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【完結】異世界から勇者を召喚したいのにろくでもない奴ばっかり出てくるせいで世界が全く救われない  作者: ミント


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ろくでもない奴ら①

 私の呼びかけに答えるように、カミラは頼もしく微笑んでみせるとそのまま月の光を背景に神々へと立ち向かっていく。


 カミラを迎え撃つ神々の中には武器を持っているものもいるが、そんなことはお構いなしだ。剣で斬りかかろうとされればまずその男の右腕をぐい、と自分の方へ引き寄せる。それから社交ダンスをするようにぐるり、と男とともに体を回転させると反対の方向から襲い掛かろうとしてきた神へその剣を持った男を投げ飛ばした。

 ならば、と長い槍を持った女神がカミラの足元を攻撃すればカミラはそれをジャンプで躱し、空中で女の頭に両手を伸ばす。次の瞬間には女神の頭部を地面に叩きつける形で、バク転してからの綺麗な着地。そうやって(おそらくは)ドワーフさんゆずりのキメ顔をしてみせると、私や自分を取り囲む神々へ自慢げに口を開く。


「私は日が落ちてからなら力が出せるのよ!」


 これが吸血鬼の実力、これがカミラの本当の強さ。

 ……いつも「私は日が落ちてからじゃないと力が出せないのよ!」って泣き喚いていたけれど、あれ嘘じゃなかったんだ……本人が知ったらたぶん怒るであろうことを考えていると、カミラの背後に襲い掛かろうとする影が見える。思わず「危ない!」と叫ぶがカミラが振り返ることはなく――代わりにけたたましいエンジン音が鳴り響き、不意打ちをしようとした卑怯な神が呆気なく吹っ飛ばされる。


「おぅカミラちゃん! 喧嘩バトル仲間チームでするもんだぜ! ここにいる連中は俺たち、堕流救世主ダルメシアンが引き付ける。その間にカミラちゃんは、大切な人(ヒルダ)を助けに行ってきな!」


 行くぜ野郎ども! という雄叫びと共にヴァルハラの敷地内を、凄まじい勢いで走り回るバイクたち。そのバイクにはやっぱりほぼ裸の変態さんたちも乗っていて、一部の女神様たちはもうその姿を見ただけで既に悲鳴を上げ逃げ出している。それでも男の神はなお、果敢に戦おうとしていたが……今度は銃声が鳴り響き、きちんと隊列を組んだ軍服の集団がまたも神々を蹴散らしていった。


「おい、本当にここで戦ったら俺たちを元の世界に戻してくれるんだろうな? せっかく戦争が終わりそうなところだったのにまた異世界に連れ出されるなんて聞いてないぞ?」


「だーかーらー、『ドワーフの技術力は世界一ィィィィーーーーッ!』と言っておるじゃろう! この戦いが終わったらおぬしらの望むものをこのドワーフが完璧パーペキに作り出してやる! だからこの戦場をとっとと~終わらせ太郎よ~、じゃ!」


 苛立たし気に、それでも冷徹な目で問いかける殺し屋にドワーフさんはいつものノリで答える。なぜか戦国武将のような姿をしているドワーフさんは私を見つけるとこちらに長い槍――細長い矢印をそのまま、金属にしたようなシンプルな形状のそれを力強く投げつける。「ナイスヒットじゃあっ!」というドワーフさんの叫び声とともにそれは私が覗き込んでいる窓のすぐ側へ、深々と突き刺さった。するとその持ち手がうにょんとワイヤーのようにしなり――すかさずカミラが跳躍して、その先端を握りしめる。


「ヒルダどいてぇぇぇぇぇっ!!!」


 必死な形相でこちらに向かってくる姿に思わず、窓辺から後ずされば――ハリウッド映画さながらに窓を突き破り、私の目の前にカミラが姿を現した。


「必殺・ドワーフ投げ槍じゃ! どうじゃ、すごいじゃろう!」


 わざわざ(どこから取り出したのか)拡声器を使い、アピールしてみるドワーフさんの声を尻目にカミラが私を真っ直ぐに見据える。改めて見ると、本当に美少女だ……闇の帳を跳ね除けるかのような銀色の髪を靡かせ、ただ静かにこちらを見つめているカミラに私は「どうして」と問いかける。


 どうしてここにいるの。どうしてドワーフさんや堕流救世主のみんながいるの。どうして――どうして、私のところに来たの。


 私が今いるこの場所は、ヴァルハラという神々の住処。普通であれば、異世界人であっても来られないはずだ。そもそもカミラはトールの雷に打たれて、激痛に苦しみ動けなくなっていたはずだ。なのになぜカミラは、私のところに来てくれたのか。これではまるで――まるでカミラが、私を助けに来てくれた「勇者」みたいじゃないか。


「世界を救わなきゃ、っていうのはわかるわ。でもその世界に、自分にとってかけがえのない存在がいないのならきっと救っても意味がないと思うの」


 カミラは一度目を瞑ると、静かに息をつく。それから困惑する私に向かって落ち着いて、少しずつ距離を縮めていくかのようにゆっくりと話し始める。


「私は元の世界でお姉ちゃんを人間に殺されて、『こんな世界滅んでしまえばいい』と思った……何もかもが憎かった。悔しくて、悲しくて、本気で世界そのものを呪った。でもこの世界でヴァルキリー様とヒルダに呼ばれて、ドタバタしているうちに『こういう世界ならあってもいいかな』って思うようになったの」


 ねぇ、ヒルダ。ヒルダはどうなの?


 悲し気に、縋りつくような瞳でそんな言葉を紡ぐカミラ。涙で潤んだその瞳は、いつものようにただ怖かったり駄々をこねたりして泣いているわけではない。その目に私の心が揺れれば、カミラは私に向かって1歩ずつ近づいてくる。それからそっと、包み込むような口調でカミラは続けた。


「自分勝手で、ろくでもない主張なのはわかってる。だけど私は、ヴァルキリー様とヒルダのいない世界なんていらない。世界を救うなら、そこにヴァルキリー様もヒルダもいてほしい。だからお願いヒルダ、世界を救うのならヒルダも自分自身のことを守るようにして、私がほしいのは、私が救ってほしいのはヒルダとヴァルキリー様がいる世界なのよ」


 ぽろり、とカミラの瞳から涙が零れる。


 大声を出しているわけでも、滝のような涙をを流しているわけではない。だけどその泣き顔は、カミラの今までのどんな涙より私の心に深く突き刺さり……自分の心臓がどくん、と跳ね上がるのを感じる。


 私がいる世界。私がいてもいい世界。カミラはそれを、必要としてくれる。誰からも愛されなかった、ろくでもない私を存在してほしいと願っていてくれる。その事実が私を突き動かし、思わずカミラを手を伸ばそうとするが――


「――本当に、ろくでもない奴らだねぇ」


 冷徹で、何の感情も見せない男の声が私たち2人の間に割って入った。


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