とある、ひだまり食堂の一幕
今回はすっかり荒くれ者が集まるようになってしまったひだまり食堂のお客さんの一人の視点です。あしからず。
酔っ払いに身体を触られていちいち悲鳴を上げていたリデルちゃんもそのへんの対処にすっかり慣れてきたように思える。
酔っ払いとはいえ、身体が資本の冒険者である。
気を静めるとかそれなりにできるし、身体能力だって一般人に比べれば随分高いといっていい。
にも関わらずスルリスルリと手をかわすリデルちゃんは一体何者なのだろうか?
ほら、今も。
以前からリデルちゃんのことを気に入っている冒険者の一人、マーガスが酔いに任せて抱きしめようとでもいうのだろう、背後から忍び寄っている。パッと見、リデルちゃんに気づいた様子はない。周りの連中がマーガスの動きに気づいて殺気立つ。その空気の微妙な、ただし確実にある変化にリデルちゃんが気づいてもおかしくなくなるが、それでもマーガスの魔手のほうが早いだろう。
何人かはマーガスを取り押さえようと飛び掛り、また何人かはリデルちゃんとの間に割り込もうとするが距離に差があり過ぎる。間に合わない!
賊の手がリデルちゃんの身体を囲み、抱きしめようとする刹那、
リデルの身体が姿を消した
勢い余ったマーガスは床にキスをして、取り押さえようとしたものや割り込もうとした者も床の上を芸人よろしく転がった。
「銀貨が落ちていました!ってマーガスさんに他の皆さんもどうしたんですか?って、ああ、この銀貨は…誰のなんでしょう?皆さんの必死具合を見るにどなたのものでもおかしくなさそうです…」
床に落ちていた銀貨を見つけて屈んだようだ。
困ったように辺りを見回している様子にわざとらしさはない。
だが、あれを偶然できてしまうのだろうか?
「リデルちゃん、それ俺のなんだ。今金欠でつい必死になっちゃって」
マーガスのやつも取り繕おうと必死だな。
「マーガスさんの、なんですね?はい、今度は落としちゃダメですよ?それからいつも飲んだくれてないでお仕事してきてくださいね」
あ~あ、そんな笑顔で話しかけちゃ、あいつますます入り浸るんじゃねぇか?
「こら、リデル!カモを自分から逃がすんじゃないよ!!」
厨房の奥からレイダさんから声が上がり、
「あら、でもレイダさん、お金がない人に入り浸られても困るだけでしょう?」
と軽快に答える。入ったばかりの頃とはやはり雲泥の差だ。
「は、はい!リデルさんのためにも働いてきます!」
そう言って勘定を机に置くとさっさと出て行ってしまった。
アイツ、今から出るのか?普通朝から行くものだろうが。
食堂だからと酒が出ないのは残念だが、ここは居心地が良くていつの間にか常連になっちまったが、リデルちゃんといい馬鹿野郎共といい、飽きないぜ、まったく。




