53 執事とメイドの文化祭作戦会議
出店物の服やメニューが決まりクラスの出店がトントン拍子に進んでいく。
順調であると言うことは、忙しいと言うことでもある。その忙しさが思わぬ問題をはらんでいるとは悠斗も思ってもいなかった。
「大和に会いたい!!!!」
週末の昼下がり。主の私室に四人の使用人が呼び出されていた。もちろん悠斗もそのうちの一人だ。
「お嬢様仕方がありません。大和様は生徒会の業務に加え、ご自身のクラスの催し物の準備もございます」
「それでも会いたいのっ!」
悠斗たちのクラスが忙しいのと同様に、大和のクラスも準備に追われているのは変わりない。たった一週間、放課後に顔を合わせられなかっただけでこの有り様だ。
「お嬢様、どうか落ち着いてください。学校で日常的にお会いできている現状こそが、本来であればイレギュラー中のイレギュラーなのです。我々やあちらの使用人の力で、かなりの無理を強いて成立しているのですから」
「分かってる! 分かってるけど……っ!」
「今はご辛抱を」
「うるさい! 今は悠斗の顔なんて見たくない! みんな出て行って!」
傍らに控えていたベテランの使用人が、同情と「ここは一度引いたほうがいい」という合図を視線で送ってくる。悠斗たち四人は静かに一礼をして、お嬢様の私室を後にした。
扉を閉める横並びに歩いていると、やっと緊張から解き放たれたからかぽつぽつと口を開いていく。
「あそこまでお嬢様が感情を剥き出しにされるのは珍しいな」
「そうですね。普段の我儘は、まだ可愛いものですから」
普段の華凛の我儘や無茶振りは今に始まったことではない。あんなに子供のように駄々をこね、「顔を見たくない」とまで言われたのは初めてだった。彼女なりに相当溜まっていたのだろう。
「悠斗くんが普段一緒にいるから余計に腹を立ててるのかも」
「まぁしょうがないですね。そういうこともあります」
正直理不尽ではあると思うが仕方ないことだ。それよりもあの不機嫌な状態が続き学校でも、へそを曲げられる方が大変困る。
「どう対応取りましょうか?」
「そうだなぁ……。悠斗、すまんが今日は外泊をしてくれ。本日の残りの業務もパスでいい。今のお嬢様と悠斗が遭遇した場合、ひどいことになりかねない」
「分かりました。本日の業務はここまでにさせていただきます」
「お前は何も悪くないのにすまんな」
「今のお嬢様と悠斗が遭遇した場合、ひどいことになりかねない」と言うのは悠斗としても納得できるものだ。悠斗は頭を下げ、静かに自室に戻り外泊の準備を進めた。
私服に着替え、キャリーケースを転がしながら月若家の巨大な門をくぐる。普段、送迎車で走るこの道を歩くのは久しぶりだ。悠斗が空いた手でプライベートスマホをいじりホテルの予約をしようとしていると、その画面は着信画面に邪魔をされる。
「お世話になっております。瑠衣――」
『ごめんね。瑠衣じゃなくて僕だよ』
電話相手は瑠衣ではなく、その主の大和。スマホ越しからの騒がしい音から一緒にいるのだろう。
「はい。どうされましたか?」
『華凛と喧嘩した? 電話する予定だったのにでないからさ』
「喧嘩ではないですね。八つ当たりをされたという感じですね」
『……ごめんね。なんとなく事情がわかったよ』
大和の声はいつもより優しく申し訳なさそうなものだ。
「いえ謝る必要はございませんよ。世の中にはどうにもならないこともございますから」
『そう言ってもらえると助かるけどさ……。で、今どこにいるの?』
「ちょうど屋敷の門を出たところです。これから何をしようかなと」
『なら瑠衣と文化祭のことで会議してくれない?』
確かに文化祭当日のことについて月若・日ノ内両家ともどうするべきなのか検討をしていた。二人っきりで催しを楽しんでほしい気持ちには応えたい。
「なるほど。確かにプランを練ったほうがよろしいですね」
『じゃあお願いねー場所は……うん……え、瑠衣の家でいいの?』
「……」
「おっけー。じゃあ悠斗くん瑠衣の家にこの後すぐにだって。よろしくー」
「そのように」
電話が切れたのを確認しポケットにスマホをしまう。
確かに当日の護衛計画や、主たちに二人きりの時間を作るための連携プランは、一刻も早く詰める必要がある。だが、まさかその会議の場所が「瑠衣の家」になるとは予想だにしていなかった。
夏休み前に訪れたマンションのインターホンを鳴らすと聞き覚えがある声が聞こえてくる。
「お待ちしておりました。キャリーケースは玄関にお願いします」
「突然の訪問失礼いたします」
靴を脱ぎ玄関をくぐるとそこは以前来た時と変わらない景色だった。
唯一変わったところと言えば、悠斗がUFOキャッチャーで取ったぬいぐるみがなくなっていることくらいだ。
「どうぞ、お座りください」
瑠衣に勧められるまま、リビングに敷かれた座布団に腰を下ろす。
彼女は寝室の方へと向かい何かを準備し始めた。
「文化祭どうしますかね」
「二人で歩くことは絶対無理です。現実的な物だと変装でしょう」
「変装ですか。まぁ私か瑠衣さんに変装してもらうのが一番ですかね」
「その他にも懸念事項はありますので会議しましょう」
部屋から出てきた彼女の腕にはノートパソコンと、なくなっていたぬいぐるみが抱きかかえられている。
「ん? なんですか」
「い、いやぁ……。そのぬいぐるみって」
悠斗が指さした場所に瑠衣が視線を落とすと「あ……っ」という小さな声と同時に顔が真っ赤になっていく。
「ち、違うんです! 毎日抱きかかえてるわけでなくて……っ! そ、その……」
「大丈夫ですよ。可愛いですからぬいぐるみも瑠衣さんも」
「……っ!! また悠斗くんは!!!」
瑠衣のこんな大きな声は夏休み以来な気がする。
学校では決して見せることのない姿に、悠斗は小さく笑ってしまった。




