最高の匠
「――で、ヴァルキリー様は結局なんで最高のタイミングで都合よくここに現れることができたの? 最後に会った時は牢の毒にやられて、瀕死の重体だったわよね?」
ひとしきり再会の喜びを噛みしめた後、カミラが思い出したようにそう尋ねる。
「都合よくとは何ですか!」とヴァルキリー様が怒っているが、私も実はそれを一番聞きたかったところだ。吸血鬼としてのフルパワーを出していたカミラが、触れただけでのたうち回るほどの劇薬。それを全身に浴びていたヴァルキリー様はほとんど虫の息だったし、その身柄もオーディンによって拘束されたままだったはずだ。
自らの娘に大しても冷酷な判断を下し、淡々と「神々を統べる者」としての立場を貫くオーディン。毒を浴びるのだけは私とカミラ、それからドワーフさんの説得によってなんとか中断してもらえたがヴァルキリー様の解放まではしてくれなかった。今更、情に絆されるほど人間的な一面があるとも思えない……そう考えていれば、ぴょんとドワーフさんが私たちの前に躍り出てきて「全部、ドワーフさんが居たからじゃないか……!」と言い切ってみせる。
「ワシが作り出したヴァルキリーの神殿には、おぬしら異世界からの勇者を召喚するための魔法円があったじゃろう? このワシ、最高の匠であるドワーフはそれを作る時にちょっとしたギミックを仕込んだのじゃ。匠の粋な計らい、ってやつじゃな。まぁ、オーディンに『ヴァルキリーが勇者召喚を諦めたらすぐに対応できるような仕掛けを作れ』と言われたからというのもあるんじゃが……ワシは、魔法円に細工をしておったんじゃ」
細工? と言葉を返すカミラは不思議そうな表情だ。私も簡単に言われたはいいが、ピンとこない。それどころかヴァルキリー様自身もよくわかっていないようだ。そんな私たちに向かってドワーフさんはこれでもかというほど得意げな顔でふふん、と鼻を鳴らす。
「ズバリ、ヴァルキリーがしばらく現れなかったら強制的に神殿へワープされる仕掛けじゃ! 別次元の異世界から勇者を呼ぶことが可能なのじゃから、同じ世界の神を呼び寄せるなどこのワシにしてみれば超イージー! 赤子の手をひねる、のは可哀想じゃからやらないがそれぐらい簡単なことなのじゃ!」
「……なるほど。つまり、何らかの事情で私が異世界召喚の勇者を呼べなくなったら自動的に私を神殿へ強制送還するようになっていたわけですね。けれど、ヒルダがヴァルハラに連れ去られカミラもそれを追っていったことで誰も私に向かって祈りを捧げることがなくなったから、私の存在意義がなくなり神殿へ連れ戻されたと……そういうことですね?」
ヴァルキリー様の言葉に、ドワーフさんは「しょーゆーこと! 正確には魔法円じゃがな!」と訂正しながらも親指を立てる。
要するに私たちがいたあの神殿で、勇者召喚を行う魔法円が一定期間使われることがなかったら自動的にヴァルキリー様が引き寄せられるということだ。
そういえば、私やカミラがお祈りするのをサボろうかとしていた時もヴァルキリー様は勝手に現れてきて私たちに「ちゃんと祈りなさい」って言ってたっけ。ただ単に、寂しがり屋だからとかじゃなかったんだ……
私がヴァルキリー様とともに、ヴァルハラへ連れていかれてから勇者召喚の儀を行う者はいなくなっていた。その間、ヴァルキリー様はオーディンたち神に囚われていたわけだけどドワーフさんの技術はその障壁を乗り越えるだけの力があった。元はと言えばドワーフさんはフェンリルを一時的に縛り上げた鎖や、何かと便利すぎてもはやわけがわからなかったドワーフスマホを作り上げたのだ。
自称「最高の匠」は、本当に最高の匠だったのだ――改めてそれを思い知った私は、ドワーフさんに「ありがとう」と零す。ドワーフさんは一瞬、驚いたような顔をしたがすぐに「そんなの当然、モチのロンじゃ!」と胸を張る。
「ワシは、ドワーフ! 最高の匠じゃからな! そんなもの、当然じゃわい!」
堂々としたその振る舞いに、今日は言い返すこともなく……ただ、本当に「最高の匠」だったドワーフさんに深く感謝の念を捧げるのだった。




