H-754 3割ほどは倒せたようだ
35号線を北上するゾンビの群れは、M102榴弾砲の砲撃を2時間近く受けながら北のダラスを目指して進んでいく。
だけど、たった4門の砲撃だからねぇ。砲弾はかなり届けてくれたようだが、それでも継続射撃となると途中で砲弾を倉庫から運ばないといけないようだ。兵站部隊の連中が、2台のカーゴに砲弾を積んで運んでいる。カーゴに搭載する砲弾は10発程度だから、5分間の連続射撃を行うと、15分の休止期間中に何とか次の砲弾が届く感じだな。
もう1台カーゴを追加して欲しいと、シグさんが本隊に連絡を入れていた。
「次の砲弾の補給の際に持ってくるそうだ。それと、短距離ロケットを搭載したユニットが出来たそうだから、それも持って行かせると言っていたぞ。短距離ロケットはかなりの数を作ったようだな」
スナイパーユニットを改造して3発の短距離ロケット弾を搭載しているそうだ。ロケット弾の搭載は発射筒の後方から押し込んでロケット弾の噴射口から伸びているコードをユニットの電極に結ぶだけで良いらしい。
「初期のロケットランチャーそのものだな。ハイドラは本体に2つのリング状の電極が設けられているから、発射口から押し込むだけで済むのだが……」
「狙った場所に跳んで行って炸裂するなら十分でしょう。とはいえロケット弾の命中率がそれほど良いとは思えないんですけどねぇ」
俺の心配事に、シグさんが笑みを浮かべて頷いている。
どうやらシグさんも同じ疑問を伝えたようだ。その返答が、発射時の高度と距離を何度も試験して最適位置を求めたらしい。
「高度50mで距離が100m。その位置で発射するなら確実に命中するとのことだ。改造したスナイパーユニットに赤外線距離計を組み込んで高度と目標物との距離を測れるようにしてあるそうだ。操縦画面に数値で表示するとともに、発射位置に達したならターゲットマークの色が緑から赤に変わると言っていたぞ」
そんな改造まで行っているとはなぁ。整備部隊の連中のエンジニアリング能力はかなり高いんじゃないか。
通信席で俺達の会話をジッと聞いていたジュリーさんが安心した表情で頷いているぐらいだから早く送って欲しいという事だろう。
「でも今回は使えないですね。次の機会に試しましょう。だけど、そんな代物をこっちに送っても良いんでしょうか? 本来なら本隊の方が使う機会が多いように思えるんですが?」
「ユニットは3つ作ったそうだ。その内の1つという事らしい。確かに後1時間ほどで砲撃圏内から群れが離れそうだな」
すでに2時間近く砲撃をしているからね。現在は群れの後方集団に砲撃を加えている状況だ。
大型ドローンならもう少し先まで迫撃砲弾を落とせそうだと、ジュリーさん達が2機の大型ドローンを使って統率狩りを行っている。
統率狩りと言っても、統率型がいれば優先して落とすだけで実際は戦士狩りのようだ。戦士型ゾンビも厄介な存在に間違いないからなぁ。
「やはり半数までは倒せなかったな。3割ほど削減できたというところだろう。それでも、自爆ゾンビや戦士型をかなり葬ったことは確かだ。これでダラスのゾンビの迎撃も少しは容易になったに違いないが、私にはここで消耗させずにダラスに向かわせた方が良かったように思えてならないのだが……」
「マリアンさんの狙いは2つあると思いますよ。1つはこれから遭遇するであろうゾンビの新種を事前に確認したいこと。もう1つは、ダラスのゾンビが大きな集団を作らないようにすることだと思います。10万体のゾンビを数で葬るには2倍近い数を揃えることになるでしょう。ランチェスター法則が適用できるなら、ダラス側に十数万体の集団が出来てしまいます。その集団が本隊に向かって移動するとなると、周辺のゾンビをさらに巻き込んで20万体をはるかに超える集団が形成されかねません」
「そう言う事か……。北上するゾンビの集団が数万体程度なら、ダラス側のゾンビも精々10万体程度。ある程度決着したところを爆撃すればまとめて倒せるという事か」
たぶんそんなシナリオに違いない。ヒューストンの飛行場には、すでに爆弾を搭載した戦闘機が待機しているんじゃないかな。
「1時間もせぬうちに、今回の砲撃は終了するだろう。次は直ぐに来るとも思えんが、ゾンビ達は後方への報告はしていないんだろうか?」
「俺達ならやらないと問題ですけど、ゾンビ達はまだそれをしていないんですよねぇ。集団内での意思疎通は統率型ゾンビが中心になって行っているんでしょうが、出発したであろうサン・アントニオ市との連絡は全くないようです」
低周波を使っての会話をニューヨークのゾンビはしていたけど、他の都市ではそれほど情報伝達手段が発達していないようだ。耳の大きなゾンビや長く管を伸ばすゾンビはいたけど、あれでは長距離の情報伝達は出来ないだろう。
大きな地方都市ではゾンビが活発に活動を始めているけど、一番大きな集団を持つニューヨークのゾンビは他へ移動するようなことが無いんだよなぁ。
あの都市ならば十分に集団を維持できるということなのだろうか?
