47 執事とメイドのパジャマパーティー(1)
悠斗に長期休みはない。
使用人として日夜業務に奔走し、平日の日中は学校。
過酷な労働環境である分、それ相応の対価と貴重な経験をさせてもらってはいるがやはりクタクタに疲れてしまう。
だからこそ任務から解放されたたまの休日は貴重だ。
ベッドに寝転び瑠衣からおすすめされた漫画でも読もうとした時、ノックの音がそれを邪魔した。
「悠斗、少しいいか。休みの時に申し訳ない」
聞き覚えのある声に答えるように扉を開ける。そこにいたのはハンカチを額に当てる先輩執事の顔があった。
「どうされましたか? 何か緊急事態が」
「お嬢様がご学友をこのお屋敷に連れてくるらしくて。なんでも『パジャマパーティーするから準備してと』。なにか悠斗は聞いていたりするか?」
先輩の言葉に思わず悠斗も目頭を押さえてしまった。
事前にそんな話を一言も聞いていないということは、完全にお嬢様の思い付きによる行動。
「聞いていませんね。人数は?」
「二人だ。今、ハイヤーが待ち合わせ場所に向かっている。変装もしてくださっているそうだ」
「変装ですか……。ずいぶんと物分かりの言い方がですね」
「あと、三分ほどで到着するそうだ。悠斗に仕事は回さないようにするがなにかあった時は……」
「スマホに連絡してください。すぐに対応します」
変装をしてわざわざ来ると言うことで、悠斗の中で一人は完全に見当がついていた。彼女が一緒なのであれば大きな問題にはならないだろう。悠斗は静かに扉を閉め、再びベッドへと戻った。
◇
少し目をつぶって仮眠をしていると、扉からの激しいノックの音で目を覚ます。
眠る前のノックの音とは全く違う激しくて遠慮のないもの。
「はい、お嬢様ですよねどうされましたか」
ベッドから起き上がり寝癖がついたままの状態でドアを開けると、そこには華凛が立っていた。
ただそこにいたのは彼女だけではなかった。
「悠斗くん、お疲れ様です」
「ダーリン! 髪おろしとるのバリカッコいい!」
「二人今日泊まる方よろしくー」
そこには華凛だけでなく、瑠衣と朱莉がいた。悠斗としても瑠衣がいるのは予想がついていたが、朱莉がいるとも思っていなかった。いつもより屋敷中の物音が騒がしく感じたのはこれが原因なのだろう。
「お話は聞いておりましたがまさかお二人とは」
「女子会よ。このメンバーでは遊んでないからね」
「なるほど。それならお楽しみください」
「うん!……それにしても相変わらず殺風景な部屋ね」
そう言うと華凛はズカズカと室内に入ってくる。
悠斗は自分に無頓着なのもあり、家具のこだわりなどない。五畳の部屋の中にあるのはベッドに収納、小さな机だけだ。
「なんか良い匂いする。なんこれ?」
「ルームフレグランスですね。商品のテスターとして先週から使用しています」
いつの間にか朱莉と瑠衣も遅れて部屋に入ってくる。
「服も何もないし。また今度買いに行きましょう」
許可もなく収納棚を開けハンガーにかけた服を見繕うのを、華凛の肩越しに朱莉と瑠衣が興味津々に見つめている。悠斗もツッコむことを諦め華凛の背中に声をかける。
「お嬢様、パジャマパーティーなるものをされるのでは」
「そうよ。だからあんたも準備しなさい」
「……女子会なのでは?」
段々と不穏な話になってきた。
女子会と聞いていたので、巻き込まれることはないだろう安堵していたがそれは見当違いだった。
「あんたは特別よ」
「そう。早く来てぇーやダーリン!」
「……せっかくですので是非」
さすがの悠斗も三者三様の視線に顔を引きつらせた。いつもは冷静な瑠衣までも頬を赤くしながらコクコクと頷いている。
「しかし……女性だけの秘密のお話もありますでしょうし」
「それは寝る前にするわよ」
「……私の愚痴などもありますでしょうし」
「それもその時する! いいから、あんたはさっさと準備するの!」
華凛にぐいぐいと詰め寄られ悠斗はついに観念したように両手を挙げた。これ以上何を言っても暖簾に腕押しだ。
「……分かりました。着替えますので一度室外へでていただけますか」
「スーツはダメよ? 髪も上げるのもダメ。オフの服装でいいから」
「承知いたしました」
「悠斗五分ね。部屋で待ってるから」
華凛が瑠衣の背中を押し扉の方まで向かう。残されたもう一人はなぜか部屋から出ようとしない。悠斗がジト目でそちらを見るが、頭の後ろで手を組みケラケラと笑っている。
「……朱莉様。出て行ってもらってよろしいですか? 着替えられないのですが」
「んー? うちは気にしないでええよー?」
「私が気にします。お願いします」
「ぶぅー」
朱莉がわざとらしく頬を膨らませて部屋を出ていくとようやく自室に静寂が戻った。
悠斗は大きく肩を落とし、今日一番の深い溜め息を吐き出した。
適当な理由をつけ上手いこと抜け出そうと、適当なシンプルなスウェットを手に取る。パジャマパーティというものがよくわかっていない悠斗は「これでいいのか?」と思いながらも服を脱いだ。
鏡に視線を移すとそこには寝癖で前髪が下りたままの、いつもより少し幼く見える自分が映っている。それと同時にドアの隙間からこちらを覗く三人の女性の顔も見える。
「……男の裸なんて見ても何もいいものではありませんよ、三人とも」
悠斗が服を脱ぎかけた体勢のまま視線をドアへと向ける。細い隙間から三人の影が跳ねる。
「ちょ、朱莉押さないでよ!」
「うわっ、ダーリン筋肉ヤバッ! ねぇ瑠衣ちゃんみてぇや!」
「や、やめてください! 私は見てませんから!」
バタンッ! と勢いよく扉が完全に閉められ、走り去っていく足音が聞こえてくる。
悠斗は苦笑しながら手に取ったシンプルなグレーのスウェットに袖を通した。




