VS.神々①
魔王フェンリルは倒された。
けれど、だからと言って全てが簡単に「めでたし、めでたし」で終わるわけもなく……
「やったー! 勝利のポーズじゃー!」なんて言って変なポーズをしようとするし、変態さんは上着を貸してもらったお礼にと元・殺し屋の兵隊さんを変態さんにスカウトしようとして本気で射殺されかけるし、日が昇ったところでカミラが「っぎゃあああああっ! 熱いいいいいっ! 死ぬうううううっ!」なんて叫び出すし……その最中に私はこっそり、疑問に思ったことをヴァルキリー様へ耳打ちすることにした。
「でも、怪我っていうか毒のダメージが治ってたのはなんでなんですか? いくら女神とはいえ、あの毒は相当な威力を持っていたしそう簡単に治療できるものでは……」
「あぁ、それは……そのあたりのことは、後から説明いたしましょう。まずは最高神・オーディンへの報告からです」
突如として現れた最高神の名前に、私はピンと背筋が伸びるのを感じる。
そうだ、魔王フェンリルに最終的に勝ったとはいえその猶予を与えられたのは最高神オーディンに仮釈放してもらえていたから。ただ勝利を噛みしめ、凱旋するだけというわけにはいかない。
「さぁ、ヒルダにカミラ。ここから先が本当の勝負ですよ。あなたたちに無用な苦しみを与え、その運命を弄んだ神々に対決を挑まねば……私たちの本当の戦いは、これからです」
真剣な表情をするヴァルキリー様に対し、ドワーフさんは「打ち切りみたいなことを言うんじゃない! ワシらの物語は、もうちっとだけ続くんじゃ!」と口をはさんでくるのだった。
◇
「まさか、本当にあの魔王フェンリルを倒すなんて……」
「あんなろくでもない奴ばっかりで、よく世界が救われたものだ……」
ヒソヒソと話す神々たちをよそに私たち――ヴァルキリー様とカミラにドワーフさん、そして堕流救世主を先頭に並んで歩く異世界からの勇者たち。その目前に睨みつけるのは隻眼の最高神オーディンと、その脇を固める雷神トールに邪神ロキ。
……この3柱が並ぶと、それだけで圧迫感を与えられる気がする。それぐらい、3柱ともみんな見た目が良い上に文字通り人知を超えた美しさを放っていて……けれど、その表情はみんなバラバラだ。
まずオーディンは無表情に見えるが、わずかに驚いたようで片方だけの目をわずかに見開いている。その右にいるトールはどこか感嘆とも驚愕とも取れる溜め息をついていて、最後にロキは――美しい顔をこれ以上ないほど、「不愉快」という感情で歪めている。人間も神も、周囲をとにかく振り回すトリックスターの彼にとって自分がドワーフさんや私たちに翻弄されたのが許せない様子だ。霜のような冷たい髪色に、さらに苛立ちの凍てついたオーラを放つ彼をよそに一歩前に進み出たのはヴァルキリー様だった。
「最高神オーディン。おっしゃる通り私は異世界からの勇者たちを召喚し、昼田勇子と同じく異世界から召喚した勇者によって魔王フェンリルを撃破しました。……この功績は神々の長い歴史の中でも、十分な快挙であると言えるはずです」
「……だがお前は私たち神の意に反することを次々行った。最初からそこにいる昼田勇子を差し出していればここまでヴァルハラを混乱に陥れることもなく、お前自身も地下牢に繋がれず済んだであろう」
苦々しく話すオーディンに怯むことなく、ヴァルキリー様は真っ直ぐにその目を見つめる。そこに踊り出したのはドワーフさんだ、この場にいる誰より一番小さいはずなのに存在感は最大な気がするドワーフさんは大声を張り上げる。
「何をおっしゃるウサギさん! ヒルダを差し出しただけじゃフェンリルを完全撃破することはできなかったし、どうせ神々だけでは何も解決することはできんかったじゃろう! 魔王フェンリルを倒し、全てを解決できたのは紛れもなくヴァルキリーが呼び出した異世界からの勇者が全員で力を合わせたからじゃ! それを素直に認めんで、その働きに応じた報酬をやらんとは言わせんぞ!」
それだけ言うとドワーフさんはくるりと一回転し、びしっとツルハシを手にポーズを決める。ざわつく神々を前に、ドワーフさんは堂々と言い放つ。
「ワシとカミラが呼び出した連中、堕流救世主の面子や軍隊どもにはワシの最高の技術をもって礼をすると最初から説明しておる。じゃから、必要なのはそれ以外の連中に対してじゃ! ワシとヒルダにカミラ、それからヴァルキリーに対しての報酬! そんでもって、元凶であるロキへの罰はしっかりやってもらうぞ!」
唐突に話を振られたロキは、凍てつくようなオーラを纏いながらこちらを睨みつける。その冷気にぞわり、と鳥肌が立つのを感じるがドワーフさんは偉そうな態度のまま堂々と言い放つ。
「ロキ、お前はクソ野郎じゃ! 今まで神じゃからといってなんだかんだ許されておったが、ワシはお前を許さん! よって――ワシはオーディンに、おぬしを私刑にする権利を要求する! オーディンもトールも、『NO』と断ってやる事は許さんぞ!」
……仮にも神を相手に、ここまで強気でいられるのはドワーフさんぐらいのものじゃないだろうか。
緊迫した空気の中で、全員がごくりと生唾を飲み込んでいる。余裕でいるのは言い出したドワーフさんと、オーディン・ロキ・トールの3柱だけだ。
緊迫した空気の中、しばらく痛い沈黙が流れると――オーディンがゆっくりと口を開いた。




