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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-757 あの一団の仕業なんだろうな


 メキシコからゾンビが北上していると聞いて、リンダさんが大きく目を見開いていたのだが、ちょっと首を傾げて小さく頷くと俺に顔を向けた。


「1つ教えてくれませんか? 確かにメキシコ国境にはどちらにも大きな都市があります。でも、急にメキシコ側から北上して来るとは思えないのですが。それにサン・アントニオ市からの大移動となれば、メキシコ国境の都市が壊滅したということになります」


「壊滅したか、飲み込まれたかでしょうね。俺は後者だと思います。壊滅させたとなればサン・アントニオ市のゾンビと戦えるほどの集団にはならないでしょうし、サン・アントニオのゾンビが逃げ出すとなれば、この映像の集団よりも大きな集団ということになります」


「その推測に同意するわ。となると一番の疑問は、何故北上を始めたかということね。戦えば自分達の集団の数を大きく減らすことぐらい、ゾンビでも理解できていると思うわ。それなら、北上では無くて南下するはずよねぇ」


 マリアンさんの言葉に、シグさんとリンダさんが俺に視線を向けてくる。

 まだ確定しているわけではないが、とりあえず俺の推測を離しておいた方が良いのかもしれない。


「昨年、アメリカを離れた一団がありましたよね。キューバに向かったはずですが、彼らの最終目的地はアジアです。既にキューバを離れて西の中央アメリカに移動しているのではないかと……。いくつかの国がありますけど、あそこの国々はかつて中国の影響を受けていたはずですから、武器を含めて資材の調達それに修理は容易でしょう。西岸の港で船を手に入れて、その後太平洋を渡ることになるのでしょうが……」


「将来対立しかねない国への対処という事かしら? それは少し礼儀に反すると思うんだけど……」


「礼儀はかの国に恭順した上でかわされるものであって、敵対しかねない相手にはしっかりとその対策をするのがかの国の歴史ですよ。そういう意味では、かの一団内ではしっかりと礼節が守られていると思います」


「困った話よねぇ……。サミー君のアイデアのいくつかは、あの国の戦略なんでしょう? そんな存在と将来は敵対することになるのかしら?」


「直ぐにではありませんから、それまでにしっかりと備えれば良いことです。それに、アジアはこの騒動が始まる前には莫大な人口を抱えていましたからね。そう簡単に祖国を奪回できるとは思えません。北にはロシア、西にはインドそして南にはベトナムがあります。2千年前の王国間の争いの再来という事になっているはずですから、ゾンビの進化はアメリカを凌ぐかもしれません」


 俺の言葉にシグさんが目を丸くしている。

 それぐらいは理解して欲しいところだけどなぁ。

 マリアンさんは静かにコーヒーを飲んでいるぐらいだから、その有様を脳裏に浮かべているのかもしれない。

 急に静かになってしまったから、ポケットから煙草を取り出してマリアンさんに見せると笑みを浮かべて頷いてくれた。

 許しが出たところでタバコに火を点ける。


「そんな推測を統合作戦本部はしているのかしら?」


「さすがに誰も推測していないという事は無いでしょう。とはいえ、今すべきことは北米大陸からのゾンビの駆逐ですからね。優先順位が低いという事で議論の対象にはなっていないと推測します」


「でも、現実に私達の作戦に支障が出てきているわ。少なくともあの一段の嫌がらせは何とか対処しないといけないわね」


 確かに迷惑極まりない嫌がらせという事になるんだろうな。

 その対処となると、やはり機動陸上艦隊の創設と機動陸上艦隊によるメキシコ国境の防衛という事になるのだろう。

 

「どんな形で対処できるかを少し考えてみました。少なくとも小さな旅団規模の部隊をメキシコ国境に派遣することになるでしょう。国境に防柵を堅固な物にしてゾンビが越えられない状況にした上で、将来はパトロール部隊と攻撃部隊を駐屯させる必要がありそうです」


 以前、その話を統合作戦本部に提言したことがあるんだが、さすがにこれほど早く国境を越えて来るとは思わなかったからなぁ。

 全くあの連中は余計なことをしてくれる。


「先ずは国境を越えてきたゾンビの対処。次に国境の防衛という事ね。それぐらいは統合作戦本部に任せられそうだけど、向こうも戦力不足を嘆いているぐらいだから、困った話になるでしょうね」


「それほど困らないと思いますよ。マリアンさん率いるこの陸上艦隊に航空部隊を加えることで陸上機動艦隊が創設出来ると思います。VTOL機が2個小隊、それにベノムのような多目的ヘリを2個小隊。整備部隊を拡充した上で、陸戦部隊を1個中隊増やせば十分に思えます。とはいえ移動速度が時速50km程度ですから、長い国境全てに対処できません。ペンデルトンに西の一角を任せてヒューストンのクロードさんに東の原油積み出し港近辺を任せれば、俺達の対処範囲を少しは狭めることが出来ると思います」


 俺の話を聞いて、リンダさんが大型モニターにアメリカ南部の地図を映し出した。その画像を見てマリアンさんがにんまりしているんだよなぁ。

 

「やはりサミー君を呼んで正解だったわ。これは面白そうね。夫が羨ましがりそうだけど、向こうだって色々とあるでしょうからここはやはり私達が頑張るべきよねぇ。リッツは……、まだ戻らないか。リンダ今の話を聞いていたわよね。直ぐに簡単な編成図を描いてくれないかしら。リッツに指示する上でも少しは概略を見えるようにしておきたいわ」


