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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
2章 夏休み編

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27 執事とメイドのトラブル

 スコールが近づいているということで、一行は予約しているヴィラへと移動することにした。両家とも別の島に本宿があるが、四人が気兼ねなく過ごせるようにと、特別に手配してくれた専用のスペースなのだという。


 クルーザーを降り、桟橋を渡ってヴィラへと向かう道すがら、華凛が思い出したように呟いた。


「そういえば、パパたちのところから直接こっちに来たから、部屋の中をまだ見てないのよね」

「そうですね。今、富士見さんが確認してくださっているので少々お待ちしましょうか」


 そう言ってパラソルの下で三人で話していると、瑠衣はなにやら困ったようにこちらへ近づいてくる。


「申し訳ございません。何かの手違いで、ヴィラを二棟取ってしまったらしく……どういたしましょうか?」

「二棟、ですか?」


 悠斗が問い返すと、瑠衣は困惑を隠せない様子で手元のタブレット端末を差し出してきた。画面を確認すると確かに日ノ内家が手配の際に使う偽名で、二棟が重複して貸し切られている。


「うちの秘書課がそれぞれ、良かれと思って手配してしまったようです。結果として、あのエリアのヴィラが二週間も貸切状態になっております。実際には一棟しか使いませんので、キャンセルしようかと思ったのですが……」

「でも、今からキャンセルしても全額請求されるでしょ? ならそのまま取っておけば、雨とか船出ないときに泊まることもあるかもしれないじゃない」


 各々、本来の別荘には家族も滞在しているため、ここに常時寝泊まりするわけではない。結局のところ一棟は無駄になってしまうだろうが、華凛の言う通り、キャンセル料が全額かかるのであれば無理に手放す必要もない。


「泊まりですか……。そうなると問題が」

「部屋割りね。まぁ――」


 ここは流石に男女でだろう。この四人の関係性が特殊の為、この部屋割りはどれもメリット・デメリットがあるがそれが一番問題がない。


「男女で分かれますか。――えぇ……」

「私と大和が同じ部屋でしょ。――はぁ?」


 同時に発せられた二人の声が重苦しく交差した。

 冷静に呟いた悠斗の声と明るい華凛の声。


「言い分けないでしょ。それが三つの選択肢で一番良くない択ですから」

「はぁー? そもそもここをとってる理由は何よ?」


 それは華凛と大和の恋人関係の為。日本では、目を気にしないといけない秘密の関係を、ここでは気にせず羽を伸ばしてくれというもの。そして二人だけでは警備の危険があるため、悠斗と富士見がいる。


「しかしそうなると片方が……」


 悠斗が視線を向けた先では瑠衣がタブレット端末を胸に抱えたまま、あからさまに戸惑った表情で佇んでいた。


「そうよね……。るいるいと悠斗が二人きりって、それこそ『あたりさわりない恋愛』の十七巻の――」

「華凛様、そのお話はもう結構です」


 瑠衣が引きつった笑顔で華凛の言葉を遮った。その耳の裏がうっすらと赤くなっているのを見逃さず、華凛はさらにニヤニヤと笑みを深める。


「じゃあ、他にどんな選択肢があるっていうのよ?」

「いいこと思いつきました! 私はそこら辺の砂浜で寝るので、富士見さんが――」

「却下」


 ポツ、ポツ、とパラソルを叩く雨音がいよいよ本降りの兆しを見せ始めた。


「お嬢様、大和様。これ以上の議論はヴィラの中で行いましょう。まずは一棟目へ」


 悠斗は有無を言わせぬ手際で大和の荷物を引き受けると、迫りくるスコールから主たちを守るため、足早にヴィラの扉へと二人を促した。


 重厚な木製の扉を開け、冷房の効いたヴィラのリビングへと滑り込む。それとほぼ同時に、外ではバラバラバラッ! と、バケツをひっくり返したような激しい雨音が響き始めた。間一髪、スコールを回避することには成功したらしい。


「ふぅ……間一髪だったね。悠斗くん、荷物を運んでくれてありがとう」

「いえ、大和様。お怪我や濡れたところがなくて何よりです」


 大和から差し出されたタオルを受け取りつつ、悠斗はリビングの全貌を見渡した。床の一部が頑丈なガラス張りになっており、足元を色鮮やかな熱帯魚たちが泳いでいくのが見える。確かに最高級のヴィラだ。しかし、いま直面している問題はロケーションの素晴らしさではない。


「私は意地でも大和と同じ部屋がいい。なんならるいるいも。悠斗あんたはいいわ、いつも一緒だし」

「……ひどすぎる」


 リビングの贅沢なソファに腰を下ろした華凛が、ふんぞり返りながらスマホをいじっている。その隣では、大和が「僕は本当にどれでも構わないよ」と楽しそうに微笑んでいた。


「……はぁ。わかりました。富士見さんと私で同じ部屋に泊まります、それで構いませんか?」


 悠斗が諦めたように小さくため息を漏らすと、瑠衣の腕からタブレットがこぼれ落ちた。


「ほ、星原さん……?」

「あのお嬢様を説得するのはたぶん無理です。今も私達の話を聞かずスマホを見ていますから、結果は分かったものです」

「ですが……っ」

「安心してください。そもそも泊まる条件をそろえなければいいのです」


 悠斗はいつも通りの涼しい顔のまま、人指し指を一本立てた。


「そもそもお嬢様は、泊まることになるのは『雨とか船が出ないときに泊まることもあるかもしれない』時です。ですので両家と連絡を取り、どうにかして帰れる形にすれば問題ないのです。おまけにここは両家の宿の丁度間の島です」

「た、たしかに……」


 そもそも、泊まってもいいよと言うものなので泊まらなければいい。何なら、この雨が止んだ後にクルーザーを出せば帰ることはできる。


「……さすがは星原さん、素晴らしい臨機応変の機転です。それなら何の問題もありませんね」

「なるほどね。お互いの本宿まで船で一時間ほどだし、それなら――」


 悠斗の完璧な提案に、瑠衣が救われたような表情を浮かべ、大和も納得したように頷く。

 しかし、その安堵の空気を底抜けに楽しそうな声が邪魔をする。


「悪いけど、今日はこの後さらに荒れるから、もう船は出せないみたいよ?」


 華凛がスマホの画面をこちらに向けながら、これ以上ないほどの満面の笑みで言い放った。

 画面には、今日一晩雨を知らせる通知が表示されている。

 外を見れば、先ほどまでのポツポツとした雨はどこへやら、視界が真っ白に染まるほどの凄まじい豪雨へと変わっていた。


「……『本日中の出航は、厳しい』そうです。星原さん」


 さっきまで救われたような顔をしていた瑠衣の表情が一気に硬いものへと変わっていった。


「じゃあ、お泊り決定ね?」


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