↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
759/808

H-759 黄禍論が再燃しかねない


 海兵隊中将が渋い顔で本部長に頷いている。

 せっかくサンディエゴ奪回の見通しが立っていたところに、思わぬ外乱が入ってきたからなぁ。上手く対処しないとカリフォルニアに押し戻されかねないからね。

 あの隠匿資材を使う事になるんだろうが、あまり表立って使いたくはないということなんだろう。


「やってくれるか!」


「致し方ありませんな。それでかなりの爆弾を消費しかねないのですがそれは融通して貰えるのでしょうか?」


「炸裂焼夷弾を主にペンデルトンに搬送しよう。国境南のティファナは全て焼き払って構わん。メキシコ政府とは、あの騒動の翌年から通信が途絶している。メキシコ国民は全てゾンビ化したに違いない。ペンデルトンから攻撃を行う前に、空軍に戦略爆撃を指示する。少しはゾンビの北上を緩める事も出来るだろう」


「お願いします!」と中将が本部長に頭を下げる。さすがに1機ということはないだろうからね。国境近くに爆弾の雨を降らせてくれるに違いない。


「ところでサミー君の推測によれば、あの一団が裏にあるという事だったが?」


「あくまで推測ですよ。彼らがメキシコを縦断する為に、進路を塞ぐゾンビを誘導するぐらいの事はするでしょう。少なくとも直線距離で600km近く大陸を横切る必要がありますからね。ノイズマシンやジャックは都市の家々を探せばすぐに組み立てられるでしょう。それを使って北に誘導し、アメリカ国境へと向かわせる。当然我等はその対処をしないといけませんから、あの一団にとって将来の布石を打つことが出来ます」


「将来の布石と言うと……。まさか我等と事を構えると?」


「ユーラシアのゾンビを駆逐できたなら、その矛先はベーリング海を越えた北米でしょう。その前に西に向かう可能性もありますが、そこにいるのはゾンビであって人間ではありません。自分達と同様、人間が大きな版図を持つ場所は北米大陸という想定が出来ているのかもしれません」


「黄禍論が再来すると!」


「俺達から見れば、黄禍論は白禍がなされたことに対する自虐的妄想としか思えませんね。アメリカをゾンビから解放しようとする軍人が、そのような選民意識を持つようであるなら、直ぐに俺はこの場を去りますよ」


 テーブルに着いた将官達が俺の言葉に、一斉に視線を向けてくる。

 少しはそんな意識が胸の奥にはあるんだろうが、それを表に出さないなら問題はない。俺にだって選民意識が少しはあるに違いない。


「さすがにこの状況下でそんな人物がいたなら、即刻軍から叩きだす。しかし、国民全てがそういう意識を持たないとは言い切れまい。現在のアメリカは人種のるつぼと化している。黄禍論が表に出ようものなら、内戦に発展しかねんな」


 本部長の話だと、ヨーロッパ系の白人が55%。ヒスパニック系が18%、アフリカ系が13%で残りがアジア系と先住民族とのことだった。アジア系は15%近くいるんだな。


「大戦を経る度に人種の壁が低くなっていることは確かだろう。出来ればゾンビとの戦いで人種間のこだわりを無くしたいところだ」


「さすがに我等から離れて行った連中が、ヨーロッパを蹂躙されるとなると世論が煩くなるでしょうな。……だが、そんな事が可能なのだろうか? あの国ではゾンビとの争いの初期段階で何度も核を使っている。それにヨーロッパへの道はかなり遠くに思えるぞ」


「彼等には中華思想があります。世界の中心は中国であるという認識ですね。そんな思いを国民が抱く分には問題はありませんが、それを実践するとなると回りの国が多大な迷惑を被ることになります。でも、現在の中国周辺は全てゾンビの版図ですから、中華思想を持って国の拡大を図るのは理に適っていると思いますよ。それに国の拡大はもう1つの問題がはらんできます。彼らの政治はある意味、現代の王国の建国ですからね。政治権力争いが国の拡大と共に大きくなっていくに違いありません。たぶん彼らはそれを容認するでしょう。1つの王国がいくつかの王国に分裂し、外に向って新たな王国が次々と作られていく。その中心に中国がいるというのは、彼等の思想にも合致しますし、内戦を抑制する事にも繋がります」


「将来はユーラシア大陸に中華帝国が出来るということになるのか……。恐ろしい話だが、今の内に災いの芽を摘み取ることは容易に思える」


「それをやったなら、暴君として歴史に記録されるだろうな。現時点では彼らはゾンビに蹂躙された祖国の再建を目指しているのだからね。国境を越えるメキシコのゾンビにいても、彼等が何処まで意図していたかが不明だからなぁ。自分達の目指す港へ向かうために、途中の町のゾンビを動かしただけだというに違いない」


 それが目的であったことは間違いない。だが、どこまで誘導したかという問いには答えないだろうし、その証拠を俺達は見付ける事さえ出来ないだろう。

 となると、黙って彼らが南米から去るのを見るしかないのだが、その後を考えると、黄禍論が出てくるんだよねぇ……。


「対応策が無いという事になるのか……」


「さすがに民主国家であるアメリカが将来敵対しかねないという理由だけで、民族を根絶やしにするのは出来かねるでしょうが、その兆候を常に確認するという事は出来るでしょう。敵対した時に慌てることが無いように準備することも出来るでしょうし、現状についても少しは対応が可能に思われます……」


