57 執事と変装
瑠衣の家に泊まってから時間は経ち、華凛の機嫌も直っていった。
大和に無理言って、週に一回の密会と毎日のビデオ通話で納得してもらいメンタルも回復し始めた。
文化祭の準備も進んでいきあと一週間で、文化祭の日だ。
クラス委員長を中心に、本格的なメイド服に負けないよう装飾準備を行っている。悠斗としても成功に向け、月若の力をフルに使いながらサポートをしている。
「悠斗ー。なんか生徒会の人がクラスの出し物のことで話がしたいって」
クラスメイトの呼び声に振り返ると、扉の前には変装をしている大和が立っている。悠斗としては見知った姿なのだが、この場合は初対面の反応をしないといけない。
「君が悠斗くんだよね? このクラスの出し物については君に聞くのが手っ取り早いって聞いたんだけど?」
「はい。えーっと……瑠衣さんと同じ生徒会の人?」
しらじらしく悠斗が問いただすと、大和は少し微笑んで答えた。
「僕は大和。備品管理について生徒会として伝えたいことがあるから、ついてきてほしくて」
そういう大和が歩き出すので、クラスメイトに簡単に声をかけ大和の後ろを歩きだした。
目的地はもちろん旧校舎のいつもの美術室。
来週の文化祭での行動に向けての話し合いのためだろう。部屋の扉を開けるとそこには三人の女性が座っていた。
「え?」
ただいつもと違うのは座っていた三人の顔はどれも華凛なだったこと。
制服の着こなし、後ろ姿、表情どれをとっても同じで、それはまるで月若華凛のとっぺるゲンガーのようだ。
「誰が誰か当ててみてよ、悠斗くん」
一瞬見ただけでは誰が誰かわからない。
それは他の一般人に限った話だ。
「左から朱莉様、瑠衣さん、お嬢様ですね」
「早!? 何で分かんのよ簡単に」
「それは月若華凛に仕える執事ですから」
三つの同じ顔に驚いた顔をされるが、悠斗は胸を張ってそれに答えた。よくできているメイクで変装としてはばっちりだと思うが、悠斗にはそんな見せかけのものは通用しない。
「世界で一番有名な特殊メイクの専門家に頼んだんだけどダメだったかー」
「一般人には見わけがつかないと思いますよ?」
「じゃあ悠斗と文化祭回っても、問題ないちゅうことやんなぁ?」
華凛の見た目の関西弁の朱莉が嬉しそうに悠斗の手を握ってくる。普段の華凛見た目からは想像できない、関西弁と積極性に理解していたつもりでも、脳みそがフリーズしてしまう。
「その見た目で悠斗に近づくな。朱莉離れて!」
「僕も複雑だから辞めてほしいな」
華凛の見た目で華凛に停められるという何ともシュールな光景に悠斗としても苦笑いをするしかない。
「悠斗くんなんでわかったの? 私たちばれないと思ったのだけど?」
朱莉が席につくと瑠衣がそんな質問をしてくる。
「まずは身長ですね。立ってみてください」
三人が立ち上がると悠斗は足元の靴を指差した。
「お嬢様のものだけ、他のお二人の身長に合わせるように少し底が厚いものを使っています。ここでお嬢様は省かれます」
変装というとシークレットブーツや厚底の靴を用いて高さを合わせようとする。
人体の構造上、一番身長の低い華凛に合わせるのは不可能なため、一番身長の高い朱莉に合わせようとしたのだろう。女性基準で長身の朱莉と瑠衣に合わせるのは華凛は大きく盛る必要がある。
「次に癖ですね、座ってください」
癖というものは自然とでる。意識して直すことはそう簡単にできないものだ。
「例えば、朱莉様は普段から足を開きがちです。そして椅子やソファには深くお座りになりますので無理していると分かりました。そして消去法で瑠衣さんが分かるということですね」
「おぉーすごいね流石月若の執事」
悠斗が自信満々に伝えると隣からは拍手が飛んでくるが目の前にいる女性陣は苦い顔をしている。そして二つの小さなクッションが左右から悠斗の顔面めがけ飛んでくる。
「私の執事なら、『長年仕えた主など一瞬で判断できます』くらい言いなさいよ! 何靴で判断してんのよ!」
「うちのことも、姿勢で判断せんなや! もっとちゃんとしたとこではんだんしてほしかったわ」
飛んできたクッションを受け止め、顔を上げると声を荒げる主達の顔があった。悠斗としては気づいた感想を言ったまでなのにこうも不機嫌になられるのはどうも納得はいかなかった。
「ふーん……私は消去法なんだ?」
いかにも怒っていますという雰囲気にとは対照的にし、真ん中に座る華凛の顔をした少女は冷ややかな表情だった。声を上げて怒る普段と顔は同じなのに怒り方ひとつで怖さはこんなにも変わるのか。
「そのたまたま、形的にそうなったと言いますか……」
「確かに悠斗くんとの出会いはお二人に比べ短いかもだけど、二人でデート何回もしているはずだけど?」
「まぁ……そうですね」
相手は瑠衣だというのに、それは本人より怖く圧があるもので思わず敬語になってしまう。
「てか、富士見さ。なんで悠斗くんのこと敬語外すことしたの?」
「文化祭の変装もあるので慣れとこうと。それと私に対してクラスでは呼び捨てでここでは敬語とするのは彼にとっても大変かと思いまして」
「へぇー」
意味ありげに笑う大和がこちらをニヤニヤと見てくるが、悠斗はそれにこたえることができなかった。
「悠斗くん」
「はい」
「とりあえず正座しよ」
「……承知いたしました」
瑠衣の言葉に従うように悠斗は膝を曲げその場に正座をした。今はスーツが汚れるなど気にしていられる場合ではなかった。
三人の華凛に怒られるという初めての体験はその日の夢にまで出てきた。
作品を見つけていただきありがとうございます。
18日(土)の更新はお休みさせていただき、19(日)から再度更新させていただきます。
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