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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-752 集団の速度が遅い理由


 まだ昼食前だというのに、皆がいそいそと動いているんだよなぁ。

 呆れた表情でそんな兵士達を窓から眺めていたんだが、俺を呼ぶシグさんの声にテーブル席に戻って来た。

 差し出されたシェラカップを受け取って、先ずはコーヒーを一口。

 すっかり俺の好みを理解してくれたようだ。やはりコーヒーは甘い味が一番だからね。


「そんな甘いコーヒーを嬉しそうに飲むのはサミーだけだ。準備は全て整ったがゾンビの群れの進行速度が予想より遅いように思える」


 シグさんの言葉に腕時計に視線を向ける。時刻は11時を少し過ぎている。

 14時過ぎにはM102の最大射程に入ると想定していたのだが、それなら現在の位置は……。

 なるほど、砲撃開始地点までは15kmほどの距離がある。

 これだと4時間以上先になってしまいそうだ。


「逃げることは無いでしょうから、ゆっくりと待っていればやってきますよ。ジュリーさん達の使っている大型ドローンでこの集団を捉えられるのはだいぶ先になりそうですね」


「広域偵察ドローンが頼りだ。あれは同じ位置に留まることが出来ないからなぁ。高度を上げて失速ぎりぎりまで速度を落としての状況監視になってしまう」


 概要はつかめるけど、詳細までは分からない。

 それが広域偵察ドローンでの状況監視だ。だが、距離が離れているならそれで十分に思えるんだけどねぇ。

 画像を拡大すれば、ある程度集団を後世するゾンビの種類も分かる。サンディからの報告では通常型が6割前後らしいから、通常型ゾンビの数が数年前よりだいぶ減っているという事になる。

 残りの4割の大部分が戦士型になる。自爆ゾンビの数は思ったより少ないようだ。


「サミー達が過去に経験したラッシュの画像を見ると、殆どが通常型だった。だが今ではこの通りだ。第2線で活躍する民兵部隊に犠牲が出てきそうだ」


「まだまだ十分に戦えますよ。ウイル小父さん達の話では、3人1組でチームを作って活動しているようです。3人で1体の戦士型を相手にするなら十分に戦えるでしょう。それに彼らの銃は猟銃ですからね。7.62mmNATO弾よりも強力な44口径を3人の内の1人が持っているそうですよ」


 グリズリーを相手に出来るとライルお爺さんが言ってたぐらいだからなぁ。それがだめなら、その上の大型猟銃だってあると言っていたんだけど、さすがに象を倒すような猟銃を持ち出すことにはならないと思うんだけどねぇ。

 そんな銃を持ち出すぐらいなら、バレットを支給したほうが良いだろうな。50口径の弾丸は弾種が色々とあるようだし、軍と銃弾の共用も測れるだろう。50口径弾は機銃弾として使われていたそうだから、弾丸の数も十分にあるらしい。


「大型の獣狩りという事か。趣味がこんな時代に役立つとはなぁ」


 俺もその1人になるのかな?

 ここは笑みを浮かべて頷いておこう。


「このまま夜になってしまうなんてことにはならないよね。大型ドローンの積載量には余裕があるからオルバンにライトを搭載して貰ったけど……」


 ジュリーさんの話に、思わずシグさんと顔を見合わせてしまった。

 その考えは無かったな。どんなライトなのかはまだ分からないけど、それなら通常のカメラの感度を上げればモノトーンの画像ではなくカラーで状況監視が出来るし、砲弾の炸裂でモニターの映像が一時的に真っ白になることもないだろう。


「サーチライトでは、ドローンのバッテリーが持たんのではないのか?」


「付けたのは、自動車のLEDヘッドライトだよ。若干の指向性もあるから、上空200m位置で地上を通常カメラで見ることが出来ると思う。さすがに高度500mでは無理だと思うけど」


 バッテリーの消耗はやはりあるようで、計算では行動時間が30分程度になってしまうらしい。とは言っても貴重な情報をもたらしてくれるに違いない。それにライトを使わなければ、今まで通りの行動時間が担保される。


「その他に改造はしていないんだな?」


 シグさんが念の為に確認している。直ぐにジュリーさんがうんうんと何度も頷いているのを見るとちょっと怪しい気がするんだが、運用に大きな影響を与えるような改造でなければ十分だ。


 昼食も、広域偵察ドローンからの画像を見ながらだ。

 朝もサンドイッチだったけど、昼も同じだとは思わなかったな。違っているのはコーンスープが追加されただけだった。

 戦闘時には食堂の火を落とすような話を聞いたことがあるけど、ここは台船の上だからねぇ。戦闘に巻き込まれるなんてことは全くないと思うんだけど、そこは軍隊という事なんだろう。


「だいぶ近づいてはいるが、まだまだ距離があるなぁ。大型ドローンを使って状況偵察が出来るまでには2時間は掛かりそうだ」


「砲撃はさらに遅れそうですね。でも、砲撃前には本隊に連絡を入れてくださいよ」


「先ほどの状況報告で、リッツ中佐にその旨の指示を受けたよ。向こうもイライラしているようだな」


 一番イライラしているのはマリアンさんだけに思えるんだけどなぁ。少し足を速めて欲しいなんて連絡がいつ来てもおかしな状況ではないんだけど、しっかりと自制しているのか、それともリッツさんが懸命に止めてくれているのか考えてしまう。


