H-753 砲撃はエニーさんに任せて俺達はドラム缶ゾンビを調べよう
「ジュリーさん。あのゾンビの外周と凹み部分との厚みが測定できますか?」
「小型の自爆ゾンビとの比較で出来そうね。少なくとも10cmはありそうだけど」
直ぐにジュリーさんが答えてくれた。
直径は90cmで体長は2m程らしい。形は丸太というよりドラム缶だよなぁ。
あんな形で、先端がへこんでいる。そして凹みまでの厚さは10cmという事か……。
「シグさん。ばかばかしい事だと思いますが、あれって大砲かもしれませんよ。直径70cmの砲身が歩いているんじゃないでしょうか?」
「大砲だと? それに直径70cm等という大砲は、コンスタンチノープル攻略で使われた青銅砲よりも大きいぞ」
どんな大砲なんだろうと首を傾げた俺に、ジュリーさんがタブレットでその絵を見せてくれた。仕様書きによれば口径64cmもあったらしい。砲弾は石弾だが、その重量が500kgもあるんだから驚きだ。しかも射程が1.5kmとはねぇ……。
「大砲自体の重量が20t近くあったらしい。さすがに大砲というのは無理があるんじゃないか?」
「有効射程は150m。弾丸は散弾なら可能なのでは? 確かに反動がもの凄いことになりそうですけど、あの体に通常型ゾンビが取り付いて固定したなら発射は可能かもしれませんよ。それに前に撃ちだせば良いだけですからね。狙いを付けるようなことはしないでも十分です」
「何だと!」
俺の言葉を聞くなり、シグさんが席を立ってモニターに近付き、じっとドラム型のゾンビを見つめる。
「……サミーは、恐ろしい推測をする。これが、大型の散弾銃であったなら、ゾンビ同士の戦では優位に立てるに違いない。だが、それなら数が必要に思えるのだが」
正面にこのゾンビを並べて砲撃するなら、相手方の先頭集団をなぎ倒せるに違いない。だが、それは一時的なものだろう。数の差を覆すには、1発しか撃てない散弾銃の集団では難しいだろう。
だけどそれを覆すことも出来そうに思える。
2、3体のドラム缶ゾンビが先頭集団に穴を開けたなら、その穴に自爆ゾンビを突入させればいい。中段を構成する戦士型ゾンビを纏めて倒せそうだ。
それに、一度に全てのドラム缶ゾンビを消耗するわけではないから、何度も同じような攻撃が出来るだろう。
正面からぶつかるよりも、効果的に相手の集団に大きな損傷を与えることが可能だ。
席に戻ったシグさんにそんな話をすると、感心したような表情で何度も頷いているんだよなぁ。
「それを確認したいところだが、これから砲撃を行うことになる。あのドラム缶がどれだけ残るか分らんぞ」
「その時はその時です。俺としては『こんなゾンビを見つけた。こんな戦い方をしないとも限らない』という推測を本隊に知らせておけば、リッツさん達が対応策を考えてくれるでしょう。それにあの集団を殲滅するなど無理な話です。少なくとも半数近くはダラスに向かうでしょうから、あのドラム缶に注目しておけば十分に思えます」
「消極的にも思えるが、それで確認できるか……。先ほどの進言と合わせて伝えておくぞ」
「そうしたら、私達は何もしないで良いのかしら? ハンタードローンを使って爆撃しようと考えていたんだけど?」
ジュリーさんは積極的だなぁ。だけど、1度はやって置いた方が良さそうだ。結構厚みのある躯体を持っているようだから、迫撃砲弾が至近距離で炸裂しても効果があるかどうか不明だが、効果の有り無しの確認も俺達の仕事だろうからな。
ジュリーさんに1度やって欲しいと頼んだら、スナイパードローンでも試してみると言ってくれた。
見た目は自爆ゾンビだからね。その確認もした方が良さそうだな。
手ぐすねひいて待っていると、ようやくゾンビの集団がM102榴弾砲の射程に入ってきた。ゾンビの集団は全長5kmにも達しているようだから、先頭集団が射程内に2kmほど進んだところで砲撃を開始することにした。
「30分も後になるぞ。全くのんびりした戦いになってしまったな」
「その後は忙しくなりますよ。タイマー付きの信管の効果を期待したいところですけど、地上爆発したら道路が凸凹になりそうです」
「たぶんかなりの損傷を与えるだろう。だが我等の移動先は35号線を使ってのヒューストンだからな。問題はあるまい」
車が走れれば問題ないってことかな?
