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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
1章 一学期編

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2 執事とメイドの渋谷デート(1)

「わざわざいいですよ。私一人で行ってきますから」

「あんたの話を聞いた上で、『どうぞいってらっしゃい』なんて頼めるわけないでしょ」


 向けられる視線は余計に冷たいものになる。そこには呆れや哀れみがこもったような目だ。


「大和には私から頼んどくから。あんたは明日、渋谷ハチ公にお昼ごろ相手と待ち合わせしなさい」

「はぁー……。承知いたしました」

「ちゃんと私服でいきなさいよ! デートの下見なんだから!」


 お嬢様からの命令ということで悠斗は断れることもなく、納得のいかないまま部屋を後にした。


 ◇


 迎えた土曜日。

 山手線に揺られて向かった渋谷のハチ公前は、インバウンドの外国人観光客たちでごった返していた。

 誰もが銅像へカメラを向ける中、なぜか特定の方向を指をさし色めき立っている一団がいる。


 悠斗も気になり顔を向けるとそこには――メイド服を着た女性が立っていた。


 艶やかな黒いロングヘアは低い位置でまとめられ、その上には髪一本乱れることなくメイドキャップが戴かれている。ヴィクトリアンスタイルのメイド服と高い身長も相まって、圧倒的な雰囲気を醸し出している。

 たぶん……いや確実にこの人が華凛のいう日ノ内の使用人だろう。


「あ、あの……」


 躊躇しながらも恐る恐る声をかけると、顔をあげ悠斗のほうに振り返ってくる。


「お待ちしておりました。大和様のご命を受け本日ご同行させていただきます――富士見瑠衣です」

「は、はい。星原です、お願いします……」

「星原様、本日はよろしくお願いいたします」


 こんなにも綺麗な人が来るとは思っていなかったため、悠斗は上手く言葉がでなかった。普段から月若華凛という美少女と接しているが目の前にいる彼女は系統が違う。可愛い系の華凛に対して、目の前の瑠衣は美人系。


「なにかゴミでもついておりますか?」

「あの……。そ、その綺麗だなと思いまして。流石、日ノ内のメイドですね。所作や姿勢も洗練されておりますし」

「……」

「す、すみません!!! いつもの癖で!!」


 悠斗は勢いよく頭を下げた。これは悪癖というべきか、月若の執事としての弊害。

 常日頃から華凛のファッションショーの審査員をしている弊害で、容姿に関して思ったことはすぐに褒めることにしている。

 それが初対面であるはずの瑠衣の前でも思わず出てしまった。


「……いえ、問題ありません。では行きましょう」


 赤く染まった耳に髪をかけながら、瑠衣はスタスタと先に進んでしまった。

 悠斗も緊張のあまり、がちがちに固まって後ろをついていくことしかできなかった。


 駅を抜け路地裏まで歩いている悠斗は、やけに乾いた口を水で潤しながら終始そわそわとしていた。

 落ち着かないのは、自身の前を歩く瑠衣の存在。


 生まれてから華凛以外の女性と出かけるなんて初めての経験。普段であれば、お喋りである華凛の影響で話題に困ることなどはないのだけども、今回はそうもいかない。

 会話のない無言の間を誤魔化すように、悠斗は声をかけた。


「富士見さん。今日のことはなんと聞いていますか?」


 すると、瑠衣はサッと振り返りまっすぐな視線を送ってきた。


「『プライベートの延長でいい。富士見のことは信用しているから、楽しむことを優先してくれ』と仰せつかっております」

「あはは……そうですか……」


「プライベートの延長でいい」と言われた割に使用人としての正装のメイド服を着ている。反して悠斗はTシャツにワイドパンツとラフな姿。相反する二人の恰好もあり周囲からの視線も痛い。


「……」


 そしてまたも無言。やっぱり会話を続くことはない。

 悠斗は現状打破のため次なるジャブを打っていく。


「あの……富士見さんってお年齢は?」


 会話デッキとして「女性の年齢を聞く」と言うのは悪手だというのは、悠斗としてもわかっていた。だけど目の前の女性の年齢間が分からなければ会話の広げようがない。――と心の中で言い訳をする。


「……年齢。十六歳で高校二年生です」


 同い年でしかも同じ学年。あまりにも大人びた容姿なため、年上だと委縮していたがそれは見当違いだった。


「では富士見さんと俺は同い年ですね。お嬢様も一緒です」

「……そうなのですね」


 瑠衣は表情を崩さないまま小さく頷いた。

 同い年。それを知ったところで二人の間に流れる重苦しい沈黙が軽くなるわけではない。


「あのこれなら俺も燕尾服で正装したほうが良かったですかね?」

「いえ、それだと逆に違和感があります」

「あ、はい」


「普段ってどのようなことをしていますか?」

「……メイド長から与えられた使用人業務ですね」

「ソウデスヨネ」


 どんな話題を振ろうがそっけない返答しか返ってこない。全くと言って盛り上がらない。

 あまりの温度差に涙目になりながらも悠斗は歩みを進めるしかなかった。

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