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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
3章 二学期編

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58 執事と文化祭一日目(1)

 文化祭一日目。

 高校の文化祭にしては本格的な衣装と装飾。「月若家の令嬢が提供する本格的なメイド・執事カフェ」ということで多くの注目を集めていた。


 今も廊下には長蛇の列ができているが、慌てふためくクラスメイトをよそに悠斗は目の前の対応に困っていた。


「店員さん! うちケーキセットでオプションで悠斗のあーん付きでお願いしまーす」

「……朱莉様、ここはそのような場所ではありません」


 我が者顔でくつろぐ朱莉はニヤニヤした様子でメニュー表を差してくる。開始時間から居座る彼女の対応に、クラスメイトも困ってしまい悠斗が相手をせざるを得ない。


「いつまでいらっしゃるんですか?」

「えぇーなんでそんないけぇずなこというん?」

「朱莉様がいると周りが騒がしくなりますから」

「待ち合わせしてるんだからまってぇや」


 水船と月若のご令嬢が集まっている機会など一般人が目にできる機会など早々ない。だからこそ、廊下からわざとらしくバッグの位置をこちらに向けてるメディア関係者の視線が気になる。


 日ノ内系列の週刊誌や新聞社なのだろうが月若の人間としては警戒せざるを得ない。


「どれくらいでいらっしゃるのですかその人は?」

「もうすぐ来るんやないかな。あ、ほら」


 朱莉が立ち上がり窓から顔を出すと、悠斗も後ろから顔をのぞかせた。けたたましい音と共に大きな影が校庭に落ちる。外の異常に気付いたのは悠斗たちだけでなく他のクラスからもぽつぽつと顔を覗かせている。


「悠斗、緊急事態」


 悠斗の後ろからカツカツと音を鳴らして、メイド服を着た華凛と瑠衣がやってくる。華凛の右手にはスマホが力強く握られている。


「どういうことですか、お嬢様」

「あれうちのヘリよ見なさい。後ろの方」


 指さす方に目を向けると大きなヘリコプターが少し離れた校庭に向かい下降しようとしている。ちらっと見える機体の後部には、華凛の言う通り月若の家紋が入っている。そんなヘリがここに降りてくるとなれば理由は一つだ。


「お嬢様、お迎えに行ってまいります。瑠衣さん、皆さんのことよろしくお願いしたします」

「あ、ちょ……」


 周りの静止を無視し悠斗は窓のサッシに足をかけそのまま飛び降りた。校舎から聞こえる驚きの声を背に、燕尾服を整えネクタイを整えながら校庭にまで歩いていく。


 ヘリコプターのそり部分が地面につきローターの回転が収まった瞬間、悠斗は急いでヘリにまで近づく。


「お疲れ様です、旦那様奥様」

「おう、悠斗。出迎えありがとう」


 ヘリの重厚なドアが開きステップを降りてきたのは、悠斗が仕える月若家の当主たち。悠斗はポケットから手鏡を取り出し後ろ二人に見せる。


「気遣いありがとう、大丈夫よ。流石悠斗ね」

「お褒めいただきありがとうございます」

「じゃあ、案内を頼む」

「……承知いたしました」


 悠斗は二人が、ここに来るとは全く聞いていなかった。日本だけでなく世界をまたにかける月若家の当主であるため、カレンダーに空白など存在しないはず。そしてここは世間では犬猿の仲と言われる日ノ内の庭。


「すみません。あなたたちは?」


 いつの間にか周りには学校の教員が数人集まっている。他にも陰で日ノ内大和の護衛をしている教員や業務員たちが警戒態勢でこちらへ近づいてくる。


「いつも娘がお世話になっております。本日は娘の頑張りを見るためにやってきました」


 月若家主の綺麗なお辞儀に周りも悠斗もたじろぐしかなかった。


 ◇


「来るって聞いてないんだけど二人とも!」

「言ってないもの。サプライズー!」


 教室まで来ると旦那様と奥様は朱莉が座っていたパイプ椅子に陣取る形で座った。その正面には笑顔の朱莉と頬杖をつき歯ぎしりをする華凛が座る。せっかくのこの日のための、メイド服衣装だというのにそれが台無しと言っていいほどに不機嫌だ。


「おじさん、おばさん。うちに悠斗ちょーだーいー」

「ダメよ。悠斗は月若(うち)の秘密兵器なんだから、そう簡単に水船にはあげられないの」

「ケチぃー」


 カヌレを食べながらの軽々しい会話も周りからしたら別世界。他のお客さんやクラスメイト、それに外にいる大人たちの目線はすべてこのテーブルに集まる。一挙手一投足がすべて注目されている。


「朱莉様、待ち合わせていたというのは旦那様のことでしたか。それなら先に連絡してくださっても良かったのでは?」

「内緒にしていわれたから。あと、もう一人いるから。多分もうすぐ来るんとちゃう?」


 先ほどまでの緊張感とはよそに、廊下からは元気な挨拶をする声が聞こえてくる。次から起こる出来事に何事かと注目が集まる中それは突然やってきた。


「理事長。こちらが、執事メイド――」


 生徒会と書かれた腕章を付けた変装した大和が扉にてフリーズする。その後ろには大和の父親であり日ノ内の当主である日ノ内龍之介が立っているのが見える。


「おぉー。龍之介おじさん来た来た」


 朱莉はあっけらかんと手招きをするが、他の面々の反応は劇的だった。


 ただでさえ月若家のトップ二人がヘリで乗り込んできて大騒ぎだというのに、今度は日ノ内家の当主、すなわちこの学園の理事長である日ノ内龍之介までが現れた。このメンバーが公の場で顔を合わせるのは初めてのことだ。


「どういうことだ? 何で月若隼人と月若双葉がここにいるんだ?」

「……娘が楽しんでいるところを見たいと思ってな。龍之介は仕事か?」

「ああそうだ。どっかのおてんば娘たちが転入してきて学校がてんやわんやらしいからな」


 本来は仲のいいはずなのに、世間の印象に答えるように張りつめた空気を演出しているのは悠斗も分かってはいる。だが、

 重苦しい空気に悠斗の背中にも嫌な汗が流れてくる。


「てか、仲直りしいひんの? 月若と日ノ内。うちも周りもあんたらの扱いめんどいんだけど」

「まぁ確かにな。どうだ、龍之介うちらの代でこのいざこざ終わらせるか?」


 隼人のあまりにも軽々しい提案に張り詰めていた教室の空気が、一瞬で別の意味の緊迫感へと変貌した。

 これは日本の経済界全体をも揺るがす重大な問題だ。悠斗はこの状況に眩暈を覚えそうになった。


「月若と組む気はない。――と言いたいが、今のご時世上それも難しいな」

「だろー? 『金持ち喧嘩せず』なんて言葉があるんだから今までのことは過去に流そうぜぇー」


 マカロン片手に陽気なトーンで提案する隼人とは対照的に龍之介の顔は曇ったままだ。


「それを決めるのは俺たちではない、世論だ。そろそろ出る」

「へいへいー」

「ばいばいー」


 そう言って世間を騒がす大嵐は過ぎ去っていった。張りつめた空気は簡単に戻るわけなく、廊下で「スクープだ!」と騒ぐ大人たちの声だけが校舎内に響いた。


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