「それで……、予想よりゾンビの群れの進行が遅い理由は何かあるんでしょうか?」


 俺の素朴な疑問に、シグさんとジュリーさんが顔を見合わせると、互いに首を振っているんだよなぁ。

 ずっと見ていても気付かなかったということなんだろう。俺も遅いという事だけが頭にあって、そこから先を考えてはいなかったんだが……。


「広域偵察ドローンの映像を、詳細に見てみよう。進行速度が時速3km以下だからなぁ。何か原因がありそうだ」


 ジュリーさんまで、通信席からテーブル席にやって来て、シグさんの隣に座ってモニターに映るゾンビの集団を眺め始めた。

 俺は少テーブルから離れて、一服しながらの観察だ。

 細部は2人に任せて、俺は全体を見ていよう。


 2本目のタバコに火を点けようとした時だった。今までのゾンビの集団と異なる点に具と気が付いた。

 通常型ゾンビは、人間の姿をまだ保ったままだ。歩く姿は少しぎごちないんだが、しっかりと2本の足で歩くことが出来る。

 だけど、人間の動きと大きく異なるところが1つだけあるのだ。ゾンビが歩くと頭が左右にふらつく。その動きが今まで遭遇したゾンビの集団の群れと比べて、ゆったりとした動きになっていることに気が付いた。


 集団の半数以上が通常型ゾンビだから、通常型の動きが集団の進行速度になるのだろう。

 通常型ゾンビにも劣化や進化はあるだろうから、その動きがバラバラで結果的に遅くなると思っていたのだが、どうやら意図的に速度を落としているようだ。

 統率型ゾンビがその動きを統括しているに違いない。となれば通常型ゾンビの足の動きを緩める何らかの原因があることは間違いないな。

 その原因は……。


「こいつか!」


 いきなりシグさんが大声を上げた。

 モニターから目を離していたから、直ぐにモニターに目を向ける。

 思わず首を傾げてしまったんだが、シグさん達はモニターに映るゾンビの中の異変に気が付いたようだ。


「拡大するよ!」


 ジュリーさんがモニターに映る集団の一角を拡大すると、俺にもようやく理解できた。

 また新たなゾンビが出てきたようだ。

 一見すると自爆ゾンビそのものだ。だから今まで気付かなかったに違いない。今回は運が良いことに、直ぐ近くに自爆ゾンビがいたから、2体のゾンビを比較出来たことで見つけられたということなのだろう。


「こいつはダラス川の自爆ゾンビ並みの大きさだぞ。だが近くの自爆ゾンビと比べると、違いは大きさだけでは無さそうだ」


「足の数が増えてるよ。少なくとも8対を越えているわ」


「だとしたら、小型ゾンビを越える破壊力になることは間違いない。早めに各分隊にバレットを配布すべきだろう」


マシュマロを積み重ねたような多脚なんだよなぁ。だから足が遅かったのかもしれない。だが自爆ゾンビの足が遅ければ。敵対するゾンビの集団の戦士型ゾンビの格好の獲物になりかねない。

 あえてそんな危険を冒すような進化を遂げるだろうか?


 んっ! 一瞬、ドラム缶のような胴体の正面が見えたんだが、そこにあるはずの頭が無かった……。


「シグさん。少し前からの画像を再生してくれませんか? 問題のゾンビの正面が一瞬映ったんですが、頭が無かったように見えたんです」


「1分ほど前に戻して再生するぞ。スロー再生だから、正面を捉えたところで停止する」


 スローだからなぁ。ゾンビの動きがかなり緩慢だ。

 しばらく見ていると、「ここだ!」とシグさんの声が上がり画像が止まった。

 やはり、あるべきところに頭が無い。

 ジュリーさんが、問題のゾンビの映像を拡大してくれた。


「このカタツムリのように突き出している先に目があるんじゃないかな? ……ほらね。やはり目よ!」


 正面をさらにジュリーさんが拡大すると、短い職種のような先に丸い球体が付いている。2本出ているから、立体視は可能だろう。目があるなら、口もどこかにあるんだろうが、案外胴体の真下かもしれないな。それはさすがにドローンで見ることは出来そうにない。


「この正面だが、少しくぼんでいないか?」


「くぼんでいますね。ボールを押し付けたように見えます」


 ドラム缶のような円筒の先端がくぼんでいる。出張っているなら理解も出来るが、くぼんでいるということは、何等かの理由があるに違いない。


「不思議な形態だな。まったく理解できない。形からすれば自爆ゾンビということになるんだろうが……」


「あの胴体が爆発するんだよね。小さな自爆ゾンビの硬そうな表皮には、深い溝があったんだけど、これはダラスの自爆ゾンビのように表面が滑らかなのよねぇ」


 それなりに皺があるんだけど、装甲板を張り付けたような小型の自爆ゾンビと比べれば滑らかなんだろうな。

 ということは、あの小型の自爆ゾンビの前のバージョンということになるのかな?

 それなら、集団の進行速度を遅くして、この自爆ゾンビと歩調を合わせなくとも良さそうだけどなぁ。

 それとも自爆ゾンビではなく、全く違った攻撃方法を持つゾンビなのだろうか?


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