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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
3章 二学期編

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45 執事とメイドの文化祭決め

 高校生の二学期におけるビッグイベントといえば、やはり文化祭だろう。

 十一月上旬の本番に向けて、そろそろ本格的な準備が始まる時期だ。

 今も教室では、出し物を決めるための学級会が開かれていた。


「演劇。焼きそば。フランクフルト。――他にある人?」


 黒板の前で、クラス委員長が出揃ったアイデアを書き出していく。

 悠斗が以前通っていた学校では、夏休み前にはすでに全ての出し物が決まっていた。それは、イベント事が大好きな月若家が経営する学校だったからだろう。


 それに比べると、この東京勇阿学園の文化祭がそこまで規模が大きくないのも、経営母体の家柄が影響しているのだろう。


「演劇やるなら、私は悪役令嬢でお願い」


 華凛の声にクラスからは笑いの声が上がる。あの月若財閥のご令嬢を悪役令嬢にしたら世間からも反感を買いそうなものだ。


 案だしという名のたわいのないやり取りの中クラスの喧騒を割くように、勢いよく華凛の手が上がる。


「そうだ! メイドカフェとかは? ちょうど、る――あっ」


 おおかた「るいるいもいるからちょうどいいじゃない」とでも言おうとしたのだろう。

 こちらを向きながらまずったと顔を歪ませている。


「メイドカフェかー。まぁ定番かもね」


 委員長が質問してくれたおかげで危うく変な疑りをかけられるようなことは、なさそうだ。悠斗も少し嫌な汗をかいたが気を取り直して前を向き直す。


「えーそれならさ、男子は執事で女子はメイドにしないー? 星原くんいるんだし」

「お、それ名案!」

「めちゃくちゃ人気でそう」


 その一声に教室内がドッと沸き立つ。それと同時に一気に視線がこちらへと向いてくる。


「星原はどう思う? そのぉー本職の執事としてさ」

「……そうですね。うーん」


 正直に言えば出ている案の中で一番現実的だとは思う。ただでさえ月若の執事がいるというのに、隣には日ノ内のメイドもいる。そんなクラスは早々ない気もする。


「いいじゃない。『本物の執事を体験することができます』で売りましょ?」

「お嬢様それはやりすぎです。一応ここは日ノ内の経営です。ただでさえ日ノ内とうちは犬猿の仲なのであまり大事にはしたくはないですね」


 悠斗のその言葉でクラス全体が息を呑む気配さえ感じられた。ただでさえ「月若華凛が日ノ内経営の高校に転入した」と言うことは世間を賑わせ、パパラッチを呼び込む大ごとにもなった。


 そして月若家と水船家の転校によって日経平均が大暴落し、各財閥のトップたちが頭を抱えたばかりなのだ。月若の人間としてはこれ以上騒ぎを起こし、注目を集めたくはない。


「それは正論じゃない? あんた自身はどうなのよ、やってみたくない?」


 そんな悠斗をよそに華凛から投げかけられたのは真意を探るような言葉だった。


 今までは「家の都合」ということで中学も高校一年生も文化祭には参加できなかった。


 だが、今は月若の執事として周りに認知され近くに護衛対象もいる。それならば悠斗にだって楽しむ時間はある。


 それに、先週「自分に矢印を向ける」と決めたばかりでもある。

 それならば――。


「……正直に申しますと魅力的なご提案だとは思います。私とお嬢様がいますのでクオリティの高いものは提供できるでしょう。……ただし、私を大々的に広告塔にするのだけはやめていただきたいですが」

「よーし問題なし! 黒板に書いていいわよ」


 いつの間にかクラスの空気を華凛が支配しそれにこくり頷くように、委員長が黒板に文字を書き始める。クラスの空気感を見る限りこの意見への賛同者も多そうでこれに決まりそうな気もする。


「悠斗くん、大変なことになりそうですね」


 誰にも聞こえないであろう、小さな声で隣の席の瑠衣が声をかけてくる。


「申し訳ございません。巻き込む形になってしまいまして」

「……いえ、慣れました。あの方らしいです」


 ちらっと横目で華凛の方を見渡すと、周りの男女に囲まれながら、早くも「執事の仕事って?」「メイド服ってどうする?」と中心になって盛り上がっている様子だ。


「でも意外ですね。てっきり断固拒否の姿勢をとるかと」

「確かにそうですね。前までの自分なら、お断りしていたかもしれません」


 出し物の提案が出た瞬間、クラスメイトたちが自分に向けた期待に満ちた視線。自分や華凛の素性を知りながらも、特別扱いせず受け入れてくれている彼らの言いたいことはすぐに伝わってきた。


『誰かに喜んでほしいとか、頑張りたいっていうのは、好きじゃないとできない』


 あの遊園地で瑠衣が教えてくれたのはこういうことだったのだろう。

 悠斗は月若の執事という立場を離れ、ただの「星原悠斗」としてこのクラスの仲間たちを喜ばせたいと心から思っていた。


「でも――()はこのクラスが好きです。好きな人たちの喜ぶ顔が見てみたいんですよ」

「私もこのクラスが好きです、温かいですよね」

「はい。人を好きになるというのは、こういう身近なものからも分かるのですね」


 案の定クラスでの出し物は執事・メイドカフェに出し物は決まった。

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