VS.中二病
「ヴァルキリー様。偉大なる戦いの女神、我らを勝利に導く女神様。どうか今日こそ、異世界から勇者を召喚してください。お願いします、お願いします……」
「ヴァルキリー様。ドワーフスマホ返してください。あと召喚するならせめてこっちに害を為さない人間を召喚してください」
真摯に祈る私の隣で、カミラは思いっきり本音をぶっちゃけながらも一応きちんと祈りの姿勢を見せている。ドワーフスマホ、よっぽど返してほしいんだな……これだけ必要とされているなら、スマホを作ったドワーフさんもきっと本望だろう。長い髭の下で得意げに笑うドワーフさんを思い出していると、それを邪魔するように私たちの前へピンク色の髪をした美しい女神が現れる。
「カミラ。いい加減に、ドワーフスマホのことは忘れなさい。代わりに勇者召喚の方はなんとかしますので……」
「なんとかするって、本当になんとかできるの? 今までろくでもない奴ばっかり出てきて、この世界はちっとも救われないし……ヒルダもそれで、結構大変みたいじゃないの」
カミラの至極当然の反論に、ヴァルキリー様は「それは……」と口ごもる。
ヴァルキリー様には悪いけれど、カミラの言う通りだ。ドワーフさんのおかげでせっかく勇者を複数人召喚できるようになったのに、どれもみんな変な人ばかり……前回は高校生、前々回は小学生。……今度はその間の中学生が来る、ってことはないわよね? 既に嫌な予感を抱きながらも私はなんとか、ヴァルキリー様にお願いをしてみせる。
「ヴァルキリー様。どうか、勇者を召喚してください。お願いいたします」
「ええ、ええ。もちろんです。聖女ヒルダに吸血鬼カミラ。今日は、今日こそは強力な勇者を召喚してみせましょう」
それからヴァルキリー様は気合を入れたように、えいやっと魔法円を発動させる。もうこの光、嫌になってきたな……溜め息を我慢し、魔法円の光が収まったところで私は現れた異世界からの勇者たちに目を向ける。
……目にした瞬間、正直「ちょっとカッコいい」と思ってしまった。
異世界から来たその人たちはみんな、十代前半くらい。眼帯や包帯をしている人が目立つが、やたら黒い服を着ている人が多く……みんな、異世界に連れてこられたことでびっくりしている様子だけど私やヴァルキリー様の姿を見ると急に不敵な笑みを浮かべて口を開いてみせる。
「なんだお前ら、我が力をつけ狙う結社の連中か?」
「私たちの力を嗅ぎつけたってわけね……」
「ふん、俺の能力を利用しようっていうのか。だが甘いぞ、俺は誰かに飼い慣らされるような性分じゃないからな……」
理解が早くて助かる。
ヴァルキリー様が説明するより前に状況をわかってくれたのは、ありがたいけどちょっと意外だ……っていうか召喚しておいて何だけど、そんなすんなり信じられる? この勇者たち、大丈夫かな……そんな不安を抱きつつある私の隣で、カミラが「ぎゃあ」と叫び声を上げる。
「いやあああああっ! 銀怖い十字架怖いいいいいっ!」
綺麗な髪を振り乱し、悲痛な叫び声と共にのたうち回るカミラ。その目線の先にいる少年少女たちは、いきなり取り乱したカミラに驚いたようだが私は彼らの姿を見て全てを察する。怯えるカミラを庇うように立った私はできるだけ穏やかに、相手の警戒心を解こうと口角を上げながらカミラのことを説明する。
「すいません勇者様。カミラ……この子は吸血鬼で、銀とか十字架が大の苦手なんです。だからその、勇者様の格好が怖いみたいで……悪気はないんです。ごめんなさい」
そう、勇者たちの一部にはジャラジャラとした銀色のチェーンや十字架のついたネックレスなど、ヴィジュアル系やゴスパンといった路線の格好をしている人たちも多く……小学生が適当に作った十字架でも怖がるカミラだ、そんな服を着ている人たちを見たら怖がるのも無理はないだろう。
だが、それを指摘された当人たちは「吸血鬼」という単語の登場で急に色めき立ち……目をキラキラと輝かせると次々に、カミラへ質問を投げつけてくる。
「えっ、ちょっ、その……本当に吸血鬼?」
「ちょっと瞳見せてよ、オッドアイだったら最高なんだけど!」
「その漆黒のドレスはゴシック・スタイルか……実に興味深い」
ワクワク、好奇心を一切隠さず話しかけてくる勇者たちの前にヴァルキリー様が割って入る。ヴァルキリー様はこの勇者たちを召喚した張本人なのだ、けれどその存在をまるっとスルーされたのが気に食わないのかどこか憮然とした様子で勇者たちに話しかける。
「勇者たちよ、吸血鬼に関心を持つのは良いですがまずは私の話をお聞きください。私は戦いの女神ヴァルキリー。あなた方勇者に、魔王を打ち倒しこの世界を救っていただきたく……」
「何っ、神だと!?」
「魔王と勇者か……! それはきっと、この俺に違いないな!」
ヴァルキリー様の言葉に反応したのは、一部の男子たちだ。皆、それぞれ気だるそうにしているがその実、乗り気なのか得意げに腕をポキポキ鳴らしたり自分のうなじを擦ってみたり……その中の一人、上下黒の長袖に魔法円らしきものが描かれた手袋をはめた少年が鼻をやや上向きにしながら、ヴァルキリー様へ語り掛ける。
「ふん、本当に神かどうか怪しいものだな。神の座から転落した邪神や堕天使の可能性もある……そもそも神が人間を利用することなど、よくある話だからな。俺はお前らのことを信用しないぞ」
「っそんなことありません。私は正真正銘、本物の神です! に、人間を利用しようだなんて……!」
「どうだかな。お前が本当に神だというのなら、俺が使役する四聖獣たちの攻撃を受けてみるがいい!」
そう言うが早いか少年は何かを早口で呟き――それからニヤリ、と黒い笑みを浮かべてみせる。
「召喚が自分たちだけの特権だとでも思っていたか?」
少年の言葉とともに、神殿に紫色の煙が上がりそこから4頭の獣が現れて……私とカミラ、ヴァルキリー様はそれぞれその姿に目を見開くことしかできなかった。




