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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
1章 一学期編

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16 執事と連絡先交換

「一学期末の成績がでたから、みんな確認してね」


 担任のその声と共に、教室内が一気にざわつき始めた。廊下に貼り出された学年上位者の順位表を前に、生徒たちが一喜一憂の声を上げている。


 自主採点をしたら、英語のケアレスミス以外はすべて完璧だった。これなら一位はいけるのではないか、淡い期待を抱きながら悠斗も廊下に出ることにした。


「えっと……星原、星原」


 下から名前を探していくと上の方に名前があった。ただ想定外だったのは、自分の上にもう一つ名前があることだった。


「負けた。まじかあの点数で……」

「星原さん。約束通り、今回は勝たせていただきました」


 彼女の無表情な口元が、ほんのわずかに勝ち誇ったように緩んだのを悠斗は見逃さなかった。悔しい。悔しいが、結果は事実として目の前にある。それに今回の敗因であるケアレスミスは自身の慢心だ。


「参りました。完敗です。……さすがは富士見さんですね」


 悠斗がため息をつくと、瑠衣は一歩距離を詰めてきた。


「では、星原さん。勝負は私の勝ちですので……約束通り『ご褒美』を請求させていただきます。覚悟はよろしいですか?」

「……はい」


 ◇


「るいるい。悠斗へのご褒美なにするの?」

「それが悩んでいます。……検討していることが数個ありまして」


 華凛と富士見が珍しく二人で話していた。これは、各々がご褒美をもらう側通しの話し合いのため、悠斗も大和も話に入ることはできなかった。一体どんな要望が出るのか戦々恐々としていた。


「ねぇ悠斗、大和。お願い二つでもいいわよね」

「あ、はい。問題ございません。敗者に口なしです」

「僕も問題ないけど、高いのはやめてね」


 今更一つや二つ増えたところで変わらないだろう。それに瑠衣であれは無茶なお願いをしてくることはないと、高を括っていた。


「女性陣決まったよー! まず私からね」


 パンッと勢いよく両手を合わせ、華凛が満面の笑みで宣言した。


「私から大和へのお願いは、夏休みまでに二つ。一つはプリクラを撮る。二つ目は私の水着を選んでもらう。これでお願い」

「あ、はい……。分かった、頑張って選ぶよ」


 大和が顔を真っ赤にしながらも、覚悟を決めたようにコクコクと頷いた。悠斗は内心で「大和様、お気の毒に……」と静かに合掌する。プリクラはともかく、二つ目はなかなかハードルが高い。


「大和の言質は取れたわ。 じゃあ次はるいるいの番ね。ほらちゃんと言いなさい?」

「はい。私から星原さんへのお願いは『お部屋に来てほしい』と『連絡先を交換してほしい』です」


「……はい?」


 突如として美術室に投下された爆弾発言に、悠斗の思考は完全にフリーズした。


「ではまず連絡先から」


 そう言ってスマホを取り出すと、上目遣いでこちらを見つめてくる。確かに瑠衣とは連絡先を交換していなかったが。悠斗も流されるようにプライベート用のスマホを取り出した。


「お嬢様。その月若としては大丈夫でしょうか? いくらプライベート用でも日ノ内の連絡先が入っていると問題かと」

「大和の連絡先を持ってるわけじゃないから大丈夫でしょ? それにあんたのそのスマホなにも入っていないでしょ」

「……そうですね」


 悠斗はスマホを二台持ちしている。月若の業務用とプライベート用なのだが、プライベート用はほぼ使用していない。旦那様から、中学入学と共にプレゼントされたが三年間で手にしたのは片手で数えられる程度だ。


「わかりました。その……お恥ずかしながら『連絡先を交換』というものがしたことがなく。やっていただいてよろしいですか?」

「それは……初めてということですか。わかりました」


 悠斗が差し出したプライベート用のスマホは、初期設定のまま。まっさらの状態だ。


「では、端末をお借りします。……失礼しますね」

「ふーん……悠斗なにも入ってないのね。こっちが切なくなってくるわ……。私が頼み込んで仕事減らしてもらいましょうか?」

「そこまでではないですよ。仕事が第一ですから」


 背後から哀れむような視線を送ってくる華凛に、悠斗は眉をひそめて抗議する。


「星原さん。こちら、私の連絡先の登録が完了しました。今後はこちらに連絡ください」

「わかりました。そのように……」


 手際よく画面を操作し終えた瑠衣が、スマホを両手で丁寧に返してくる。

 そこにはさっきまで存在しなかった『富士見 瑠衣』という名前のアカウント。


「あれ、このぬいぐるみって……ゲーセンでとったやつですね」


 アイコンに映っていたのは、この前悠斗が取ったペンギンのぬいぐるみだ。

 その一言で美術室の空気が一瞬で凍りついた。


「……っ!」

「え、何それ私聞いてないんだけど!」

「僕も聞いてないなぁー富士見教えてよ」


 いい獲物を見つけたといわんばかりに、華凛と大和が茶化しをいれる。思わず口に出したがこれは「まずかったのか?」と悠斗もそれを見て焦ってしまう。


「そ、それは……っ、その……! 違いますこれは……たまたま! 間違えてこれになってただけ他意はないんですよ!!」

「他意がなくて間違えてこれになるわけないでしょ! るいるい、言い訳が苦しすぎるわよ」

「そうだよ富士見。カメラロールからわざわざその写真を選ばないとアイコンには設定できないはずだし……それに、間違えて設定したならどうしてそんなに顔が真っ赤なの?」


 普段はクールでできるメイド。学校では生真面目な隣の席の女子と言う感じの彼女がこんなにも声を荒げるなんて珍しいなと思ってしまった。



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