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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
4章 関ケ原編

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79 執事と関ケ原

 名古屋に向かう新幹線で、悠斗は物思いに浸っていた。


 理由は勿論瑠衣のこと。自分の恋心に気づいたところまではよかったものの、それをそのまま彼女に伝えるわけにはいかない。それは「思い人に好きな人がいるから」という理由ではなく、もっと現実的な自らの立場と業務上の理由から。


「お嬢様たちに、報告しないとだよな……」


 始発の誰もいない静かな車両内に小さな呟きが漏れた。




 関ケ原には五大財閥専用の別荘がある。

 天下分け目の「関ケ原の戦い」が起きた場所は歴史的価値の高い場所と捉え、五大財閥における会議や避暑地として代々使われてきた特別な場所だ。


 駅を抜け迎いの車に乗り継ぐと山々の中には巨大なレンガ造りの邸宅が見えてくる。数多の警備員が至る所に配置され厳かで緊張感のある雰囲気を醸し出している。


 車が門をくぐると朝一だからか誰の声もしない。


 警備員に一礼し玄関ドアを開けると、ホール内は、天井に飾られたシャンデリアと、歴史を感じさせる重厚な調度品で満たされている。各財閥のメイド服、燕尾服を着た使用人達が邸宅内をせわしなく動いている。


「こちらが月若家華凛様のお部屋です」

「ご案内ありがとうございます」


 深く一礼して案内人を送り出すと、悠斗は三度のノックのうちドアを静かに開けた。


「早朝に失礼いたします。星原悠斗参りました」

「ご苦労。パパたちが話あるらしいからそっちに行きなさい」

「その前にお伝えしたことが」

「なに? 私機嫌が悪いんだけど」


 部屋の主である華凛は、心底ふてくされているようだった。今日が世間一般でいうクリスマスであるにもかかわらず、こんな場所で一人で過ごさざるを得ないのが理由なのだろう。


「大事なお話がございます。申し訳ございません」

「大事な話? なによ」

「好きな人ができました」

「は、なんて?」

「好きな人が、できました」


 ソファに深々と腰掛けていた華凛が、ゆっくりと顔を上げる。その顔は先ほどまでの不機嫌なものではなく、好奇心に満ちたものへと変わっていた。


「相手だれ?」

「……」

「瑠衣?」

「……はい」

「へぇ、へぇー」


 いつもの報告時は興味がなさそうにながら聞きしている華凛も、今日ばかりは前のめりになって興味津々。


「いつから?」

「昨日、気づいたら好きだと思いまして」

「待って、昨日って月若の業務じゃないの?」

「いや、瑠衣さんの日ノ内の業務のお手伝いをしていました」

「えぇ……聞いてないんだけど」


 そんなことはあり得ない。瑠衣は月若との会議で決まったことだと言っていた。華凛の耳に入っていないはずがない。大それた秘密任務でもないのにどのような理由で伝えられてないのだろうか。


「まぁそれは後で聞くとして、どうすんのよ。告白して付き合いたいとか思ってんの?」

「それは考えていません。私は月若で彼女は日ノ内です……」


 いつか華凛はアニメをみながら「使用人同士の恋愛の方が禁断の恋」と言っていた。今その立場にいるとそれを痛感する。この恋はやはり蓋をするべきなのだろう。


「別にあの子は一年で解放されるんだしよくない?」

「そういうものですかね……」

「そういうものよ」


 華凛は呆れたように肩をすくめ、ソファの背もたれに深く体重をかけた。


「あんたは真面目すぎるのよ。月若と日ノ内の立場なんて、上が勝手に決めた枠組みでしょ。ルールなんていつか破られるものだし」

「……」

「てか私が自由恋愛のお忍びで大和と付き合ってんだからいいでしょ。あんたも瑠衣と付き合って共犯になりなさい」

「簡単に言わないでください。他にも理由があるんですよ。瑠衣さんには好きな人がいます」


 華凛の表情が一瞬で凍りつき、次の瞬間心底信じられないものを見る目で悠斗を凝視した。スマホに手を伸ばしてどこかに電話をしようとするので、悠斗は急いで止める。


「待ってください。このことを知っている人は誰かわからないので内密にお願いします」

「いや……あーうん」


 華凛は伸ばした手を途中で止めると額を押さえて深々と考えると、今日一番の大きなため息を吐いた。


「待って、どんな人って言ってた?」

「詳しくは聞いていません。特別な幼馴染がいて、自分はその子に向けられる視線にずっと嫉妬していた……と」


 言葉を飲み込み痛む頭をあやすようにこめかみを指で揉む華凛。何かを察したような主の反応に、悠斗は不審そうに首をかしげた。


「全てに合点がいったわ。ねぇ悠斗、あなたは月若の人間よね?」

「はい……」

「私も、ママもパパも我儘なの。だからあんたも我儘になりなさい」


 腰に手を当て立ち上がるとグイグイとこちらへ近づいてくる。


 確かに華凛は我儘を体現したような人で、無理難題をお金の力で解決する強引さを持ち合わせている。そうして彼女は世間の目を一切無視して日ノ内大和と付き合い、今日に至るのだ。


「あんたが瑠衣と一緒にいたいなら、そんな顔も名前も分からない奴のことなんて考えるんじゃないわよ。月若の人間なら、もっと我儘であるべきなの。……ねぇ、パパ?」



13(木)の更新はお休みさせていただきます

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