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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
1章 一学期編

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13 執事とメイドのショッピングモールデート(2)

 瑠衣にネクタイピンを買ってもらった後、二人は様々な店を回った。

 しかし、使用人同士という関係性のせいで、目に入るものすべてをどうしても業務に結びつけてしまう。結局、「普通の高校生のデート」を探り探りやってみたものの、大した手応えもないまま一階に到着してしまった。


「一通り見終わりましたね。もう他に見る場所なんて……」

「そうですね。あとは食品売り場くらいですから。では、今日はこれで解散しますか」


 瑠衣にプレゼントをもらいっぱなしのまま帰るというのは、悠斗としては少し気が引けるものがあるが、これ以上何も浮かばない。

 そのまま出入り口に向かおうと歩いていると、目の前から手を繋いだカップルが歩いてきた。


 その制服は悠斗たちと同じものだったが、見覚えがないので他の学年の生徒だろう。通り過ぎる二人を横目で見ていると、その手には「GAME」とロゴの入った大きな袋が握られていた。


「何ですかね、あれは」

「この下にあるゲームセンターかもしれません。私は行ったことがないので、どのような場所かは分かりませんが」

「先ほどのWeb記事には入っていませんでしたが……普通の高校生があれほど親密そうに楽しめているのなら、行ってみる価値はありそうですね」

「そうですね。ぜひ行ってみましょうか」


 二人は来た道を戻り、地下へと続くエスカレーターへと足を向けた。


 フロアを降りると、そこは先ほどまでいた場所よりも随分と薄暗く、ズンズンと響く重低音や賑やかな電子音に満ちていた。あまりにも未知すぎる空間の熱気に、悠斗の理解はすぐには追いつかず、何ができるのかをただ呆然と眺めることしかできなかった。


「ここはお嬢様達を連れてこれないですね。治安が……」


 お世辞にも華凛のような人間が来る場所ではない、と悠斗は思った。大音量の電子音が響き渡り、チカチカと明滅するネオンの光は目にも優しくない。ここはデートには不向きだ、と悠斗は瑠衣に声をかけた。


「流石にここは……」

「そうですね。ですが、今後のデートの参考にはなるかもしれません。どこか空き倉庫を借り切って機体をいくつか搬入すれば、これと同じような専用スペースを作れそうです。それであればセキュリティも万全ですし、お嬢様方も安全に楽しめるかと」


 瑠衣の思わぬ言葉に、「え?」と悠斗は思わず声を漏らし、隣に立つ彼女の横顔を二度見してしまった。悠斗がツッコミを入れる間もなく、瑠衣はきらびやかな一角を見つめた。


「星原さん。あそこにある『クレーンゲーム』とやらをやってみましょう。先ほどのカップルも、あの機械から景品を獲得していたようです。実際に体験して、仕様を確かめる必要があります」


 そう言って、瑠衣は迷いのない足取りで筐体へと歩き出した。悠斗も彼女の発言の真意が掴めないまま、ただついていくしかなかった。


「これは……」


 そこには強大なアームと何かのキャラクターのぬいぐるみが置いてある機械。周りを見るとここにお金を入れて、アームを駆使して景品を取るものらしい。


「やってみますね私」


 瑠衣は財布を取り出すと百円玉を二枚、機械に投入してアームを動かした。機械から軽快なBGMが流れ出すと同時に、瑠衣の目の色がサッと変わった。


「アームの軌道は二次元の動きをレバーで操作する。そこから自動下降し高さは不確定になる。アームの強さは分かりませんが……」


 瑠衣がぶつぶつと何かを考えているが、タイマーの数字が減っていっている。


「富士見さん、もう制限時間が」


 悠斗の焦る声を余所に、瑠衣は迷いのない手つきでレバーを動かす。アームが下がりぬいぐるみのタグにかかった。これは上手くいったのだろう。そう思った矢先、アームが上がると同時にあっけなく爪からすり抜けて、元の位置へと転げ落ちてしまった。


「おかしいですね。これであれば重力や重心のかかり方から上手くいくと思ったのですが」


 瑠衣の言う通り、彼女の狙いは非の打ち所がないほど完璧だった。しかしその完璧な計算ももってしても、上手くいかなかったのにはこのゲームセンターなりのなにか設定があるのだと、すぐに察知した。


「富士見さん、今度は私がやってみていいですか?」

「星原さんが、ですか? ……分かりました」


 瑠衣が一歩後ろに下がって場所を譲ると、悠斗は自身の財布から百円玉を取り出して投入した。先ほどの瑠衣の動きを真似してレバーを動かすが、今回違うのは「引っ掛ける」のではなく「押す」ことにした点だ。


 悠斗の思惑通り、下降したアームの太い爪がぬいぐるみの端を力強く「グッ」と押し込んだ。その反動でぬいぐるみのバランスが崩れ、そのままコロンと獲得口の隙間へと落ちていく。


「はい。取れましたよ。どうぞ、富士見さん」


 悠斗は取り出し口からぬいぐるみを取り出すと、呆気にとられている瑠衣へと差し出した。


「すごいですね。まさか一回でとれるなんて」

「それは富士見さんが最初にやってるのを見れたからですよ。それに手先は器用とよく言われますから」


 華凛や他の使用人にも器用さを重宝されている。まさかその特技がここで生きるなんて全く思っていなかったが。


「すみません。実は特別これがほしいというわけでは……なかったです」


 確かにここまで歩いてきた中で、彼女がどこかの店舗によることはなかった。今回も一番近くにあった筐体がこれだから選んだだけだろう。


「そうなんですか。ならそれはこちらで――」

「いえ、これはいただきます」

「……よろしいのですか? これではさきほどいただいたネクタイピンに釣り合いませんが」


 先ほどいただいたものは数千円とするネクタイピン。しかしこちらから渡したのは二百円のぬいぐるみ。いくら日ノ内からお金が出ているにしても申し訳ない気持ちがある。


「釣り合うなど関係ありません。そ、そのぉ……」

「はい?」

「異性からプレゼントを貰うのは日ノ内の方以外では初めてです。だからこれは釣り合います。私に体験をくれたぬいぐるみですから」


 そう言うと、両手に抱えたぬいぐるみを嬉しそうに抱えている。相変わらず表情の変化は乏しいが、ぬいぐるみを凝視する瞳はどこか柔らかく見える。


 その姿に悠斗は形容しがたい未体験の気持ちになっていた。


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