工兵部隊もいるから、穴ぼこだらけの道路でも車が通れるくらいには直ぐに復旧して貰えそうだけどね。
とりあえず、ジュリーさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、タッパーに入れたチョコを齧ることにした。バッグからタッパーを取り出したら、呆れた顔をして皆が見ているんだけど、勧めても誰も食べないんだよなぁ。
「シグさん。ドローンからの映像を見て、砲撃指示をお願いします」
「了解した。どうにか1kmほど砲撃圏内に進んでくれたぞ。15分後には砲撃だ。この看板位置まで先頭集団が達したところで砲撃を開始する」
モニターに腕を伸ばして教えてくれた場所は、砲撃圏内に4分の1ほど進んだ位置だ。さてどうなるんだろう。エニーさん達はすでに大砲内へ砲弾を装填して指揮所からの砲撃指示を待ち望んでいるに違いない。
ジュリーさんの席に移動してシグさんがモニターに目を光らせている。
ぶつぶつと何か言っているようだが、数字のようだな。先頭集団と射撃開始地点までの距離を呟いているようだ。
「砲撃開始!」
突然シグさんが大声で指示を出した。
ヘッドセットを使っているんだから、そんなに大きな声を出さなくても良いと思うんだけどなぁ。
次の瞬間、台船の4門の榴弾砲が一斉に砲撃を開始した。
窓を閉めていても、けっこう響く。
さてどんな感じだろう?
ドローンが上空から映し出すゾンビの集団を見ていると、ゾンビの集団に沿って4つの炸裂炎が上がった。
地上爆発ではないから砂塵は上がらずに、爆発煙だけが広がる。タイマー付きの信管は上手く作動したみたいだな。
「次は20秒後だ。5発放って5分の間を開ける。その5分で状況を確認するぞ」
ジュリーさんが忙しくなりそうだな。
20秒の間を開けて次の砲弾が炸裂する。5回の砲撃を終えると、急に静かになった気がする。
上空に待機していたドローンがゾンビの群れに沿って着弾点を素早く撮影すると再び上空に戻っていく。
着弾状況の確認に5分間は短すぎるな。次は10分間にして欲しいとシグさんにお願いしておく。
「さて次の砲撃だ。だいぶゾンビが進んでいたから着弾間隔を少し広げるぞ」
再び砲撃が始まる。
次も5発で終了だ。素早くドローンが砲弾の効果を確認していく。
5射目からは、各砲の着弾点を100m近く開けての砲撃だ。
ゾンビの集団の上で炸裂する砲弾はかなり離れているんだよなぁ。そもそも4門での攻撃だからなぁ。殲滅することなどマリアンさんは望んでいないようだけど、こんな砲撃では3割も削減できそうにない。
「4門では、削減効果を期待出来ませんね」
「継続射撃を開始したが1分間で3発だからなぁ。5分継続したところで、30分ほど砲身を冷やすそうだ。次の継続射撃は20分後と指示してあるから、その間にドローンを使うぞ。ジュリー、目標は決めてあるかな?」
「だいたいの位置は掴んでるから、砲撃で倒されなければ迫撃砲と狙撃を試してみる。こっちで上手くやるから、結果を見ていて頂戴!」
果たして継続射撃後に残っているかな?
