H-760 先の長い話だな
電動プロペラ使用することにより低高度を低速度で航行する飛行船はゾンビの捜索と状況監視には最適な兵器だろう。
ドローンを使うことで、さらに詳細な情報も得ることが出来るし、厄介なゾンビを見つけたなら機銃掃射で倒すことも可能だ。さすがに大型爆弾は搭載出来ないだろうが、手作り爆弾なら20個ぐらいは持参できるだろう。
そんな飛行船が数隻飛行しているのだが、現在のところは正規軍の進行時に取り残されたゾンビを捜索して、第2陣の民兵軍にその位置を知らせることが主流なんだよなぁ。
「あれから飛行船は新たに作られているのでしょうか?」
俺の問いに、本部長が笑みを浮かべる。
「飛行船の有効性はどの部隊からも知らされているよ。あれから新たに就航された飛行船は1隻だが、現在3隻の飛行船が製作されている。今年中に2隻が就航できるだろう。太陽光発電シートを飛行船本体上部に張っているから飛行時間に制限は無いのだが、さすがに居住性の問題があるからなぁ。1航海は10日以内という事になるようだ。サミー君が飛行船を望むのは、国境監視に用いたいという事かな?」
「そうです。さすがに1千kmを常に監視するとなると、セスナを10機以上必要とするでしょう。それにどうしても監視にむらが出てしまいます。自律ドローンも使えそうですけど、地上走行型ドローンでの監視範囲は数km程度です」
地上走行型の自律ドローンがロッキー山脈南部の砂漠地帯に投入されているけど、あれは別の目的があるからなぁ。あのドローンを国境を越えてくるゾンビの監視に使うのは本末転倒という事になるだろう。
だが、地上走行型ドローンも必要かもしれない。それはゾンビの捜索に特化したもので良いはずだ。それに出来ればジャックを2個程搭載しておきたい。移動を阻止することは出来ずとも一時的に停滞させることぐらいなら出来るんじゃないかな。
これは、別途オットーさんと調整しておこう。試作品をどこかの部隊で試験して貰うことも可能だろう。
「さすがに2隻とも南に送ることは出来んな。だが1隻なら何とかなるだろうし、次の製作数を変更するぐらいは容易な筈だ。今年中に1隻、将来的には2隻で国境の監視をすると言う事でどうだ?」
「出来ればさらに1隻の3隻としたいですね。でも2隻あるなら交互に運用できるでしょうから、国境の監視には十分かと。もう1隻というのは国境の更に南の状況監視も行いたいからです。飛行船の速度は巡航が時速30km程度でしょうから1日で600km。3日南進させればメキシコ南部までの状況監視が可能です。南米は今のところ監視対象にもなっておりませんが、無視するには危険すぎます」
「なるほど……。だが、それは今すぐでなくても良かろう。当座は2隻、将来的には3隻という事だな」
本部長の言葉に頭を下げる。
それだけあれば十分だろう。部屋のモニターに現在製作中の飛行船の概要図が表示されている。それを見ると、ゴンドラの半分は飛行船本体に入り込んでいるようだ。アルミ製のゴンドラはキャンピングカー程の大きさで、前後に大きな窓が設けられている。巡航速度は俺が想定していた速度より少し早いようだな。それにしても予備の推進機がエンジンとはねぇ。
せっかく来たのだからと、本部長がダラスの状況を聞いている。
報告書は出しているんだろうけど、指揮官に聞くのが一番だろうし何といってもその場で疑問を問いかけることが出来るからだろう。
本部長達の最初の質問は、自爆ゾンビについてだった。
まだ他の作戦部隊は出会っていないからだろう。俺に変わってシグさんが持参したUSBに納めた画像をモニターに映し出して説明を始めた。
「現在確認できている自爆ゾンビは3種類です。ダラス市の自爆ゾンビがこの形、サン・アントニオ市から北上してくる集団にいたゾンビがこちらになります。サン・アントニオの自爆ゾンビはダラス側の自爆ゾンビと比べて二回りほど小型ですし、足の構造がかなり違います。この違いをサイカ大尉は攻撃型手榴弾と防衛型手榴弾に例えてマリアン少将に伝えておりました……」
「なるほど、鈍重でも爆発力はあるという事か。それに比べてサン・アントニオの自爆ゾンビは素早く敵の群れに入り込んで自爆するということだな。どちらも面倒な相手だな」
「現時点ではドローンによる攻撃とゾンビ同士の戦いで得た情報だけになりますが、中将の言葉通りの戦いをしておりました。威力は105mm榴弾以上、155mm榴弾以下と推察します。万が一我等の部隊と交戦することがあるとするなら、200mまで接近する前に銃砲撃で対処することになるでしょう」
「単独で行動するようなことがあるなら、接近に気付かずに被害を受けそうだな……。周辺監視が今まで以上に重要になるという事か」
「日本人の志願者がだいぶいるようです。彼らを偵察部隊にするべく訓練をさせましょう」
やはり50口径弾を使うバレットを自動化して小型の車体に乗せたいところだな。
空中を飛ぶドローンよりは操縦が容易だろうし、兵士達の前方に何台か展開しておけば周辺監視と自爆ゾンビの対策になるかもしれない。
「最後のゾンビは、まだどんな能力があるのか分かりませんが、統合作戦本部での会議でマリアン小将が伝えてくれるでしょう。サイカ大尉は大砲を持つゾンビの変形かもしれないと推測しております。この前方にある丸い凹みの後ろに砲身が隠れているであろうと……、その発射される弾丸は散弾の可能性が高いと推測しております」
「ショットガンだと!」
途端に場が騒がしくなった。
ショットガンの有効性をしっかりと理解しているという事だろう。実際には榴散弾のような効果になるんだろうが、前方のとぇきを薙ぎ倒すには一番都合が良いからなぁ。
