61 執事とメイドの文化祭デート(1)
悠斗たちの二日目のシフトは意図的に少なくなっている。
華凛と大和の秘密のデートのため、念入りな準備と時間が必要ということで使用人たちは朝から駆け回っていた。
本格的な準備の時間が必要ということで女性陣は朝一から美術室で作業をしている。
悠斗の目の前には瑠衣と華凛がいるが変装のためお互いが入れ替わっている。今日一日はお互い入れ替わって生活をすることになっているが問題が数点あった。
「華凛様、ブーツの件は?」
「昨日から身長盛ってるから気づかれにくいと思う。あとは声くらいかな」
「悠斗くんに全て話してもらうとかどうですか?」
「私普段からお喋りよ? 瑠衣には頑張って私の声真似してもらうしかないかも」
変装や特殊メイクにおいて外見や服装を変えられても骨格、声質、癖などの身体的特徴を変えることは難しい。
身長に対する問題は、華凛が昨日からシークレットブーツを履いていたので「今日も同じものを履いている」という設定にしている。
問題は声。
声の高さやトーン、抑揚を自然に再現するのは簡単なものではない。
「こうですか?」
「もっと高く」
「こうですか?」
「うーん……もう少し語尾を跳ねさせる感じで。あと、自信満々そうに。試しに悠斗のこと呼んでみて」
「分かりました。……悠斗。大和とデートしたいからどうにかしない」
瑠衣が顎を少し上げ、腕を組みながら発した。
瑠衣特有の声質は完全に消せるわけではないものの、華凛独特の抑揚や勝ち気で気品のある喋り方の癖を見事に捉えている。
「大丈夫だと思います。……たぶん」
「たぶんって何よ。懸念点は?」
「私たちが思っているより知られていると言うことですね。お嬢様だけでなく瑠衣さんの名前も一年生では知られていましたから。気づく人は気づく可能性があります」
悠斗の言葉に瑠衣の見た目をした華凛も、苦い顔をする。
華凛や自分の名前は知られている前提ではあったが、まさか瑠衣の知名度も高いものとは思っていなかった。
昨日クラスに来た一年生たちが、「富士見さんもお願いします」という言葉が悠斗は気になって仕方がなかった。
「生徒会だから知られてるんでしょ。まぁなんかあったらどうにかしない」
「そうよ悠斗どうにかしなさい」
「るいるい面白がってるでしょ!」
「お嬢様頬を引っ張るのはおやめください! メイクがはがれてしまいます」
そんな彼女たちの微笑ましいやり取りをよそに、悠斗は改めて制服のネクタイをただしインカムを耳に着けた。
全ての準備が終わり生徒会が居座るインフォメーションがある教室にまで華凛を送り届ける。そこには大和たちがあわただしく作業をしていた。
「では瑠衣さん。生徒会のお仕事頑張ってくださいね」
「まかせ……。ンッ。わかった。悠斗くんも月若さんも楽しんで」
「ばいばいーるいるい頑張ってね。いくわよ悠斗」
瑠衣が無理して華凛のふりをするため声を上げているが耳まで真っ赤にしているのが分かる。その姿に華凛と奥にいる大和もお腹を押さえて笑いをこらえようとしている。
「……承知いたしました。参りましょう」
悠斗も手で口を押さえ瑠衣の後ろをついて歩く。今のところ違和感なく「月若華凛」を演じてもらっているがどこでぼろが出るかはわからない。だからこそ後ろを歩き今日は「富士見瑠衣」の使用人でなければならない。
悠斗たちがあるくと周りは物珍しそうにこちらを見てくるが内心は気が利き出ない。いつバレるかひやひやしながら歩いていると一人の男子生徒が話かけてきた。
「月若さん、星原さんお久しぶりです! この前はありがとうございました」
「……」
突然見ず知らずの男子に話しかけられフリーズを起こしているのだろう。彼女は腕を組んだまま固まっている。
こういう時にこそ悠斗の出番で瑠衣の前に一歩出た。
「お疲れ様です。この前のお怪我は大丈夫でしたか? 体育館から足を引きずって出てきた時は心配しましたよ」
「骨折などではなく捻挫なので大丈夫でした。これも星原さんが早急に対応してくれたおかげです」
「私のしたことなど、保健室にまで運びアイスバッグなどを準備したまでですよ」
悠斗はわざと説明口調で目の前の男子に話しかける。これもすべて察しのいい瑠衣であれば言葉の中から、情報の裏を分析し打開策を模索する術が思いつくというよみだ。
「大事じゃなくて良かったわ。次から気を付けることね」
「はい! それでもしよかったらうちのクラスきませんか? ワッフルをだしているので」
「いいわね。悠斗行きましょ」
どうやら中身が違うというのは今のやり取りではバレていないらしい。それほどまでに彼女の声真似は上手ということだろう。
「お上手です。気づかれておりません」
先に歩く瑠衣に距離を詰め耳元で囁いた。誰にも気づかれないような小声で。
「あら。そう?」
「はい、声の方も違和感がございません」
「私耳がいいからね。こういうの得意なのかも」
完全に月若華凛に入り切っているからかいつものおとなしい声色とは違う。自信ありげでその立ち振る舞いはまさに五大財閥のご令嬢そのもの。彼女の意外な特技に悠斗も舌を巻いてしまう。
「他の方々にもばれてなさそうですし、このままいきましょう」
「了解。さっきみたいに何かあったらお願いね」
「お任せください、何があろうと星原悠斗が瑠衣さんをサポートいたしますから」
「流石、悠斗ね」
悠斗は執事として完璧な礼を執りながら、誰にも見えない絶妙な角度でそっと笑みを浮かべて見せた。