「サミーはロッキー山脈地帯を気にしているようだが、私はフロリダが気になるところだ。フロリダ州はアメリカでも人口の多い州だからな。ジャクソンビルは100万都市、マイアミは50万都市だ。この2つは核が使われただろう。それに30万都市は片手以上あるぞ」
「メイポート基地が活躍しているはずです。水路で安全が確保されていますからね。あの飛行場からコイン機を飛ばせばフロリダ半島を北上するゾンビの確認は容易です。でもまだそんな話は無いんですよね。亜熱帯と熱帯気候ですからゾンビの食料が豊富なのかもしれません」
食料が乏しければ、食料を確保するために移動が始まるのだろう。だが食料が豊富なら移動する必要は無いからなぁ。……待てよ。それなら他の地域からフロリダを目指すことがありそうだ。そのルートの偵察も必要なんじゃないかな。
「海軍のメイポート基地が使えるのだったな。なら、北上するなら直ぐに分かるだろう。それにしても、何もないというのが気になるところだ」
アメリカでも人口の多い州として5本指に入るとのことだからなぁ。住民だけでなく観光客だってかなりいたはずだ。推定で2千万を超えるゾンビがいるに違いないけど、いくらゾンビの新陳代謝が俺達比べて少ないと言っても、かなりの食料を消費するだろう……。
待てよ。ゾンビの食料源を絶ったなら、自滅することもあり得るんじゃないか?
少なくとも食料の争奪戦が始まるだろうから、自滅しないまでも個体数が減ることは間違いないだろう。
食料となる獲物を捕らえるために進化しているなら、その食料となる獲物がいなくなれば代替できる獲物を直ぐに捕らえることが出来ないだろうからね。
これはオリーさんに知らせておくべきことかもしれないな。
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北上するゾンビの群れへの砲撃を終えた時には19時を過ぎていた。
準備で昼食が適当だったから、少し贅沢なレーションを兵站部隊の小母さん達が作ってくれた。
俺達仕官は兵士達の食事が終わってからだから、食堂で久しぶりのステーキを味わう。
肉牛の飼育が順調なんだろうな。俺達の部隊にまで届けられてくるんだからねぇ。だけどまだ昔のように食べることが出来ないようだから、肉牛の需要はかなり大きいかもしれない。それを考えると、大統領から頂ける農場は牧場が併設されている可能性が高いな。
「どうした? 笑みを浮かべて食べるのは士官としてはどうかと思うぞ。まぁ、久しぶりの部厚いステーキなのはわかるが、ステーキはミディアムが一番だ。サミーが食べているのは焦げ付く寸前まで焼いたウエルダンにしか見えん。そんなステーキを食べる人物はサミーが初めてだ」
「ちょっと除隊後の生活を考えていたんです。もっと頻繁に肉料理が食べられるように牧畜も良いかもとね。それとステーキで昔何度もお腹を壊したんで、ウエルダンしか食べられないんです」
元日本人だからなぁ。遺伝的に俺の体は草食性になっているに違いない。縄文時代の遺伝子が残っているおかげで肉も食べられるんだけど、レアなんて食べたらすぐにお腹を壊して寝込んでしまうからなぁ。
「日本人は米を食べていれば十分に戦えると聞いたことがあるが、少なくともここはアメリカだ。少しずつ慣れて行かねば奥さんが苦労することになるぞ」
ありがたい忠告に、シグさんに顔を向けて頭を下げる。
七海さんはたぶん俺と変わらないだろうけど、オリーさんはエディ達と一緒でレアに近いミディアムだからなぁ。メイ小母さんがいつも俺の為に1皿分だけヘビイウエルダンを焼いてくれるんだけど、何時までも甘えるわけにはいかないという事なんだろう。
「さすがに任務中に食性を変えることは難しいですけど。休暇になったら少しずつウエルダンに持っていくよう努力してみます」
「そうすることだ。とはいえ、アメリカ人の中には全く肉を食べない連中もいることは確かだ。だが軍の任務を遂行する上では、あまり特殊な食性を持たぬ方が良いからな」
皆が同じ料理を食べられるのが一番だろう。そうじゃないと兵站部隊の小母さん達だって苦労するだろうからなぁ。それを考えると俺の為にここまで焼いてくれた小母さんに申し訳ない気がしてくる。
「それで明日からは、また周辺を焼くことで良いのか?」
「砲弾の保管量に注意して砲撃を続けてください。ジュリーさん達にはテンプル市の市街地にジャックを仕掛けて貰います」
「統率狩りも並行して行って貰おう。となると、オルバン達が作っている日干しの使い道も出てくるな」
最後の言葉は笑い声が一緒だった。
エディ達が競うようにして魚を釣っているからねぇ。さすがに直に日を当てずにドローンの離着陸台の端にある倉庫の陰にロープを張って獲物を吊り下げているんだが、この気候だからなぁ。だいぶ乾燥してきたようだ。
「さすがに我等で食べることも出来んからな。小母さん達の話では50年前なら、良い食材になったらしいが……」
アメリカ人の魚介類の消費量は少ないからね。今でも食べる人はいるんだろうけど、同じ具来の値段で食肉が手に入るなら魚を食べる人は少ないだろうな。
釣りを趣味にする人達だって、殆どが釣った魚を再び放流するらしいからね。
マスなら俺も食べたい気はするけど、生憎と此処で釣れるのはブラックバスとナマズだからなぁ。
ナマズは美味しいとお祖父さんが言っていたけど、俺はまだ食べたことが無いんだよねぇ。




