40 執事とメイドの遊園地デート(1)
「悠斗、来週デートしたいから下見。今回は遊園地行きたい」
華凛の部屋でのいつもの無茶振り。
ここ最近のこれにはもう慣れて出てくる言葉にもおおよそ見当のついていた。
「承知いたしました。貸し切り――」
「普通の高校生らしくて! お忍びで! 勉強したはずでしょ!」
一学期にお嬢様に渡された漫画は、旅行中に無理やり読破させられた。最後の方は流し読みしていたので全くと言っていいほど、話は入っていないが。
「わかりました。瑠衣さんと行ってきますよ」
「えっ。るいるいと行ってくれるの? ならよろしくー」
瑠衣と当然行くものと思っていたが、どうやらそのような想定ではなかったようだ。彼女との行動が当たり前になり過ぎていた弊害が思わぬところで出てしまった。
『あ、もしもしーるいるい? 悠斗から話があるってー』
いつまにか華凛はスマホに声をかけていて、それをこちらに投げてくる。
「お世話になっております。瑠衣さん、今お時間大丈夫でしょうか?」
『は、はい。どうされましたか』
「今週末デートに行きませんか? 二人で」
『……下見ということですね。承知いたしました、では失礼します』
相変わらず理解の早い方で助かる。悠斗が通話の切れたスマホを華凛に渡そうとすると、華凛はタブレットをせわしなく動かしていた。
「当日はるいるいの言う通り行動しなさい。あの子私の教育で、恋愛偏差値高くなってるから。あんたと違ってちゃんとおすすめしたマンガ見てくれるし」
「……すみません」
この前ラブレターを見たときに興味ありげな顔をしていたのも、それが少なからず影響しているのだろう。それならば悠斗が何か考えるより彼女についていく方がずっといい気がする。
「まぁいいわ、好みがあるしあんたにはあわなかったんでしょ。それよりも、これ――」
華凛が見せてきたタブレットには何か漫画のイラストと、東京にある遊園地の写真が並べられたWEBサイト。コラボカフェやコラボグッズなど様々なものが展開されている。
「場所はここ。今、私と大和が瑠衣ハマっている漫画のコラボしてるから」
「なるほど瑠衣さんも。わかりましたでは準備をいたします」
華凛からタブレットを受け取り、悠斗は画面に表示されたキャラクターたちの相関図に目を通しながら部屋を後にした。
◇
遊園地に来るのは人生で初めてだ。
だから服装もありきたりで、九月の気温に合わせるような服装。パーカーにスキニーパンツとかなりラフな格好だ。
「お待たせいたしました、悠斗くん」
待ち合わせ時間の三十分前だというのに、すでに合流を果たすあたりは彼女も使用人らしいというべきだろう。ただ、「使用人の休日」にしては、いつもより丁寧に施されたメイクや、普段のクラシカルなメイド服とは全く違う私服の彼女があまりにも新鮮で――いやでも鼓動が早くなってしまう。
「あの……何か、変でしょうか。華凛様と朱莉様から『これで行きなさい』と半ば強制的にコーディネートされたのですが……」
「いえ、決して変などということはありません。非常に……その、よくお似合いです」
いつものポーカーフェイスを維持しようと必死に声を絞り出すが、視線をどこに置いていいか分からない。あの二人の令嬢にコーディネートされたからか、本人のチョイスもあるのかとても似合っている。
「ではいきましょうか……」
「あ、待ってください! 大和様からのメッセージです」
誤魔化すように入園口の方を向こうとすると、パーカーの裾をクイ、と小さな力で引っ張られた。そのささやかな抵抗に、悠斗の足は自然と止まってしまう。
「大和様から、ですか? このタイミングで一体……」
ポケットからスマートフォンを取り出そうとする悠斗に、瑠衣が自分の端末の画面を少し恥ずかしそうに見せてきた。そのトーク画面には日ノ内家の次期当主からの、ボイスメッセージが送られてきている。
『華凛と話し合ったんだけど、下見もちゃんとデートのようにしてほしいから敬語はなしで! 富士見、悠斗くんとよろしくね』
「……」
「ということでよろしくおねがい……いや、よろしくね、悠斗くん」
「……っ」
「悠斗くんもほら……。私だって恥ずかしいから……」
言い直した瑠衣の顔は、耳の裏まで真っ赤に染まっている。いつもの凛とした佇まいはどこへやら、照れ隠しのようにツンとすまそうとしているが、繋がれたスマホを持つ手が微かに震えている。
「しかし……!」
「大和様からの命令だから」
「……本気、ですか」
「うん。仕方ない」
世の中を、自分の置かれているイレギュラーな環境を理解してから、悠斗は誰かに敬語を外して話すことなどほとんどなくなっていた。それは業務だろうが、私生活だろうか変わらない。それが月若の使用人としての責務で、常識で。
だけど今日は違う。これは主人からの命令。
「……わかった。行こう、瑠衣さん」
ぎこちない二人の遊園地デート。
これから先何が待っているか、二人はまだ知らない。




