第一次囲い込み 繊維工場見学
殿下、伯爵様ご一同がキルテル村の工場とメンバーを視察します。
当然エリオス君にとっては実家は恥ずかしい一面であって
本来なら見せたくない場面でもありました。
お父様の工場は一段と大きくなり、立派な工場制手工業となり
メイヤーさんも家族総出の問屋制手工業が発達していきます。
これからの拡大が壁に当たるのが今後の課題とも言えます。
キルテル村に到着すると、一同はエリオス君の家宅と
繊維工場に向かう。
実はこの工場を見に来るのが今回の本命だったのだ。
その為にわざわざトーマス殿下もついてきたのである。
エリオス君は不本意ながらも伯爵様には抵抗出来ず
しぶしぶ工場見学に参加する。
「これはこれは。伯爵様と殿下。
お初にお目にかかります。
エリオスの父のボッシュと申します。
この工場の工場長をしております。」
「卿があのエリオスの父か。余がアナトハイム伯爵である。
噂には聞いている。
領地内の産業に貢献していると噂だ。」
「勿体無いお言葉。」
「近くに寄ったので工場を是非一度見せてもらおうか。」
「承知しました。」
お父様と伯爵様が会話する。
いきなりのお偉様方の来訪に驚いている。
しかたないのだよお父様。運が悪かったんだ・・・。
「(おい、エリオス。どういう話なんだ。
どうしてこんなに貴族様がここにいらっしゃるんだ?)」
「(裏で工場に見に来たいと。
村長さんから色々と情報が筒抜けだった様です。)」
「(領主様が相手では、仕方がないのか。
しかし僅かな間にこれほどの貴族様と知り合いになるとは。)」
お父様とヒソヒソ話で口裏を合わせる。
ぐぬぬ。
はめられたか。
工場は以前の実家から移転して、
川沿いの敷地に移設されている。
そう、水車を動力源として使うためである。
以前とは比較にならない大きい建屋に驚く。
「(お父様、いつのまにコレほどの大きな建屋が。
驚きました。)」
「(ふふん、驚いたか。努力の賜物だ。
川沿いに建屋を購入して、少しづつ設備の台数を
増やして生産量を上げたのさ。)」
工場内を見てみると、30台のジェニー紡績機が並んで動いていた。
16本×30台=318ラインである。
そして、糸のゴミ取り、均し工程がそれぞれ手作業で分担。
なんと日勤者で数十人の規模に膨れ上がっていた。
トーマス殿下と伯爵様も含め驚く一同。
「驚いたな。予想以上に大きな工場である。
それにこの紡績機。少人数でコレほどのライン数を操作しているのか。」
「紡績機は機械で対応出来ますが、
糸の原材料から均しまでは人海戦術でございます。」
「それにしても、一つの工場でこれほどの規模とは。
まだ設備は増やせるんだろうな?」
「もちろんでございます。
少々人手不足になってきましたが。」
「それなら此度の失業者を雇用出来ぬか?」
「本人が望めばですが、ありがたい話でもあります。
人がいれば昼夜で3交代制にすれば土日にも生産可能になります。
将来的には綿花や羊毛も足りなくなってくる予想です。」
「それで、今回の羊の囲い込みか。
羊毛の値段が急上昇している背景がある。
合法的であれば羊の奨励せねばならぬのか・・・。」
考え込む伯爵様とトーマス殿下。
衣食住の中で衣類はまだ庶民には高く供給出来る量も限られる。
工業化が進みコストが下がれば一気に普及するであろう。
それこそ1人何着でもの時代が。
そして国外にも広がり重要な輸出品になる。
それを頭に描いているのであろうか。
「紡績にはエリオスの考えで・・・(もごもご)。」
「次は機織り職人のメイヤーさん家も寄っていきましょう。」
お父様が内密の話を口走りそうになったので口を塞ぐ。
これ以上情報を漏らしてもパクられるだけである。
とっとと追い出すに限る。
「そう言えば機織り機は飛び杼が商業ギルドから供給されているな。
そちらも生産性が向上しているのであろう。」
「僕はまだ現地では見たことがないのでありますが。」
強引にも話をそちらに移してメイヤーさん家に押しかける。
メイヤーさんにも非常に迷惑だな、この話は。
後でメイヤーさんに謝っておこう。
と、メイヤーさん家に移動すると当然このマスコット娘に発見される。
「あー、エリたんだ。おかえりー。」
「よしよし。」
「「「ム!」」」
チェリーちゃんが泣きながら抱きついてくる。
頭を撫でてあげる。
実は以前来た時からそんなに経っていないからね。
このメンバーが勢揃いしているととても恥ずかしい。
名前は出さないが女性陣の目が釣り上がる。
後が怖いよ。お父様。
「エリオスも隅に置けないな。
あちこちに女を作って。まだ坊主なのに。」
「トーマス様。僕は女は作ってません。
そういう恥ずかしい呼び方は謹んで頂けないでしょうか?」
「わはははは。神童も女の前では形無しか。」
「・・・とりあえず中にはいりましょう。」
トーマス殿下のツッコミに一同大笑い。
とっても恥ずかしい。
ここは反応した方が負けである。
「あらエリオス君。久しぶり。
今回は沢山の方々がいらっしゃるのね。
・・・これは領主様。失礼致しました。」
「よい。今日は余が押しかけてきたのだ。
楽にして良い。
卿は機織りの名人と聞いた。
是非見せて欲しいものだ。」
「承知しました。
こちらに機織り機が5台ありまして、家族親戚で織物をしております。
商業ギルドから頂きました飛び杼の効果で、
1人1台で機織りが可能になりました。
ボッシュさんから糸を供給して頂く事で
多数の布材を供給させて頂いております。」
「なるほど、領地外への重要な輸出品という訳だな。」
「本来は農業の合間なのですが、もはやどちらが本業と呼べるか。
農業の出来ない季節にも収益が得られるので助かっています。」
「うむ。王都でも卿の織物は有名である。
今後も宜しく頼む。」
「勿体無いお言葉。」
伯爵様、ご隠居様とメイヤーさんが会話する。
絵的に驚くべき構図であるが、
あちこちに足を運ぶのが好きな伯爵様なのであろうか。
それだけ領内の産業に苦悩している証かもしれないのだが。
「チェリーも今や立派な機織り人なのよ。」
「こら、殿下や伯爵様、ご隠居様の前で。失礼だぞ。」
「良いエリオス。
卿と卿の知り合いのおかげで領内が発達するのだ。
頼もしいぞ。これからも宜しく頼む。」
意外と庶民に対しても温和な貴族様で内心驚く。
僕はこの方を高慢ちきな貴族と見誤っていたのかもしれない。
実際、学校では高慢ちきな貴族子弟しか見ていない。
雲の上の方々なのである。
「で、誰がエリオスの本命なんだ?」
「ト、トーマス様。
その様な発言はご遠慮下さい。」
「あらー。エリオス君はやっぱり王都でも女を作っているのね。」
「「「ム!」」」
「あはははは。」
恥ずかしいコンビにからかわれる。
正直この二人を直接相手にはしたくない。
顔を真っ赤にして口封じにかかる。
後でまた女性陣にお説教かな。
だからキルテル村に連れてきたくなかったんだけど。
故郷を見られる恥ずかしいエリオス君でした。