「了解です。……私も、我等の艦隊の新たな任務には賛成しますけど、そうなると大陸中央のゾンビ駆逐はどうなるのでしょう?」


「サミー君の後見人達がいるでしょう? あのテキサスを譲ってあげたんだから、私達に代わっての作戦遂行は容易だと思うんだけど……」


 覆わず、天を仰いでしまった。

 それってウイル小父さん達の話だよなぁ。あの巨大な陸上艦を手に入れて喜んでいたけど、こんなことになるとはねぇ。


「とはいえ現状の作戦に新たな作戦が追加されることになるんですから、統合作戦本部の思惑に反することが無いようにしませんと……」


「今回の状況と映像を届けて具申するわ。もっとも、それは国境を偵察している広域偵察ドローンと軍事衛星からの画像を見てからね。向こうも驚くんじゃないかしら」


 マリアンさんがこれからの行動を理解したのだろう。

 せっかく来たんだからと、雑談が始まった。

 新たなコーヒーが運ばれてきて、山盛りのドーナッツの皿が俺の前に置かれた。

 嬉しそうな顔をしていたんだろうな。シグさんが俺の横腹を小突いてくる。

 そんな俺達を見て、今にも吹き出しそうな顔をしてマリアンさんはコーヒーを飲んでいるんだよね。せっかく作ったドーナッツなんだけど、自分ではあまり食べないんだよなぁ。

 

 都合5つ目のドーナッツを手にした時だった。通信兵が慌ててマリアンさんに通信文を手渡してその場に立っている。

 どうやら返信内容を待っているのかな。

 ジッと通信文を睨んでいたマリアンさんが俺に顔を向ける。


「サミー君の推測が当たったようね。ラレド市にある国境に橋がゾンビで溢れているわ。リンダ、このファイルの映像をモニターに映してくれないかしら」


 モニターに映像と地図が表示される。ラレド市はサン・アントニオ市の南南西250kmほどの距離にあるメキシコのヌエボ・ラレド市の隣の都市だ。両都市の間を流れるリオグランデ川が国境となる。橋が2つ並んでいるのは西側がメキシコへ渡る橋で、東側がアメリカへの入国を行う橋だとマリアンさんが教えてくれた。

 その2つの橋がゾンビで溢れている。


「2つの橋ともに爆撃で破壊するみたいね。判断が少しばかり遅い気がするけど少しは改善するかもしれないわ」


「他の国境の都市も同じように爆撃するのでしょうか?」


「それぐらいは考えていると思うわ。少なくともしばらくは中南米に軍を進めるようなことにはならないでしょうし、もし進めることになるのなら揚陸艦が使えるでしょう。将来的には橋の再建もあるかもしれないけど」


 兵站を考えるなら橋は必要かもしれない。だけど、兵站は陸上路だけとは限らないからなぁ。揚陸艦の搭載能力もかなりのものだからねぇ。それに資材の輸送は別途輸送船を使え場済むことだ。俺達が生きている内に橋が再建されるとは思えないな。


「これでメキシコ、いえ中南米からのゾンビの北上はある程度防げそうね。さすがに陸上の柵を破ることまでは防げそうにないけど、そんな柵があるのはリオグランデ川から外れた国境になるわ。地図で見ると……、エルパソからサンディエゴの1200km……。かなりあるわね。サミー君が航空部隊を含んだ機動艦隊を推奨するのも理解できるわ」


 機動艦隊の巡航速度が時速50kmほど出せるなら、24時間での移動距離は1200kmになる。どちらかの端に常駐することはないだろうし、サンディエゴの方はペンデルトンに任せられそうだ。およそ1000kmの範囲を機動艦隊の作戦区域として中間位置に常駐していれば12時間前後で柵を破ったゾンビの群れに急行できるだろう。


「でもこれで大陸の四方を囲むことが出来るわね。後は大陸中央に向って進めばゾンビを駆逐できるんじゃなくて?」


「可能だと思います。その為に兵站を確保しないといけません。現在デンバーの部隊が装甲列車で線路を繋いでいる最中です」


 うんうんとマリアンさんが頷いている。終わりが見えてきたというところかな。でもこれからが一番大変なんだよね。何といっても、戦線の後方にゾンビを残さないように前進しないといけないんだからなぁ。第2線の役割がかなり重要になってくるだろう。


「直ぐに戻らずに、ここで待機してくれないかしら。統合作戦本部に先程の話を打診してみるわ。2個中隊規模の戦力増強は他の作戦の支障になりかねないかもしれないけど、全体の戦力バランスを見直すチャンスでもあると思うの。統合作戦本部の手腕を見てみましょう」


 それって、石を投げた後の騒動を此処で楽しむってことじゃないかな?

 後で問題になりそうな気がするけど、責任はマリアンさんだからね。俺も気になるからとりあえず頷いて温くなったコーヒーを飲むことにした。


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― 新着の感想 ―
確かに時速50キロなら計算上は二十時間あれば千キロ進めますけど…。 道の全てがキッチリと舗装されているとは思えませんし、一直線とも思えません。何より人間は二十時間ももちません。途中で休憩したりね。 実…
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