ろくでもない奴ら②
私を閉じ込めていた部屋の扉が、乱暴に蹴り開けられる。そこから剣を手にした男の神たちがわらわらと入り込んできて、私とカミラを一斉に取り囲んだ。その先頭に立つ男の神は凍てつくような美しさを身に纏っていて……邪悪な神・ロキが私たちの前に現れる。
ロキは今までの人を苛つかせるような笑顔ではなく、渋い顔をしてカミラを見つめる。それから大仰に溜め息をついて、カミラの頭のてっぺんから爪先までを値踏みするように見渡した。
「君ってば聖水・十字架、それから太陽光にすら負けるクソ雑魚のくせにずいぶん好き勝手やってくれたねぇ。大人しくしていれば命までは取らないでいてやったのに……本当に、馬鹿じゃないの? まさか吸血鬼って、頭まで弱いのかな?」
「吸血鬼は弱くないし私は馬鹿じゃないわ。それに――私なんて簡単に殺せるみたいな言い方をしているけれど、本当は私を殺すなんて神にはできないことでしょう?」
小馬鹿にしたような態度を取るロキに、毅然とした態度で言い返すカミラ。その言葉に、ロキがぴくりと片眉を上げる。
「何、まさか俺たちより君の方が強いだなんて思っちゃってる? だったら思い上がりも甚だしいよ。弱いなら弱いって、現実を見て――」
「あなたたち、この世界の神は異世界人に対して不用意に攻撃できない。少なくとも致命傷を与えるようなことはできないし、攻撃するにしても一定のルールが存在する。……そうでしょう?」
カミラに自分の言葉を遮られたロキは、そこですっと表情を消し訝し気にカミラを見つめる。他の神たちも全員、カミラの言葉に驚いたのか信じられないようなものを見る目をカミラに向けた。そういう私だって、カミラが何を言っているのかわからずただ茫然と立ち尽くす。
――この世界の神が、カミラを殺せない? 異世界人に直接、手を下すことはできない?
大勢の目に見つめられる中でカミラはそれでも堂々と、ロキに向かって言葉を発してみせる。
「あなたは私、吸血鬼が日の光に当たったら死ぬことや腹井真白という名前のエクソシストに殺されかけたことを知っていた。けれどやったのは私を痛めつけるだけで、命に関わるような真似はしていない……あのトールとかいう雷の神も、そしてヴァルキリー様もそうだった。この世界の神はみんな、私たち異世界人へ積極的な攻撃を行っていない」
ぞわりと、肌が粟立つのを感じる。そんな緊張感を抱いているのは私だけでなく、私たちを取り囲んでいる神々もまた冷や汗を流している様子が見られる。冷静なのはロキと、そんなロキと対峙しなおも口を開くカミラだけだ。
「ずっと、変だと思ってたの。ヴァルキリー様は『戦いの女神』なのに腹井真白や犬を召喚した人間相手には苦戦していた。ひょっとして、実は弱いのを隠してるんじゃないの? とも思ったけどエイリアンが出てきた時はあっさり撃退していた……それで、思い出したの。ヴァルキリー様が『エイリアンの腕はすぐに再生する』って言っていたことを」
あの青い血を撒き散らしたエイリアン。言われてみれば、ヴァルキリー様が直接、手を下したのはアイツが最初で最後だ。掃除するのが大変で忘れていたけど、ヴァルキリー様は異世界からどんなにろくでもない奴が出てきても魔法円で追い返す以外のことはしていない。相手がこちらに危害を加えようとしない限り、ヴァルキリー様はいつも勇者に対して何かしようとはしなかったのだ。
……あ、でも最初に臭い騎士さんを召喚した時は思いっきりぶん殴ってたな。まぁ、あの時はカミラがいなかったからノーカンってことで……この場にいないヴァルキリー様のために1人、心の中で弁明する私をよそにカミラは真剣な面持ちで告げる。
「それで、私は思ったの。この世界の神は私たち異世界人を殺すことはできない、傷つけるにしても致命傷はダメとか一定の決まり事があるんじゃないか、って。その話をしてみたらね……あっさり『そのとーりじゃ! さすがカミラ、よく気づいたのう!』って言ってもらえたのよ」
誰が、なんて言わなくてもわかる。その特徴的な口調と軽いノリ、それは間違いなく――
「――っあぁもう! ドワーフって本当に勝手なことをするよなぁ! なーにが『最高の匠』だか……クソ、本当にムカつくなぁ。オーディンがいなけりゃヤドリギでもなんでもぶん投げてあんなクソジジイぶち殺してやりたかったのに……!」
徐々に声を荒らげ、ギリリと歯ぎしりをするロキ。その様子からしてよほどドワーフさんのことが気に入らないのだろう。初めて目にしたロキの感情的な一面に怯みつつ、私はやっぱりカミラの予想に確信を与えたのはドワーフさんなのだと再確認する。
「ふん、後悔してももう遅い、追放ざまぁじゃぞロキ! ワシは神にも人にも縛られぬ完璧生物じゃ! 元よりおぬしたち神に従ったつもりなど、これっぽちもないのじゃからな!」
そんな言葉とともに、カミラが先ほどダイナミックに飛び込んできた窓から最高の匠――いつの間にか機械の羽のようなものを身に纏ったドワーフさんが現れる。ロキが青筋を立て、その整った顔立ちを怒りに歪めた瞬間。ドワーフさんは叫んだ。
「さぁさぁ、ぐだぐだ長い説明の時間は終わり! ここからはワシらの戦いの時だョ! ババンばバンと全員集合~!」