「なるほど……。このゾンビで敵陣に穴を開けてそこに自爆ゾンビを突入させるという事か。戦術的にも頷ける話だが、それが実際に行なわれることを確認していないという事だな」
「出頭が3日程後であれば、確認できたかもしれません。このゾンビを確認したのはダラスから数十km南方です」
しまった! という苦い表情で本部長が俺に視線を向けてきた。
俺は前線にいたかったんだけどなぁ。これからは少し出頭頻度が下がるかしれないな。
「結果はマリアンに確認しよう。それにしてもニューヨーク以上に南方は問題がありそうだな。さすがに中央部はそんなことはあるまいが、生物学研究所の話ではゾンビの進化は止まることが無いそうだ。いずれ似たような自爆ゾンビが各戦線に現れるだろう。航空宇宙軍のリストラを行ったが、宇宙探査機の開発部隊だけは増員している。彼らにこの話をしておこう。サミー君が既に行っているかもしれんが、私からも再度開発をお願いしておこう」
本部長の話に、しっかりと頷いたところで頭を下げる。
俺の依頼よりも効果があるだろうし、それなりに資材を優先的に割り当ててくれるに違いない。
「しかし、南を考えると国境線に運河を作りたくなるな。ゾンビは水を嫌う理由が少し分かって来たらしい。将来的には水を恐れなくなることもありそうだが、今のところ
その兆候はないそうだ」
「さすがに運河は大規模工事ですし、その運河を満たす水をどこから引くかという問題も出てきます。とはいえ運河は有効でしょうな。西海岸のティファナについては海水を使えば済むでしょう。ロサンゼルスのゾンビを駆逐したなら、現在の国境柵の北に幅10mほどの運河を構築しても良さそうです。ですが運河の長さはそれほど長くは出来ないでしょう」
ペンデルトンの部隊が忙しくなりそうだな。
かなり規模の大きな工事になるだろうし、どんどん東に運河を伸ばしていくことになるだろう。さすがにリオグランデ川と合流するような話にはならないだろうけど、もし合流出来たなら南方からのゾンビの北上を心配せずに済みそうだ。さすがに監視は必要だろうけどね。
「中南米ならゾンビの食料源はたくさんありそうだな。発生時はそこで生活していた人間の半数がゾンビ化しただけだろうが、あれから数年を経ている。コクーンを作り新たなゾンビを作り出しているとなると、中南米がゾンビで溢れそうに思えてくる」
「その認識で良いだろう。各都市で集団化したゾンビが互いに争う時代になっているのだ。戦いは進化を加速する。自爆ゾンビに次いで新たなゾンビが出てくる可能性は高いだろうな。今まで軍事衛星からの監視だけであったが、中南米の沿岸都市のゾンビに付いて継続監視することも考えた方が良さそうだ。これは海軍に任せられるだろう。生物学研究所にも協力を仰ぐことになりそうだな」
サンディエゴの軍港とヒューストンの軍港が使えるなら数千tクラスの貨物船でも十分かもしれない。
だけど海軍ともなると、軍艦を旗艦にした小さな船団を作るに違いない。さすがに単独では故障したら困るだろうから、最低でも2隻は必要なんだろう。
沿岸都市を攻撃することは無いだろうから、マリアンさんは絶対に名乗り出ることは無いだろうな。
「それにしても、中華帝国は本当に作れるのだろうか? アメリカを去りたいという希望者があの後にも続いたが、前回と合わせても数万人規模だ。再び中国の栄光を取り戻すだけで数世代では無理だろう」
「現代の出生率は国務長官から3.5人と聞いたぞ。2人なら現状維持だろうが。それを越えるならアメリカの総人口は増加していくことになる。出生率を4人以上に出来るなら、世代を経るごとに2倍になるだろうからなぁ。1世代を25年とするなら、1世紀で数万人が数十万人になるだろう。さらに1世紀を過ぎれば1千万人だ。それぐらいの人口になればかつての中国の版図を奪回する作戦を始めても良さそうだな。手に入れた版図をさらに拡大するのは、その次の世紀ということになる」
300年後ということかな?
だけど、それはアメリカのような民主国家を想定しての推測だ。独裁的な政治を取るとなれば100万人を超えたところで大陸に橋頭堡を作ることも可能いだろう。
「出来ればその前に、西ヨーロッパに我等の入植地を作っておきたいところだな」
「南アメリカより先に西ヨーロッパですと?」
「ああ、英国の王族もいることだ。カナダは南方地帯からゾンビを駆逐したなら、部隊の半数をイギリスに向わせるだろう。イギリスからゾンビを駆逐できたなら、デンマークから南下しながらゾンビを駆逐することが出来そうだ」
モニターにヨーロッパ北部の地図が映し出された。
隣のモニターには、表された地図と同じ大きさの衛星写真が映し出される。
本部長がレーザーポインターで示したのは……。
「キール運河ですか! 確かにそれを使うなら大集団のゾンビでさえも北に向かうことは出来ないでしょうね。橋と閘門がいくつかありますが、そこは守備部隊を常駐させれば十分でしょう」
「私の妄想と言ってくれても良いぞ。だが、ヨーロッパには水上輸送を行っていた運河が結構あるからなぁ。それを利用すれば中国よりも先に西ヨーロッパを手に入れることぐらいは出来るだろう。さすがに東ヨーロッパには向かえんだろうな。東に向かうには10個大隊規模の軍がいくつか必要になりそうだ」
第三帝国のブラウ作戦が再び行われるのかな?
あれは兵站が運命を分けたとも言われているからなぁ。あまり深入りすることは良くないように思えるな。それなら、南米大陸やオーストラリアを目指す方が資源を確保する上で有効だろう。




