VS.フェンリル<作戦会議②>
「事の発端はロキが巨人族の女に手を出したことからじゃった。……まぁ、詳しくは話さんがその女はロキの子どもを身ごもることになった。巨人族はその責任を取るよう、神たちに求めたがロキは妻帯者であったためそれを拒んでのう。結局、そお女巨人は泣き寝入りすることになり……そうして、生まれたのがフェンリルだったのじゃ」
眉間に皺を寄せ、重い口調で語るドワーフさん。
いつもあんなにお茶らけているドワーフさんが、こんな顔をするということははそれだけ大問題だったということなのだろう。カミラに変態さん、堕流救世主のみんなが固唾をのんで見守る中でドワーフさんは話を続ける。
「フェンリルは巨人族の怒りを代弁するかのごとく、ただ憎しみだけを宿した怪物じゃった。奴は生まれたその瞬間から世界を飲み込もうとし、神々は懸命に戦ったが誰も奴に敵わんでのう……最高神であるオーディンが自分の武器・グングニルを飲み込まれてしまったことで、神たちは最後の最後にこのワシを頼ってきた。『あの化け物を縛り付ける鎖を制作してくれ』とな」
ドワーフさんの、自分の腕にものすごく自信があるような口ぶりは相変わらずだ。けれど、それは過信でも自惚れでもなかったのだろう。だから神たちはその腕を見込み、ドワーフさんに頭を下げた。神であることを自負し、巨人や人間たちをさんざん見下していた彼らがドワーフさんには「お願い」をしたのだ。それだけドワーフさんの腕は確かで、「最高の匠」を自称するにふさわしい実績があったのだろう。
そして――ドワーフさんはそんな神の依頼を達成してのけた。少なくとも私のような異世界からの勇者を呼び出すまでの間、フェンリルを封じることに成功したのだ。
「ワシは『最高の匠』としての誇りをもってして、フェンリルをも縛り付けられるような頑丈な鎖を作ってみせた。あれはワシの最高傑作といっていい出来じゃが……それも、あのフェンリルを永久に縛り付けておくことができない。悔しいが、ワシも作ったその時の感触で奴がいつかは鎖を破壊していしまうだろうということがわかっていた。……まんまと愛用の武器を飲み込まれた、オーディンもな」
何もかもを見通すような、オーディンの深い眼差し。その目には自分たち神族の犯した過ちも、その報いとして現れた魔王フェンリルの強さも映し出さされていたのだろう。それでも彼は、この世界を守る神としての役目を果たそうと決めた。そのために、自らの娘――ヴァルキリー様に異世界からの勇者を召喚するよう命じたのだ。
「ねぇ、ドワーフは最初から全部知っていたの? 全部わかっていて……私にドワーフスマホをくれたり、ヒルダにドワーフ槍を与えたりしてくれたの?」
カミラの問いかけに私は、はっと目を見開く。
今の言葉を信じるなら、ドワーフさんは記憶を消されていた私と違って最初から何もかも知っていたことになる。腹井真白によって破壊された神殿を修復しに来た時、4頭の犬や十字架に怯えるヴァルキリー様とカミラを助けに来た時。ドワーフさんは私が本当の勇者であること、そしてヴァルキリー様が必死に別の「勇者」を探していたことを知っていたはずだ。だけどドワーフさんがそれに触れることはなく、黙って私を「神殿で働く聖女」として扱っていた。
……いや、黙るどころかさんざん自画自賛されたけれど、少なくとも決定的な真実を口にすることはしなかった。その代わりカミラにはドワーフスマホを、私にはドワーフ槍という武器を与え……暗に、私たちが戦える装備を整えていた。
ヴァルキリー様による口止めにも臆さず、けれどロキのように本当のことをベラベラ喋るでもなく。そうやって好き勝手に動いていたドワーフさんの、本当の目的は何だったのだろう?
その場にいる全員の目が、一斉にドワーフさんの方へと集められる。ドワーフさんはそれに臆すことなくしばらく、逡巡するように目線を動かしたドワーフさんはそれでも私の方を真っ直ぐに見つめると、「そうじゃ、カミラの言う通りじゃ」と告げた。