ジュリーさん達の事だから、目標は1体だけでは無さそうだ。ドラム缶ゾンビの概略意図を幾つか掴んでいるのだろう。1体でも残っているなら、試せそうだ。
「数回の砲撃を浴びると、さすがにゾンビの集団に粗密が出来てくるな。これからの行軍で再び密になるんだろうが……」
「粗密が出来たことでジュリーさん達の観察が容易になるでしょう。密集したゾンビでは監察するのが面倒ですからね」
継続射撃が終わると、直ぐにドローンが砲撃で密集したゾンビがばらけた位置に向って行った。
個々のゾンビの姿が詳しく確認できるから、ダラスのゾンビとの比較評価も行えそうだ。
そんな中、ドローンの映像の中心にドラム缶ゾンビが捉えられた。ゆっくりとゾンビの真上に向ってドローンが移動していく。
ドローンが上空で停止した途端、ドローンから黒い物体が落ちて行く。
迫撃砲弾を落としたなと思っていると、視界一杯に爆炎が広がる。
「……いないぞ! 爆散したという事か?」
砲弾が落ちる前には確かにいたんだが、爆炎が晴れた時にはドラム缶ゾンビの姿が何処にもない。
自爆ゾンビと同じく炸裂時に誘爆したってことかな?
「サミー、やはり自爆ゾンビに思えるのだが?」
「散弾銃でも装薬はありますよ。装甲を持っているように思えたのですが、案外脆いですね」
「倒せるなら問題ない。ジュリー継ぐに見付けたら、狙撃してくれ!」
「了解、もう向っているから、直ぐに始まるよ」
さすがジュリーさんだ。俺達はモニターを見守るだけで良いらしい。
予め位置を確認していたらしく、すぐにドローンがドラム缶ゾンビを捉えた。
照準位置が赤い十字線で示されているんだが、さてどこを狙うんだろう?
ゆっくりとドローンが高度を落としながらドラム缶ゾンビの正面に回り込む。
マガジンには5発の銃弾が入っているそうだから、着弾位置を変えながら撃ちこむようだ。
「あのへこみ部分を狙うようだな。確かに気になる場所だ」
距離は50mにも満たないだろう。そんな位置に移動した時、ゾンビの正面位置にあるへこみに突然穴が開いた。
ドローンのカメラがズームして着弾位置を拡大する。
それほど大きな穴ではないな。ほとんど弾丸の口径と同じに見えるんだが、穴の周囲がいびつに千切れている。穴の奥に何かあるようだけどさすがに詳細を確認することは出来ない。
「ジュリー、使ったのは通常弾なのか?」
「徹甲弾にも使えるとオルバンが言ってた弾丸だよ。弾芯が鉄で出来てるの」
全てその弾丸なのかと確認すると、曳光弾を改良した焼夷弾と交互にマガジンに入れてあるらしい。
「なら、次は焼夷弾を同じ場所に放ってくれ。あの奥に炸薬があるなら炸裂するだろう」
再びドローンがドラム缶ゾンビの正面に回り込む。
どうなるかと見ていたら、へこみ部分に2つ目の穴が開いた。空いた穴から煙が噴き出しているのは、弾丸をくり貫いた部分に詰め込んだ曳光材がまだ燃えているからだろう。
「爆発せんな……」
「粗悪なニトロ系ですから、着火物があるなら爆発しそうなものですが……。どうやら不燃物があのへこみの後ろに詰まっているようですね。不燃物は投射物体かもしれません。自ら作り出すことも可能でしょうが、周辺のガラクタを詰めたかもしれませんね」
建物の残骸や河原の石ころだって、爆発で前方に高速で飛ばすことが出来るなら立派な散弾銃となるだろう。
見る限りでは使うことが出来るのは1回だけの攻撃だが、あの大きさだからなぁ。前方に30度以上の範囲の敵を倒せそうだ。
「ジュリーさん。後の射撃は任せますが、着弾時の画像は記録しておいてください」
「了解! やはりバレットを乗せたいよね。あれならもっと奥まで焼夷弾を届けられるんだけどなぁ……」
オットーさんにその後の状況を確認したほうが良いかもしれないな。だけどその前に、リッツさんの考えた近接ロケットランチャーの効果を確認してみるか。