 彼らの状況を常に監視することは可能だろう。少なくともここまでゾンビとの戦いをしてきて、かつての版図を取り戻そうとしている北米大陸に直ぐに戦力を送ることなど出来ないからね。

 先ずは中国本土に近い島に拠点を築き、次に大陸への橋頭保を確保する。何といっても10億人を越える人達が暮らしていた国だからなぁ。そう簡単に大陸内部へ版図を広げることなど出来かねる話だ。かつての領土の1割を確保するだけで数十年の時が必要に思えてならない。

 その後に領土拡大を位置することになるなら、大陸に渡ろうとしている一団の数が100倍を超えるほどに戦力が増強しない限り不可能に思える。少なくとも今世紀にそんな動きがあるとは思えない……。


 そんな俺の話を、真摯に耳を傾けて聞いてくれる。将官と言う人達は聞く耳を持っているという事なんだろう。


「なるほど、それなら十分に時間があるという事になる。だが、1つ気になるのは、彼らの持つ核だ。それを撃たないとは限らないのでは?」


「反撃されたなら全滅するぐらいの良識はあると思います。それにあれからだいぶ時間が経っていますから、ミサイル本体だけでなく発射システムや誘導システムがそのまま使えるとは思えません。少なくとも戦略核が使えるまでにはかなりの時間が必要かと、戦術核なら使う可能性がありますが、ゾンビとの戦いの初期にかなり使ったようですからどれほど残っているかですね。残っているなら彼らの本土上陸がかなり容易になると思うのですが」


「精密誘導は出来ずとも、弾道弾なら発射できるだろうな。それなら迎撃も容易だろう。一度使用を断念した核を使った迎撃ミサイルを作ること位は出来るだろう」


「多弾頭であるならその方が確実だな。少なくともアメリカ本土で使用することにはならんだろうから大統領もそれなら肯定してくれるに違いない。地球規模の監視体制の構築と合わせて大統領に確認しよう」


 これでこの件は本部長に任せられるな。


「次に、現状についてですが……」


 国境を越えてやってくるゾンビの迎撃態勢は、各作戦指揮官達が集まる席で再度調整すれば良いだろう。だけど、国境に向かってくるゾンビがこれ以上増えないようにすることも大事だ。


「あの一団の中でゾンビの移動を促している存在がいると推測します。我々がゾンビくぉ相手にどのように戦っているのかをしっかりと調べているはずですから、ノイズマシンやジャックの製作及び使い方については理解しているでしょう。さらにあの孫氏の母国ですからね。戦略、戦術共に2千年以上の歴史を持っています。いくつかのグループが本隊の移動の先駆けとなって本隊の進行方向からゾンビを移動していると推測します。それだけなら良いんですが、さらに北にゾンビを移動するグループがいる可能性があります。もしそのようなグループが活動していたなら、そのグループの発見と排除を行わない限りゾンビの北進が何時までも続くことになります」


「それは明確な我等への敵対だと思うが?」


「テロ活動と言って良いでしょう。でも、かの一団であることを向こうは認めませんよ。たぶん偽装して活動しているでしょうからね。だから彼らを排除しても向こうからクレームが来ることは無い筈です。『我等はゾンビをアメリカに誘導しているメキシコの部隊を排除した』とその時は応えることが出来ます。彼らがそんなことを行っていたと認めたなら、本土への帰還そのものがとん挫してしまいますからね」


「厄介な話だな。対処しても尻尾切りになるのか……。かなりの練度を持つ部隊に違いないが、そうなると見つけること自体が難しく思えるぞ」


「案外容易かもしれません。少なくとも活動している時ならサーマルカメラで容易にゾンビと識別可能でしょう。広域偵察ドローンの中にはステルス機能を持つ機体があると聞き科した。それを使ってメキシコ北部を探して、発見したなら即爆殺すればよろしいかと」


 ドローンに爆弾が搭載されていないなら、彼らの位置が分かったところで戦闘機を飛ばせば済むことだ。たぶんグループが1つとは限らないだろうから、しばらくはメキシコ北部の監視は必要だろう。


「なるほど、それなら容易だ。対人戦なら我等の装備がそのまま使えるからな。これはペンデルトンに頼むことになるが、それぐらいは出来るだろう?」


「海軍航空部隊の連中が、訓練飛行が出来ないと嘆いていましたから、彼らに任せられるでしょう。燃料はかつてほど潤沢ではありませんが、偵察飛行を行う位は何とでもなります」


「さて、それ位かな。メキシコ国境が破られた時には統合作戦本部内もかなり騒然としたがサミー君の話を聞くと、何とか対処できそうだな。この頃あまりここに招くことは無くなって来たが、良い機会だ。何か進言したいことがあるならこの場で聞くぞ」


 それならと1つと、話を始めた。

 かつて、飛行船の有効性を進言したんだが、これから内陸部や南西部の砂漠地帯の事前偵察を行う上で、飛行船はかなり役立つに違いない。あれから飛行船がどうなったか、その後飛行船が作られているかについて本部長に確認することにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。