2-(10) それぞれの取引
3人称、短いです。
その日の夜。瑠那は志斗に付き添われて、屋敷の地下へ下りる階段を進んでいた。
レンガを固めた螺旋階段は、どこかの物語に出てきそうなものだ。
壁には蝋燭が灯っていて、薄暗くはあるが視界の確保には十分の光を発している。
「あの男達は何か吐いた?」
瑠那の声が大きく響く。
今日の夕方小鳥遊優を襲った男達を、瑠那は屋敷の地下牢に拘束し、尋問するようにと志斗に命じておいたのだ。
あまりにも口が堅い場合は、自白剤を使っても良いように言ってある。志斗の事だから相手に情け容赦せずに何か情報を吐かせたはずだ。
「はい、自白剤は使っていませんが、男達はボスの顔を見たことがないことが判明しました。小鳥遊優を襲う命令を下したのはボスの男らしいんですが、目の前にいるはずのその姿が見えなかったと男達は言っています」
「洗脳系、じゃないね。精神干渉系の魔法かな」
「おそらく、そうだと思われます。男達を確認しましたが、何らかの記憶の改ざんが行われた可能性は低いかと」
「そう、他には何も?」
「すみません」
意気消沈して俯く志斗に手を振った。
「いや、いいよ。どうせ、あの男達にはそんなに期待してない」
わざわざ『男達』と言い添え、志斗のせいではないと言う瑠那に、志斗も微笑む。
話している間にも2人の足は動き、螺旋階段を下り終えて長い廊下の一番奥、突き当たりの部屋へ入る。
そこには尋問を受けて疲弊した男達が蹲っていた。
「初めまして?」
瑠那が声を掛けると、男達のリーダーと思しき赤髪の男が睨みつけてくる。
「お嬢ちゃんがそいつらのリーダーか」
男が顎を使って示したのは、部屋の隅で目を光らせる人形達のことだ。
志斗と同じ、自我を持つ人形達。男達はおそらく彼らが人間だと疑っていないのだろう。だからこそ、脅しとしての価値はあると、瑠那は思っている。人形と知れると、実際の戦闘能力はさておき弱いと誤解されかねないからだ。そういう油断は心に余裕を生む。その結果情報が搾り取れなかったら意味がない。
「そうだよ、私が彼らのリーダー。君もそいつ等のリーダー?」
「リーダーなんて立派なものじゃねぇさ。ちょっとしたまとめ役だよ」
「そっか」
粗野な口調の男は、まとめ役とは思えないほど風格がある。部下と違って傷一つ負っていない。魔法が使えないだけで実際腕は立つのだろう。程よく鍛えられた筋肉からもそれは知れた。
勿体無い。瑠那はそう思う。
これだけ戦闘で使えそうな男なのに、捨て駒にするとは勿体無い。
瑠那は決めた。この事件が解決したら、お駄賃代わりにこの男を貰おう。
「お嬢ちゃん達はどうしてあの娘を助ける」
「必要だからだよ」
「必要?あの娘の魔法はせいぜい相手を拘束するくらいしか出来ないぞ」
「知ってるよ。私にとってあの子の魔法は価値がない。でもその存在は、価値がある」
つらつらと質問に答える瑠那に、男は怪訝な顔をして上半身を起こす。手足が縛られていてもその動きは滑らかだ。
瑠那は杖をついて男に近寄ると、その耳元で囁いた。
男の雰囲気から、男もまた組織に従順ではないのかもしれないと思ったからだ。
「取引をしよう、赤髪の男。君の知っている限りの情報を教えてくれたら、君の命は助けてあげる」
◆ ◇ ◆ ◇
「どういう事なんですか!説明してください!!」
「もちろん、君の気が済むまで説明するよ。だからまず座って」
半狂乱に叫ぶ小鳥遊優を前に、九谷は落ち着いた様子で着席を促す。
何時までも喚いていていては意味無いと思ったのか、優は比較的素直に席に着いた。
――――それから十数分後。
「という事なんだけど、分かったかな?」
瑠那の事をぼやかしながら伝えた九谷に、戸惑ったように優は頷いた。
「つまり私は、ボスに見捨てられたって事ですよね。じゃぁ、妹は今頃……」
「安心して。君の妹さんの身柄は、すでに確保済みだから」
沈鬱な表情だった優は、九谷の言葉に嬉しそうにお礼を言う。
小鳥遊優を守るにあたって一番初めに問題視されたのは、彼女の妹の事だった。脳死判定をされたと言う事は、抵抗などできないということだ。その身柄は組織によって保護と言う名の監禁をされていることだろう。優の殺しが失敗したと知られたら、その妹がどのような扱いをされるか分からなかった。大和は優にいの一番に妹の入院している病院を聞き出すと、自分の知り合いの医師に頼んで、その身柄を組織から隠してもらったのだ。
現在彼女の妹は、安全なところで医師と護衛をつけ、付きっ切りで守られている。
良かった、と呟く優に九谷は鋭く細めた目を向ける。そして、雰囲気に呑まれた彼女に向かって、こう聞いた。
「こちらの事情は話したよ。次はそちらの事情を聞こうかな」
いきなりですが、土曜日から5日間。出かける事になりました。
更新は時間設定で、3話分用意しましたので、随時更新されていくと思います。




