進化をしたものだと感心してしまう。3種が確認されたという話と、その画像を頂いたよ。簡単な注釈はオリー博士のメールにあったのだが、多分サミー君の話をそのまま送ってくれたのだろう。その後の調査で分かったことがあれば教えて欲しいのだが」


「生憎と、ドローンでの遠隔的な調査だけです。出来れば自爆ゾンビの声の比較をしたかったのですが周囲のゾンビに紛れてしまい、これだと明言できないところです。

 自爆ゾンビの種類が3種と言うのは正確ではないと思います。2種と変わり種が1種という分類が正しいかと……」


 大型モニター3種類の自爆ゾンビの画像が現れる。

 大きいドラム缶ゾンビと硬そうな外観をした小型のドラム缶ゾンビが自爆特化になり、もう1つ前方に丸い凹みのあるドラム缶ゾンビが、大型のショットガンを持つゾンビという推測をしていることを話した。


「なるほどねえ……。大きい方が防衛特化、小さい方が攻撃特化という事か。それにしてもショットガンとはねぇ。それなら大砲の砲弾にTNTを使う方が良いと思うんだがなぁ」


「そうでもありませんよ。ゾンビの知性はかなり高いと私は感じました。ゾンビの基本攻撃は大集団によるラッシュ、いわゆる一斉突撃です。それに対抗する手段として第一次世界大戦時に使われた兵器に榴散弾と言う砲弾があります。ショットガンゾンビの出現は榴散弾としてのラッシュ時の防衛あるいは敵陣の一角を崩すことにあるのでしょう」


「崩した一角に小型の自爆ゾンビが突入する……。集団を分断できそうですし、攻撃いかんでは相手の中枢部を一気に破壊できるかもしれません」


 シグムント博士の言葉に俺が話を繋げる。

 所長達が目を丸くしているのは、俺達が歴史上で行っていたことを、ゾンビ達がそれに近い作戦が行えるべく進化しているという事実を知ったからだろう。


 急に静かになったから、タバコを取り出し火を点ける。

 パイプを使っている博士達もいるから、問題は無さそうだな。


「となると、ニューヨークのゾンビの集団にも自爆ゾンビが現れる可能性が出てくるね」


「出て来るとは思いますが、すぐにという事にはならないと思います。自爆ゾンビが現れる理由を色々と考えたんですが、アメリカ南部の都市間でゾンビ同士が盛んに争ったためだと推測しています。争いの原因までは推測できませんが、都市周辺で得られるゾンビの食料源が足りなくなったためかもしれませんし、初期のゾンビの母数より現在は増えているかもしれません」


「コクーンの存在を知ったからねぇ。私達はゾンビを倒せば、それだけ母数を減らせると思っていたんだが、そうではなかったからなぁ」


「そうなると、ますますアメリカからゾンビを駆逐できなくなってしまうわ。さすがに『進化の先にあるのは自滅』という考えは持たない方が良さそうだし……」


 他人任せも良い考えだけど、それも視野に入れる必要がありそうだ。

 さすがに直ぐに自滅してくれるとは思えないが、食料源が1つに偏ったなら、その食料源が自然災害や病気で根絶やしになったら、滅びるしかないからね。

 とはいえ、ゾンビの食性は今のところ多用だからなぁ。食料源が絞られるのはまだまだ先だろう。


「話は変わるが、サミー君が急遽ドーバーにやって来た訳を、本部長が教えてくれたよ。ダラスに道を作っている最中に大規模なゾンビがやって来たらしいね?」


「たぶん、サン・アントニオ市からの移動だと考えています。それまでにも何度か集団が北上してきました。先ほどの自爆ゾンビはそんな集団とダラスの集団が争う場面で見つけたゾンビです。

北上して来るゾンビの数は数万前後でしたが、今回は数十万という数に驚いた次第です。それが起こった原因も分かってきました。メキシコ国境が何か所か破られたようです。統合作戦本部での議題はこの越境ゾンビに対する対策になるはずです」


「そういう話だったのか……。メキシコ国境には大きな都市が幾つかあるし、国境を隔てたメキシコ側の都市はさらに大きいからなぁ。だがメキシコ側のゾンビとしては、北上するより南下したほうが良いように思えてならないのだがねぇ」


 どこまで現状を離して良いのかわからないから、あの集団の事は黙っていよう。

 とりあえず首を傾げて、そこまでは分らないと態度で示すことにした。


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― 新着の感想 ―
もし表情に出してしまって 「何か隠していないか」 と言われたら 「現時点では誰にも話すなと言われていますので」 で逃げよう。
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