48 執事とメイドのパジャマパーティー(2)
お目当てのパーティ場所はいつもの華凛の私室ではなかった。
邸宅にある客室の一つで一番大きな部屋。入口にはメイドが二人立っている。軽く会釈をして扉を三回ノックし、ドアノブに手をかける。
「お待たせいたしました、お嬢様」
「いらっしゃい」
室内には、いつの間にか運び込まれた三つのベッドと大きなスクリーン、そしてテーブルの上に山積みにされた大量のお菓子の袋。悠斗が把握していた客室の内装とは大きく様変わりしており、このためだけに急遽セッティングされた空間なのだと一目で分かる。
「ダーリンうちの隣おいでぇや」
朱莉が座っているベッドの隣をパンパンと叩いている。ここに座れと言うことなのだろうが座れるわけもなく、近くにあったソファに腰を掛ける。
「ケチー。プライベートやんか」
「お嬢様や大和様ならいざ知らず、一介の使用人が朱莉様の隣に座るなど恐れ多いことです」
悠斗がすまし顔で言い放つと、朱莉は「またそうやって建前ばっかり言うー!」と不満げにベッドの上でごろんと寝返りを打った。
「お嬢様。このパジャマパーティーなるものは、一体何をするものなのですか?」
「簡単に言うと『夜遅くまでお菓子とか食べながら映画を見る』的なやつよ。まぁ、楽しければ何でもいいの」
悠斗としてはパーティーというからには形式ばったカチッとしたものを想定していたが、どうやらそれは完全な見当違いだったらしい。改めてベッドに座る三人を見渡すと先ほど部屋に押し掛けてきた時とは違う、可愛らしい格好に変わっていた。
それぞれが、動物の耳がついたもこもこのフード付きパジャマを身にまとっている。
華凛はクマ、朱莉はオオカミ、瑠衣はウサギ。三者三様それぞれのイメージに合った洋服だ。
「なるほど。……ところで、私はどうしてここに呼ばれたのでしょうか」
「ゲームをするためよ。三人だけじゃちょっと物足りないからね」
華凛のその言葉で、悠斗は自分がここに引っ張り出された意味をようやく理解した。
「そうと決まれば早速いくでー! 王様ゲーム! ほらダーリンも割り箸引いて!」
差し出された割り箸の束を前に、悠斗は眉の端をピクリと動かした。王様ゲームについてはよくわかっていないが、何やら引かないといけない圧が出ている。
「いいから引きなさいよ。それとも、私の命令が聞けないわけ?」
「……いえ。かしこまりました」
華凛に促され、悠斗は渋々一本の割り箸を抜き取った。
それに続いて華凛、瑠衣、朱莉もそれぞれ箸を引き、一斉に手元を確認する。
「せーの、王様だーれだ!」
朱莉の元気な掛け声とともに、全員が割り箸の先端を突き出した。
赤く塗られた「王」の文字が書かれていたのは――。
「あ、ウチや! よっしゃ、一発目から王様ゲット!」
朱莉がガッツポーズを決め、ニヤニヤと悪巧みをするような笑みを浮かべる。
その視線が、自然とソファに座る悠斗へと向けられた。不穏な予感しかしない。
「えーっと、二番がこの部屋にいる時はみんなにため口ね」
「ニブイチじゃない。私だったらどうしてたのよ」
華凛が呆れたように自分の箸を見せると四番。
「私は……一番、です」
瑠衣がほっとしたように胸をなでおろした。その声は実質悠斗にことを知らせる死刑宣告でもある。
「なら私ですね。これは……」
「悠斗、これは王の命令を聞くっていうゲームだから。あんたはこの部屋にいる時ため口ね」
「いえ流石にそれは……」
「ええー? ダーリン、王様の命令は絶対やで? 拒否権なし!」
朱莉がベッドの上でオオカミの尻尾をぶんぶんと振りながら、勝ち誇ったように笑う。
「そうです、悠斗くん。ゲームのルールですから……」
いつもは使用人同士の友人として助け船を出してくれる彼女も、今回は味方をしてくれない。
「ですが、お嬢様に対してそのような不敬を働くわけには……」
「いいからやりなさいよ」
華凛に視線を送ったが、彼女はベッドに深く腰掛けたまま不敵な笑みを浮かべている。
「この部屋にいる間だけは許可してあげるわ。さあ、何か言ってみなさいよ」
外堀は完全に埋められた。
悠斗は深くため息をつき、ソファの背もたれに体を預け天井を見上げた。
「……この部屋でだけだからね。外に出たら敬語だから」
「いい!!! うちのこと名前呼んで!!」
「朱莉様」
「様いらない!」
「朱莉。これでいい?」
その瞬間、朱莉の顔面が爆発したかのように真っ赤に染まりベッドの上にバタッと倒れ込んだ。オオカミの尻尾がベッドのシーツを激しく叩いている。
「あ、アカン……! ニヤニヤしてまう」
「大げさね。まぁ悠斗が皆の前で敬語外すとこなんて……るいるいとの遊園地ぶり?」
「ちょっと待って! 遊園地って何!? うちらの知らんところでデートしとったん!?」
ベッドに突っ伏していた朱莉が、バッと勢いよく飛び起きた。その視線は今まで静かだった瑠衣に向いている。
「ち、違います朱莉様! あれはデートじゃなくて……その、お嬢様たちのデートの下見のためです」
「一緒やんそんなん! なぁダーリン瑠衣とデートしたん!?」
これ以上追及されると厄介なことになりそうだと察し、悠斗は立ち上がって全員の割り箸を回収する。
「ほらゲームの続きしよ? 引いて引いて」
「ちょっと、強引に話逸らさんといてよダーリン!」
朱莉が不満げに頬を膨らませながらも、突き出された割り箸の束から一本を引く。
それに続いて華凛と、真っ赤な顔の瑠衣も順番に引いていく。
「王様、私――!」
全員の手元が出揃う号令よりも早く、華凛がガタッと勢いよく立ち上がった。腰に手を当てて勝ち誇ったように命令を告げる。
「王様以外の全員、異性の好みのタイプを言いなさい!」




