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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
3章 二学期編

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55 執事と主の仲直り

 出されたメニューは、煮込みハンバーグを中心とした献立だった。

 箸で口に運ぶたび彼女からの視線で、食卓にはどこか張り詰めた緊張感が漂っていた。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせ食器をシンクにもっていくと、スポンジに洗剤をかけていく。


「いいですよ。それもこちらでやりますから」

「座りっぱなしは暇なんで。私もできることがあるならやっとかないと落ち着かなくて」


 タオルを持った瑠衣が悠斗の隣に立つと、洗った悠斗の食器を受け取りタオルで拭いていく。空間内には食器の音とシンクから流れる水の音が響く。


「悠斗くんは今のお仕事に大変だなとは思ったりしませんか?」

「思いますよ」


 いくら悠斗でも大変だと思うことはある。五大財閥である月若家の執事と言う称号は世間が思っているより重いものだ。過去には神経を切らせない集中状態の維持に慣れなくよく体を壊したものだ。


「意外ですね。なんでもそつなくこなす悠斗くんが」

「ここだけの話、特定条件下で体が熱くなったりするんですよね」


 シンクの蛇口を閉めるとそれまで響いていた水の音がピタリと止まり、室内にしんと静寂が戻ってきた。水を切ったフライパンを差し出そうと横を向くと、瑠衣の手元が完全に止まっていた。


「それは大丈夫ですか? 業務に支障が出るような」

「他の方にも報告をしていて、今度月若家で健康診断を受けるつもりです」

「健康診断……。そう、ですか。それは絶対に行ってくださいね。悠斗くんが倒れたりしたら、大和様も華凛様も朱莉様も心配しますから」


 瑠衣はフライパンを丁寧に拭き終えるとそれを棚にしまうのも忘れ、神妙な面持ちで悠斗を見上げてきた。そんな顔をされるのであれば言わなければよかった、とも思ったがそれ以上に目の前の彼女を心配させてしまった罪悪感が湧いてくる。


 そもそも、体に異変を感じる時は必ず瑠衣が近くにいる、などと言えるはずもなかった。




 シャワーを借り風呂場から上がると、リビングには布団が敷かれていた。タオルで濡れた髪の毛を拭きながら悠斗はその場で足を止めた。


「布団でよろしいですか? もし嫌であればベッドでも」

「いえ、問題ないです。私はここで充分です」


 悠斗がそう言うと安心したように頷いて、お風呂場に向かっていった。

 一人取り残された悠斗はやることもなく、スマホを開くとものすごい数の通知と着信履歴が届いていた。その相手は旦那様や奥様、他の使用人たちからだ。急いで折り返し電話を掛けるとワンコールで返答が返ってくる。


「お疲れ様です。どうされましたか」

『悠斗ごめん』


 電話越しから聞こえてくるのはいつも元気な声とかけ離れた、華凛の声だった。


「いえ。落ち着きましたか?」

『うん。パパとママに怒られた』


 電話越しに聞こえる華凛の声は、いつもの高飛車な調子とは打って変わって、酷くしょぼくれていた。隣で「反省しなさい、華凛」という奥様の小さなお説教の声が微かに漏れ聞こえてくる。


「……お嬢様のお気持ちもわかりますよ。お二人の距離が縮まるとこのような問題も生まれると分かってくださいね」

『はい』


 離れ離れで世間の目がある二人がやっと密会できる場所ができた。同じ校舎という空間にいるはずなのに会えないというのが彼女にストレスを与えたのだろう。


 月若家のご令嬢で、基本的な問題はお金でもなんでも解決できたはずの彼女らしいといえばらしい。ただこれで彼女なりに成長してくれればいい。


『どこにいるの今?』


 華凛の機嫌が直ったならば確かにこの家に居座る理由もない。ただしこの時間から帰りますというのも申し訳ない。


『あんた誰かと一緒にいるの?』


 悠斗が悩みながら返答に困っていると華凛から鋭い質問が飛んでくる。


「……? 何故ですか」

『女の勘。図星でしょ』

「そうですか。今日は瑠衣さんの家にお邪魔しております」

『は、はぁぁぁっ!?』


 耳がキーンとするほどの絶叫が受話器の向こうから響き渡り、悠斗は思わずスマホを耳から少し遠ざけた。


「文化祭でお嬢様たちのサポートのために会議を行いまして、それで成り行きでですね」

『いやいやいやいや!』


 完全にいつもの調子に戻り、電話の向こうでじたばたと地団駄を踏んでいる華凛の姿が目に浮かぶようだ。先ほどまでのしょぼくれた様子はどこへやら悠斗は小さく息を吐いた。


『……襲うとかしないでよ? 大変なことになるから』

「華凛様、ご安心ください悠斗くんですよ?」


 いつの間にか悠斗の後ろにお風呂を上がった瑠衣が立っていた。バスタオルで濡れた髪を拭きながら、少し笑みを浮かべてスマホを見つめている。


『瑠衣! なんかあったらすぐに大和に連絡しなさい。そしたら国外追放するから』

「それは起きないと思いますよ。華凛様私たちはすぐに寝ますの。では」

『あ! ちょ……』


 瑠衣はそれ以上答えることなく悠斗のスマホの画面に細い指先を伸ばし、通話終了のアイコンをタッチした。

明日から1日1本投稿に変更します。よろしくお願いいたします。

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